カワイイ俺の下克上

冠つらら

9 風と共に

 進路を切り開く第一歩としてミスコンに望みをかけることは決めた。
 けど覚悟を決めたからと言ってポイントを稼ぐにはどうすればいいのだろうか。

 エントリー制ですらないということは、誰がライバルなのかもハッキリしない状態とも言える。
 全校生徒に可能性がある。でも興味がなくて積極的に動かない生徒もいれば闘志ギラギラの生徒がいてもおかしくはない。普通のコンテストみたいにライバルが目に見えて分かる方が楽だな。

 誰かと競うことなんて縁がなかった俺が思わずそう思ってしまうほど、俺はこの先の計画がいまいちつかめなかった。なにせこんなに前向きになったのは藤四郎時代合わせてもはじめてだ。
 ジアが心配してくれたように、そもそもゾーイはこのコンテストに不利だ。どんなに愛想を振りまいていい人アピールしたところで効果は見込めない。つまりはまず皆と同じ土俵に上がる必要があるってことだ。

 スタートラインが誰よりも遠いことは自覚してる。じゃあ、こうやってうじうじ考えてる暇もないな。
 午前の授業を半分くらい上の空で受けていた俺は、昼休みのチャイムを自分への渇とした。

「よっしゃっ!」

 机を叩いて立ち上がる。周りの生徒は見向きもしない。ただ一人、びっくりして教科書が手から滑り落ちていったジアを除いては。
 俺はジアとともに今日も食堂へと向かった。

「あれ? ゾーイ、もう食べ終わったの?」

 食券をカウンターに渡してから十分も経たないうちに、俺は今日の昼食を終える。

「うん。時間が勿体なくて!」

 空になった食器が乗ったトレイを持ち上げ、ラーメンを口に運ぶ途中のジアに笑いかける。

「え? なにか用事あったっけ?」
「ううん。ないよ。でも、これから作ってみせるから」
「へ?」

 ジアは意味が分からないと首を傾げた。

「ジアはゆっくり楽しんでね」
「え? う、うん」

 気合いが逃げ出す前に俺は急ぎ足で食堂を出る。
 ジアに言った通り、この休み時間に特に用事などない。まだジア以外の生徒ともまともに会話したことがないし、先生との遭遇すら出来る限り避けてきた。
 しかしそんなことをしていてはミスコンに勝てる見込みなどゼロだ。

 ポイントがどうやって積み上がっていくのか、生徒たちは詳しいことを知らないらしい。
 どうやら生徒会と教師たちが日々の様子を視察して加味していくそうだ。何が大きなポイントとなるのかも公表されていないし、不透明過ぎて出来レースも疑った。
 でも一応のところ審査におかしなところはなく、善良な生徒を意識して生活すればきちんと見てもらえてるとのこと。

 ある意味で気楽ではある。だが俺にとって、この”見てもらえる”ってところがあまりにもネックだ。
 まだ学校に通い始めて二日目だが、それでもゾーイがこの場では空気と同じってことは十分に実感した。
 生徒会や教師たちが、そんな”空気”をしっかりと見てくれる保証があるのだろうか。
 “空気”だからこそ都合よくはぐらかされるってこと、ないとは思えない。

 だから俺は、まず自分の顔を売ることにした。
 誰の視界にも入らない自分。ならばまず、ゾーイの存在を皆に知ってもらおう。
 何をすれば知ってもらえるのか、人気者とは無縁の俺は見当がつかない。
 でもじっと座っているだけじゃ何も変わらないってことだけは誰よりも分かってる。

 とりあえずまずは教師たちにちゃんと認識してもらわなければ。生徒を相手にするよりもそっちの方が手っ取り早く感じた俺は、まだ昼休みに盛り上がっている校舎の外へと出た。
 生徒と比べたら教師の方が数も少ないし、きっかけとしてはいい。教師に印象を持ってもらうためには……。

 きょろきょろと辺りを見回してみる。
 昼ご飯を食べたり雑談をしたり、読書会をしたり……。憩いの場として設けられている広々とした立派な庭には大勢の生徒達の姿が見えた。
 今日は天気がいいからすごく朗らかな気候で、生徒たちはとてもリラックスしている様子だった。

 皆、天真爛漫な笑みをふりまいて何の心配事もなさそうな雰囲気。とにかく穏やかな空気が流れている。
 一人一人が太陽の光に負けじと輝いていて、彼らの未来は明るい。思わずそう思ってしまうほど。
 一方の俺は、木陰の下で誰にも気づかれない。
 彼らとは同じように生きられない。そんな嫌なコントラストをまざまざと見せつけられたような気がした。

「だめだめだめだめ」

 弱気になるな。
 俺は深い呼吸をして太陽を見上げる。
 お天道様はただ見ているだけ。じゃあ、せめて俺のことをしっかりと見ていてくれよ。
 視界が真っ白になるまで光を睨み続け、痛んだ瞳を閉じた。
 どんなことだっていい。あいつ何やってるんだって思わせるんだ。

 その時、俺に靴先に何か軽いものが覆いかぶさる気配がした。
 足元に転がるパンの空袋を拾い上げ、どこから飛んできたのかと周りを見る。でも皆は会話に夢中になっていて、パンの袋が飛んでいったことすら気づいてなさそうだ。当然誰が落としたものかもわからない。

 そこで俺はピンときた。
 そういやこの学校にはきちんと清掃員がいるけど、働く時間が決まっているのか意外とゴミが落ちてたりすることがある。
 もちろん落とし物もあるし、このパンの袋みたいに無意識にゴミとなったもの、中には意図的に捨てられたものもあると思う。

「そうだ……!」

 ベタ中のベタだけど、校内の清掃活動からはじめてみよう。生徒会はあるけど特別な委員会活動制度はこの学校にない。サークルという名の手上げ運動でしか生徒たちはこういった類の働きはしないという。
 今、校内の美化に関する活動をしているところはなかったはずだ。
 じゃあ、個人で美化活動を黙々としていったら教師たちの目に留まるんじゃないだろうか。
 怯みそうになっていた心にまた活力が戻ってきた。
 生徒たちの笑い声が風に乗って運ばれてくる。気分が少し軽くなった俺にもその声は不快なものには感じなかった。

「よし……! やるぞ……!」

 どんなに小さなことからでもいい。とにかく俺の存在をアピールするんだ。

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