黒衣の騎士と花嫁剣士~あなたが望むなら、あなたの国へ嫁ぎましょう~

月夜野楓子

第七章 ~漆黒の悪魔~

「…モー…トン。どうしてあなたが…」 

 私の人生はたかが十八年。その短い人生の中で、これほど複雑な感情を抱いたことはない。頭が真っ白で、自分の置かれている状況を忘れるほどで。

「どうして!!」
「姫様っ!!」

 衛兵の声で我に返った。その瞬間、モートンの振り下ろした剣が顔の横をかすった。

 あなたは魔物だった。そして私の国を襲っている。
 ううん、私を殺そうとしている。
 あなたの目的は何?この国?それとも私の命?
 胸に大きな塊が押し寄せる。裏切られた悲しみ、自国を襲われた怒り。
 何より、こんな男を一瞬でも好きになった自分への後悔。
 ”君を守る”どの口が言うのかしらっ!?

「お前は美しい。だが、お前は邪魔な存在だ」

 どうやらあなたは本気のようね。だったら私も本気で行くわ!
 私は剣を構えなおす。
 漆黒の悪魔。あなたを倒すっ!

 暗闇でぶつかり合う互いの剣が、強烈に閃光を放った。

「姫様、こやつはわたくしがっ!」衛兵の一人が側に駆け寄ってきたけれど。
「これは私の戦いよっ!邪魔をしないでっ!」

 モートンから目をそらさず、衛兵に怒鳴る。もはや彼に何の感情もない。この国を荒らした化け物たちを連れて来たモートンを倒す事に集中する。
 ジリジリと間合いを詰め、何度目かのぶつかり合いで、モートンは後ろへよろけた。
 今だっ!モートンの喉元目掛けて剣を突く。

「危ないっ」

 その声と共に、私は地面に倒されていた。
 何!?しかも誰かが私に覆いかぶさっている?
 
「何者っ!?」私は覆いかぶさる男の喉元に短剣を突き立てた。
「はは、俺の負けか?」

 しかしすぐに男は唇を何事か動かした。すると手には槍が?そしてそれを暗闇へと投げる。

「ぐう…」何者かが唸りを上げ、ドサっと倒れる音がした。
「君を守るって言っただろう?」
「モ、モートン!?」

 全身黒い甲冑で身を固めたモートンが!?
 何がどうなっているの?
 視線の先には、ダークエルフの胸に槍が刺さり倒れている。モートンの左腕にはダークエルフが放ったであろう矢が刺さっていた。
 
 私をかばって?

 彼は立ち上がると黒いマントをひるがえし、自らに刺さった矢を引き抜き、地面に投げ捨て、再び唇を動かすと、今度は彼の右手に剣が出現した。

 視線の先にはモートンが二人!?
 もう訳が分からない。

 モートンは漆黒の悪魔に詰め寄った。

「俺がいない間に、随分勝手なことをしたな、オズワルド」
「あんたは王になることを拒否したんだろ?クラウス兄さん」

 クラウス?王?
 モートンは口の端を歪めた。

「いつ俺が拒否したって?」
「では何故、戴冠式を欠席した?」
「ああ、そのことか」

 モートンことクラウスはうす笑いを浮かべた。

「お前の悪だくみを潰すためだ、オズワルド」
「なん…だと?」
「そのために俺はこの国に来た。だが美しい人に出会ってしまった。正直、戴冠式などどうでも良くなったのも事実…。結果的にそれが幸をそうしたようだ。ブリュンヒルデ」

 わ、私!?

「戴冠などいつでも出来る」
 
 クラウスがフッっと笑うと、オズワルドも不敵な笑みを見せる。

「戴冠式は絶対だっ。それを欠席するという事は玉座を捨てたことになるんだよ!」
「やめておけオズワルド。お前は俺には勝てない」
「僕があんたに負けるだって?」
「ああ。それにダークエルフの刺客がいなければ、お前はブリュンヒルデに殺されていた」 

 オズワルドはギリギリと奥歯をかみしめているようだった。

「確かに僕は剣が苦手だよ。けど人間など剣で充分だと思ったんだけどね。だったらこれはどうだっ」

 言うが早いか、オズワルドの手から火花が飛び散ると炎の筋となってクラウス目掛けて飛んで来る。
 それをクラウスは剣ではじく。

「いい加減にしろっ」

 彼の手に握られていた剣は消え、両手から無数の氷の矢がオズワルド目掛けて放たれた。
 私は何を見ているのだろう?これは魔法なの?

「そこまでですぞっ!お二人ともっ!!」

 新な声と共に、氷の矢が地面に落ちると、二人の声が重なった。

「「神官!」」
「クラウス殿、弟君を手にかけるおつもりですかな?」
「いや…」

 神官と呼ばれた老人は私のほうへ静かに歩み寄る。この人も私たちと姿は変わらない。

「オズワルドが勝手なまねをして、大変ご迷惑をおかけした」

 深々と下げる頭は白く、顎にも長い髭がたたえられている。

 私は王女としての矜持を保たなくては。

「とんでもない。と言いたいところですけれど、あなた達のおかげでわたくしの国の大切な命を沢山失いました」
「お怒りはもっともですな。ではオズワルドの首を差し上げればよろしですかな?」

 神官に睨まれて、オズワルドは震えあがっている。どうやらこの老人はかなり影響力がある人のようだ。

「そんなもの貰っても、何の役にもたちません」

 私は、命を落とした兵士達を手厚く葬ること。遺族への補償。壊した建物の再建を要求した。そして、それは隣国ホルツハイムも同様であると付け加えた。

 神官はクラウスに向き直る。

「いかがですかな、クラウス殿?」
「もっともだな」

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