消え残るアクアマリン

清水レモン

ドラマのようにはならない

 敷地は自然な傾斜の、ゆるやかな坂。流れで登れば違和感なしの、ついつい足に力が入る。
 あまりにも自然に動いてしまった。ここがどこか正しいのかなんて自問自答することもなく、校門に敷かれたレールを斜め上から見下ろしている。
 
 ドラマのようには、ならないか。

 おれが主役だと思ってたんだけどなあ。

 気を取り直してスピードあげて進めば階段のお出迎え。
 眩しい朝日と対照的に暗く広がる軒下空間だ。

 「こっちだぞー」
 と軽い声が聞こえた。その方向に人影。ん? 
 先生、なのか。
 ひょっとして塾の。と思った瞬間、あきらかに予備校や塾とは雰囲気の異なる大人の姿。
 だが間違いない、教師だ。つまりこの学校の。そもそも敷地内には部外者の大人なんて入れないだろうし。

 「おはようございます」おれは立ち止まり声を出しながら会釈する。
 「おー。おはよ。そのまま階段のぼってなー」
 「ハイ!」
 会釈し終えて顔をあげると、目と目が軽く合う。遠いけれど近い距離感だな。

 なんだろう、思わず笑っちゃいそうな気の抜け方。いやもうすでに笑っていたかもしれない、おれは。肩肘張らずにとぼけた感じにすら見える教師らしい大人その佇まい。

 『これから受験する学校の先生の前で腑抜けて笑った顔をさらしてしまったかな?』
 と思った時には、すでに遅い。
 もしも挨拶そのものが試験の一環だとしたら、おれはすでに油断していたことになる。
 だかこうなってしまったら、もうしかたない。
 気持ちを切り替えよう。

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