黒衣の騎士と花嫁剣士~あなたが望むなら、あなたの国へ嫁ぎましょう~

月夜野楓子

第八章 ~あなたの虜~

「あなたと国の人々には酷いことをしてしまった。俺からも詫びる」

 モートンことクラウスは私の自室で、私の前に膝まづいた。クラウスの魔人としての能力で私たちは一瞬でお城まで戻っていた。兵士たちがお城に戻ってくるには、あと数時間はかかるはず。
 部屋には二人きり。ピットもいない。きっと私が留守にするからサビーネが連れ出したのだ。
 
「本当のことを教えて、クラウス」

 頷くと彼は静かに語り始めた。自分とオズワルドは双子で彼は弟であること。魔物の国の次期王になること。異形で無いのは、王族と神官の血をひいた者だけであること。
 
「では魔物が住む島は本当にあるのね?」
「ああ、結界で見えなくなっている」

 彼はそこの次期国王。魔人と人間。複雑な感情が入り混じって胸が苦しくなる。

「俺とオズワルドが生まれたのは数秒違い。たったそれだけであいつは王にはなれない。それが原因で俺たちはずっと不仲だった」

 自分も王になる権利があると常に主張していたオズワルドは、人間の国を支配しようと虎視眈々と狙っていたらしい。双子でなければ、人間界に来ることは無かったと彼は言う。
 戴冠式を控えた数日前、オズワルドの謀略をどうにか出来ないか?とこの国に来たのだ
が、どうにも名案が浮かばない。

「そんな時、あなたと出会ったのだ」
「そう言えば不思議だったの。あの時、オズワルドとの戦の時、どうして私の名前を知っていたの?」
「それは…」

 クラウスの様子がどうもおかしい?

「…私の寝室に忍び込んだですって!?」
「ああ、すまない」
「…すまないって」

 じゃあ、じゃあ…。
 お腹を出して寝ていたところも、ベッドから落ちそうになったりとか、寝言とか
恥ずかしいことあれこれ…見ていたのっ!?

「その…胸の下にほくろがあるのも知っている」
「やーーーっ!」

 クラウス目掛けてクッションを投げつけた。は、恥ずかしいっ。

「あなたに知らせるために、悪夢を見させたのも俺だ」
「あの夢は…」
「近々起こるであろうことを教えたかった」

 そして、街に出た私と偶然出会ったように装った。

「クラウスの能力があれば、戴冠式に戻れたのではないの?」
「そうだな。戻れたと思う」
「戴冠式に出ていれば、こんなことにならずに済んだのではないの?」
「それは違う。オズワルドは遅かれ早かれ人間の国を襲っていただろう」

 クラウスは後ろで結んでいた私の髪止めをほどいた。よほど、ほどいた髪が好きらしい。

「戴冠式に欠席すれば、こうなることは予想していた。むしろ好都合だとも考えた」
「でも、でも、もっと早くオズワルドを止めていたのなら、助かった命がもっとあったはずなのに」
「それは結果論だ。どうして俺を責める?」

 だって、私はこの国の王女だもの。国民の命を第一に考えるのは当然で…。

「あなたのそんなところが、好きだ」
 
 私の髪で遊ぶような仕草をする。

「あの、クラウス?」
「あなたはどちらの国民も愛するだろうし、愛されるだろう」
 
 それは魔物たちともうまくやって行けるってこと?私を信じてくれているの?

 そっと、彼の唇が私のそれに触れた。彼から伝わる体温が私の体を満たす。強く抱きしめられて、めまいを起こしそうだ。

 私はこの人が好き。離れられないほどに、好き。

「俺と結婚してくれるか?ブリュンヒルデ」
 
 彼は私の手の甲に口づける。
 そうしたいけれど、それは、あまりにも未知だ。

「俺があなたを守ると言っても不安か?」
「剣では私が勝ちました」
「あれは論外だ。事実俺があなたを助けた」

 グレーの瞳で見つめられると、さまざまな不安が消えてゆくようで。王女としての憂い、父王のこと、魔物の国に住むこと、オズワルドのこと。
 
 何もかも捨てて、クラウスと生きたい。この人と未来を共有したい。
 もうこの気持ちは止められそうにない。

「愛しています、クラウス」
「あなたを絶対に悲しませない。全身全霊をかけて愛するし、幸せにする」

 彼の怪しい唇は私を激しく求めて来る。まるで激情が溢れてくるよう。
 長く深い口づけ…のはずだったのだけれど。

「わんっ」

 そこにはピットと、瞳を潤ませるサビーネが立っていた。

「いつの間にあなたたち…」ちょっと気恥ずかしい。

「ブリュンヒルデ様、とても感動的でした」

 頬を赤するサビーネ。

「わたくしもいつか、その…お二人のような熱いキスを…じゃなくて、お二人が素敵でお声がかけられなくて。えっとそちらの殿方はモートン様ですよね?」

 なんて返せばいいのかな?

「わんわん!」
「そうでしたっ。お供の兵の皆さまが、お帰りになったのです。ってなんでお二人だけがこちらに?」

 私とクラウスは顔を見合わせて笑った。

「そんなことより、何?サビーネ」
「は、はいっ。父王様が今回の報告を受けたいとお待ちです」
 
 クラウスは私の手を取る。

「それでは、あなたの御父上に結婚のお許しを頂くとしようか」

 笑顔で私は頷いた。

 ピットとサビーネの熱い応援を受けて、私たちは父の元へ向かうために長い長い廊下を歩く。
 クラウスとなら、きっと乗り越えられる。
 そう信じて。

 ~Fin~

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