消え残るアクアマリン

清水レモン

おれの席

 葉を散らして枝と幹だけの姿は、おおきな木であればあるほどカッコいい。
 おおきくて圧倒的だが、細く伸びている無数の枝ぶりは繊細に思える。
 あの木、登ったら気持ちいいだろうな。
 入学できたら、そんなこともできるのか。
 いや、そもそも木登りは禁止されているかもしれない。
 それに。

 制服で木に登る状況をイメージできなかった。
 できなかったけど、やれたらいいな。やれたらいいのに。と少し思った。思いながら、

 『あ。そこ、おれの席』 

 と発見する。
 まだ誰も座っていないのは当然として、教室全体的にも人まばら。パラパラだよ。少ないね。

 おれの席ここかあ、と少しだけ通り過ぎる。そのままゆっくり階段教室の傾斜を登っていく。いきつくところで振り返れば、騒々しいくらいに広々とした教室空間だった。
 誰かが話しているわけでもなく、機器がうねりをあげているわけでもない。なのに騒々しい。
 無言の静寂が、けたたましく感じられて。急に呼吸が苦しくなった。胃が焼けそう、なにやら熱いものを感じる。不調でもなく不具合でもない、いたって正常稼働の体。
 そうだ。
 おれは緊張している。
 なのにリラックスしてもいる。
 相反することが同時に、この体ひとつに発生中。
 息を吐くのがツライ。誰かに見られている気がしたけれど、おれが階段教室いちばん高い場所ひとりいるだけだ。根拠のない視線。見渡す空間。
 こうしていても時間はリズム刻んで過ぎている。
 試験開始まで余裕ありずきて、なにがなにやらもてあましそう。
 ひとつ、傾斜を逆戻り。板張り小さ目の段差つまづかないように意識しながら戻る。
 ほら、そこ。そこだよ、おれの席は。
 ああ、でもまた座りたくない。このまま通り過ぎてしまいたい。
 と脳内ひとりごと状態のまま、本当に通り過ぎた。
 
 ふーっ

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