消え残るアクアマリン

清水レモン

リアルな隣

 なんだかずいぶんトイレに長くいる。居心地がいいわけではないが悪くもない。せかされることもないし、想定外の観察といったところ。
 おれは自分を観察していたが、途中から思わぬ形で他人が加わった。じゃまだよな、と一瞬だけ思ってしまう。でもそれは向こうも同じ気持ちかな、と思い直した。
 あくまでも自分ひとりの空間として戯れていたので、誰か他人が来れば状況が変わる。まるでストップウォッチのスイッチがかちっと音をたててカウント始めたみたいに。
 かちっ。
 おれの脳裏かなり深いところでスイッチが入った気がする。瞬間、変わった。

 「どこかで会った?」

 とハンカチをポケットにしまいながら聞いてくるので、

 「かもな」

 と答えてみる。
 おれは鏡を見たまま。
 隣はポケットにハンカチを格納させ終えると、鏡の中ではなくリアルに隣のおれのほうを向いた…のが、鏡の中で見えた。

 「じゃ、またな」

 と言って、足早に去っていく。
 おれは鏡の中だけを見ていた。
 その横顔だけ、記憶に残った。
 

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