ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私にドラゴンはご褒美デス。

美杉。節約令嬢、書籍化進行中

予定断罪は過去の記憶を添えて

「ルナティア! ボクは政略結婚せいりゃくけっこんとかそーいうのじゃなくて、ちゃんと愛するから。だからボクの妃になってくれ」
「……アイザック様」

 アイザックは先ほど摘んだばかりの小さな花の束を私に渡した。
 真っすぐな青い瞳と風に揺れる、金色の髪。

 つい先ほどアイザックの父である国王様と、公爵こうしゃくである私の父との間で私たちの婚約が結ばれたところだった。

 貴族の結婚は親が決めるもの。
 幼い私たちもそれは知っていた。

 だから私たちの婚約が必然とはいえ、どこか夢のない未来に悲しくなっていたのも本当のこと。

 アイザックのことが嫌いではない。
 でも恋すらすることも出来ない。
 ううん。
 自分で好き嫌いを言うことも、出来ない。

 物語みたいな恋物語はあの瞬間、もう一生来ないんだって。
 それが何より悲しかったんだけど。

「ありがとうございます、アイザック様」
「おう」
「良かったねー、ティア。アイザック様なら、きっと幸せになれるわ。二人とも、すごくお似合いだもの」
「貴族間の結婚は愛がないとはいえ、これなら大丈夫そうですね。この国も安泰あんたいだ」

 私たちのやり取りを見ていた幼馴染である侯爵令嬢のサーシャと宰相さいしょうの息子であるランドが声をあげた。
 こうやって四人でこんな風に中庭で隠れて遊ぶのも、今日で最後になるだろう。

 私は明日からお妃教育が始まり、アイザックも国王になるための教育が始まる。
 子どもらしい時の最後に、それでも四人でこうやって笑うことが出来て私はただ幸せだった。

「ふふふ。みんな大好きょ」

 どんなに辛い事がこの先あったって。
 この思い出があればあれば。
 この大切な人たちがいれば。
 お妃教育がキツクても、どれだけ嫌な未来が待っていたとしてもきっと大丈夫……。
 私なら乗り越えられるわ。

 そう思っていたのだけど――



「ルナティア! お前は自分がしてきた重罪じゅうざいを分かっているのか‼」

 玉座に座り、眉間に深いシワを寄せたアイザックが大きな声を上げた。
 そのあまりに大きな声に、私は現実に引き戻される。

 こんな場でこんな仕打ち。
 私はハメられたのね。

 本来私が座るはずだった玉座の隣には、怯えた様子のサーシャが座っていた。
 そして玉座の前で騎士たちに後ろでに組み敷かれ、床に這いつくばらされている私。

 『お前のしてきたこと』そんなもの知るわけもない。
 でも何度私が声を上げても、アイザックは聞く耳など持たなかった。

「自分のいたらなさをサーシャをいじめることで晴らすなど、言語道断だ!」
「私のいたらなさ?」

 鼻で笑いそうになるのを、必死にこらえた。
 今日この瞬間まで、誰よりも努力してきたというのに。

 アイザックが国王としての教育をサボる間も、私という婚約者を無視してサーシャと仲睦まじくしている間も。
 家に帰ることすら許されず、ただお妃教育に明け暮れていた。

 それは言葉でなんて言い表せないほど、苦しいものだった。
 家族をどれだけ思っても、休みたいと願っても、全てはこの国のためにと我慢させられてきたというのに。

「そうだ! 自分が妃に向いていないから、サーシャに執拗しつようないじめをしてきただろう。おまえとサーシャとでは器が違うのが分からなかったのか!」

 器ね……。
 何もせずに、ただアイザックの隣にいただけのサーシャ。
 しかも私の一番の味方だという顔をしながら、その実全てを奪っていっただけじゃない。

「私は何もしておりません」
「まだ言うか! サーシャのモノを燃やしたり、水をかけたというのは分かっているのだぞ!」
「それはどれがいつのことなのでしょうか? 妃教育は毎日、全ての時間において教師が傍についております。私にはそのように自由に動き回る時間などなかったはずですが?」
「み、見たという人間がいる!」

 どうせ、あなたかサーシャの取り巻きでしょう。
 そんな証言にどうして信ぴょう性があると思えるのかしら。

 むしろ先生たちは、交代で私を監視するようにずっと一緒だったのよ?
 それこそ協力関係すらないのだから、そちらの証言の方が信ぴょう性があると思うんだけど。

 でも私の父すらこの場に呼んで断罪している辺り、すべて予定通りなのでしょうね。
 この場にいるすべての人間にとって。

「アイザック様以外も、皆その話を信じられたのですか?」
「当たり前だ。だからこの場に、関係者が呼ばれているのだろう」

 私はゆっくり周りを見た。
 国王様と王妃様以外、確かに関係者はそろっていた。

 私の父やサーシャの父。
 それに現宰相となったランドと、ランドの父。

 この国の主要メンバーが揃っている。
 だからこの場での決定は、そのまま私の罪となる。

「……そうですか」

 こんな時すら、父は私に無関心なのね。
 まぁ、助けてなどくれないことは分かっていた。
 この人にとっては、私なんかよりも家が大事だものね。

「本来ならば、極刑に処したいところだが……」
「アイザックさまぁ、さすがにそれは可哀想ですわぁ。いくら罪を犯したとはいえ、ルナティアはアタシたちのお友だちだったではないですの?」

 だった……。
 もう過去形なのね。

「サーシャ、君は本当に優しいな。ルナティアとは大違いだ」

 熱のこもった瞳でアイザックは隣に座るサーシャを見つめた後、その手を握った。
 そしてサーシャはアイザックからの言葉が満足だったのか、微笑み返す。

 とんだ茶番だわ。
 初めからアイザックが欲しいのならば、私の代わりにお妃教育だってしてくれればいいのに。
 でもそうね……。
 これでようやく私も解放される。

 あんな苦しさも孤独さも、もう感じなくていいんだわ。
 もう本当に……どうでもいいわ。
 ココじゃないのならば。

「大罪人であっても、お前には利用価値があるからな。北の獣人国じゅうじんこくに嫁いでもらう!」
「獣人国……」
「せいぜい、ここで習ったお妃教育を活用するがいい! まぁ、人の言葉が野蛮なケモノに通じればいいがな!」

 私は誰にも気づかれないように、ただため息を吐き出す。
 次期国王とは思えない下品なアイザックの笑い声が、私の思いも全てかき消してくれた。

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