消え残るアクアマリン

清水レモン

直線ラストスパート

 しっかりマスクをしてスーハー呼吸いつものようにしているだけ。
 なのにマスクの内側がびっしょり。
 しかも、なんだろう、なんていうのかな。
 マスク生地そのものなのか唾液の匂い?
 もしかして濡れちゃったのか。
 と、マスクを片耳にかけた状態でティッシュで拭くと湿る。マスクの内側は見た目なんともないのに。薄いティッシュペーパーでササッとこすると、ほんのり湿る。なんなら部分的に、びしょ濡れだ。

 かつて、外出するとき、いつもマスクは一枚だけ渡されていた。
 これじゃ足りないんだよ、と説明しても納得してもらえなかったけど。
 いまではこうしてポケットにもカバンにも予備がある。
 根気よく両親と交渉し続けたおかげだ。

 もちろん、おれだけの成果ではない。実際に中学受験を体験していた姉の応援が大きい。姉がおれに味方してくれるとき、両親は初めて聞く耳を持ってくれるのだから。
 ひどいよホントまったく。どうしておれの話は聞いてくれないんだろうね?
 ヒートアップしていく脳内。とは正反対に落ち着いていく感情。
 ときどきこういう感覚になるんだけれど、よくわからない。

 って、なんだか地図で見て想像していたのと違う感じがしてきたな。この風景。
 日当たりのいい坂道が直線になり、目指す方向の先に巨大なゲートが見えてきた。おそらくラストスパートの段階、いよいよ。
 それにしても。
 
 たしかにまあ、学校の隣が寺院ではあるけれど。
 
 なぜだろう、なぜかわからないが。
 とてつもなく巨大きわまりない。圧倒的存在感に見える。
 お寺なら、うちの近所にもあるよ。たくさん。それこそこ大きな寺院や長い階段だって歩いたことがある。けれども、その比ではない。ないな、あんなの見たこと。
 比較対象外クラスによる圧倒。しかもまだ、こんなに離れているというのに。
 目の前に着いたら、どんだけ大きいことやら。

 おれは目をそらした。足元に注意する。なんていうことのない舗装された道路になっていた。アスファルトの段差で、そっちが車。こっちが歩行者。あらためて確認している自分がいた。ほとんど注意することなく無意識に足が自動的に進んで進んで進んでいる。もはや、おれの気持ちも意志もおかまいなしに。

 あ。
 なんかビルっぽいのが見え…
 と、認識すると、それはもうハッキリと校舎だと理解できる。
 徒歩15分、じゃなかったっけ?
 気分的には5分くらいしか歩いていないはず。
 それとももうすでに時間が経過している?
 左腕に時計があるけれど、よそ見をしたくなくてそのまま歩いた。

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