黒衣の騎士と花嫁剣士~あなたが望むなら、あなたの国へ嫁ぎましょう~

月夜野楓子

第四章 ~恋の予感 2~

 モートン。何者だったのかしら?
 ベッドの上でゴロゴロしていると、ピットが勢いよくお腹の上に乗ってきた。

「グェっ、ピットぉ~。お願いだからもう少しお行儀よくしてね」
「ワンワン!」

 ピットを抱きかかえる。

「ねぇ聞いてよ、ピット。今日ねお城を抜け出したらね。うふふ、すごく素敵な人に会ったの」
「ワン?」
「ガレットをごちそうしてくれたのよ。それにね、とても優しい人なの。だってね小さな男の子に自分のガレットを分けてあげたのよ」

 分かっているのかいないのか、ピットは首を傾げている。

「明日も会おうって言ってくれたの」

 ピットをぎゅっと抱きしめる。

「ワォーン」

 嫌がるピットを強引に抱き寄せる。

「今夜は眠れそうにない」

 あ…私ったら。悪夢のこと忘れていた。モートンといると、楽しくて嫌な事を忘れてしまう。
 男の人とあんな風に親しく話たことが無かった。宮殿のパーティで殿方と話すことはあるけれど、大抵の殿方は私が王女だから、家の名誉の為に私を花嫁として望むのだった。本気で私を好きなわけじゃない。王家の娘に生まれた以上、政略結婚は当たり前。恋愛は無理と諦めていたけれど。

「私、あの人のことばかり考えてる」

 この国はお兄様が継ぐ。私、恋愛してもいい?

「きゃー、ピットどうしようっ!」
「キャンキャン!!」

 苦しそうな声をあげるピットを、私の腕から解放してあげた。

 けれど、…モートンはこの国の人かしら?
 隣国の軍人ってこともあり得る。和平条約が結ばれて、互いの国の行き来が自由になったから。兵士は下級貴族か士官学校を出た平民。
 王族と下級貴族の結婚は前例がないけれど、それでもまだ議論の余地がありそう。だけど、モートンが平民だった場合は…。
 ため息がこぼれる。彼が貴族であることを祈るしかない。
 って、私!何を事を考えているの。恋愛とか夢みたいなこと…。

「彼が貴族でありますように。ねっ、ピット」

 隣では、ピットが寝息を立てて寝ていたのだった。
 
 翌日、私は寝坊してしまった。

 モートンのことを考えて、ちっとも眠れなかった。
 約束の時間はとうに過ぎている。

「お急ぎ下さい、ブリュンヒルデ様」
「ええっ」

 手引きは侍女のサビーネがしてくれた。
 急いでお城の裏手にある馬小屋に隠していたエプロンドレスに着替えると、目深に帽子を被り、二人で裏門へ急ぐ。
 昨日は馬車に乗ってお城を出られたけれど、今日は寝坊したせいで食材を納入しに来た商人の馬車はすでに帰った後だった。
 門番がこちらを見ている。

「こんにちは、ハンス」

 笑顔でサビーネが声をかけた。

「サビーネ、珍しいね。ここに来るなんて」
「ええ」

 ここ一年で最高の笑顔をするサビーネ。

「この子、アガサって言うんだけど私のお友達なの」
「確か、昨日商人の馬車に一緒に乗っていた子だね」
「ええ、私と話し込んでいたせいで馬車に乗り遅れてしまったのよ」
「ああ、だいぶ前に馬車はここを通ったよ」
「アガサは、野菜の仕分けの仕事をしているのよ。いないことがバレたらご主人に怒られてしまうわ」

 サビーネの名演技に私は内心で舌をまく。きっと私だったら震えてしまって、ここまで上手く話せないだろう。

「お願いハンス、ここを通してあげて」

 門番のハンスは難しい顔をする。

「ここを通るには、通行証の確認をしなくちゃいけないんだ」
「だって、通行証はご主人が持っているわ。この子が持っているはずないじゃない。きっと、アガサは罰としてムチで打たれてしまうわ」

 サビーネが私の背中を優しくなでるから、私は俯いたまま、コクンと頷く。

「それは可哀そうに。本当ならご主人を呼んで通行証を確認するんだけど。今回は特別だよ、アガサ」

 そう言ってハンスは門を開けてくれた。

「ありがとうございます、ハンスさん」

 バレやしないかとドキドキしながらハンスに頭を下げると、サビーネに手を振り走り出した。今度、じいに頼んであなたを昇進させるわね、ハンス。私は心の中でお礼をするのだった。

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