消え残るアクアマリン

清水レモン

この靴!

 この靴は、おれが選んだ一品だ。最高の逸品なんだよ?

 父はクリスマスプレゼントとして『入試当日の服装』を提案してくれた。母は乗り気で店から店へ。姉は冷静に『いやならイヤって言いなね?』とおれに耳打ちした。うん、わかってる。

 父は真っ白な、それはそれは美しくて軽快そうで、爽やかな感性あふれるスニーカーを提案してきた。
 おれは首を振って答える、『今日だけは自分で選ばせてください』と。

 なにを言ってるんだおまえは、「おとうさんが選んだのが最高に決まってるだろ」って父が笑いながら上機嫌かつ無慈悲に断りかけてきたけれど、

 「お父さま! 今日はアキラに自分で選んでいただきましょうよ? なにしろ実際に戦場に赴いて戦闘を繰り広げるのは彼自身なんですから」

 と姉が言う。

 「うん?」と一瞬なにか迷ったのか考えたのか父が言う、
 「それもそうだ。そっか、そうだな?
  ヨシッ!
  どれでもいいぞ、アキラ。
  お・ま・え・が選べ。
  好きな靴、とってみろ」

 それがいま履いている、この靴。

 色は漆黒で漆黒なる闇すなわち艶やかなるブラック光沢感ビシビシの黒。
 形は、がっしり。見た感じのとおり固い革。天然ものか合成か人工的なものなのか詳細はわからないが、おれはひとめで気に入った。
 なによりも、うたい文句にしびれてる。

 『防水撥水加工で優れた耐水性』
 レインブーツなみの防水効果が期待できそうだ。
 『耐油性』
 油にも強いんだって。レストランの厨房でも安心なんだって。
 おれがまじまじと見ていると店員さんが来て『よかったら履いてみてください』と言ってくれたっけ。
 右と左が細い樹脂糸で繋げられていて、履くのは用意ではなかった。正直、難儀した。けれども、履いているときに説明してくれた言葉を今でも忘れない。

 「水にも油にも強いんですよ」

 なんだよそれ控えめに言って最強じゃん。水と油、相反するふたつの要素に対して。
 さらには、

 「タグには書いてないけど、対滑性もあるんですよ~」
 「たいかつせいって、なんですか」
 「ひとことで言うと、すべらないんです」
 「すべらない!?」

 おれの大声に父が苦々しそうに笑いながら「声、おおきい」とおれの頭を拳固した。


コメント

  • 清水レモン

    【補助席さんへ】
    げんかつぎと実用性の両方を兼ね備えているのって、むちゃくちゃ心が躍るんですよね!
    コメントありがとうございます~

    1
  • 激しく補助席希望

    滑らない靴って…足元すくわれないようにって意味でも最強ですね!
    それは勝負時には装備したくもなりますよ。

    2
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