消え残るアクアマリン

清水レモン

あらかじめ調べておいたとおり

 『あらかじめ調べておいたとおりだな』

 おれは会場へと続く道を歩きながら思う。
 いよいよだ、いよいよ。いよいよなんだよ。中学受験の総決算、いまから挑む入試本番。

 『こんなもん…か』

 焦りはない。やれることは、やってきた。
 緊張? してるのか。どうだろう。
 
 自分の体に意識を向けてみた。指先が冷たい。冷たいのは空気か、それとも自分自身か。わからない。あいまいな境界線で区別が難しい。

 ふるえてる?
 まさか! まさかな? まさかだよ、ほんとうに。

 しっかり着込んだコート、念入りに直しては直してのリピートで首に巻いたマフラー。
 手袋は、していない。電車を使うからね、改札口を通るとき不便なんだ。
 なんてったって、落としたくないだろ? 切符。

 おれは経験済みなのさ。
 手袋したままでも細かい作業は可能だが、うっかり指と指とのすきまから滑り落ちていってしまうことがあるのを。
 結論、手袋はやめておけ。そのかわり。

 ハンドクリームを、しっかり塗っておく。
 なんならキッチンから米油でもオリーブ油でもサラダ油でも、なんでもいい。油分で指紋を埋めるように塗っておくんだ。無防備な素肌のいちばんうえ、皮膚。じんわり、じわじわ、確実に潤いを与えておくことが勝利への第一歩となる。
 間違いない!
 肌がカサカサしてなければもうそれだけで無敵なんだ!!

 ジャリッ…

 

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