【8/20(水)コミックス1巻発売!】 指一本触れられない鉄壁令嬢(※嘘です)と猛毒公爵の初恋リベンジ
16_【間話】追い出す相談
これは選定公会議の前の晩のこと。
リナミリヤが知らない、とある二人のやりとりだ。
リナの専属侍女ラミラは、今日の報告のためにエドガルドの執務室にいた。
「――というわけで、ガスマスクが演出であることをリナミリヤ様に打ち明けました」
「ああ、彼女から聞いている」
〝ガスマスク、本当は要らないんでしょう? つらそうだから、私への嫌がらせのためならもうやめて。叱らないであげてね〟
と、彼女に言われたのだ。
そして、息苦しくて、重くて、蒸れて、頬に圧迫痕がつく魔導式ガスマスクをあと三ヶ月もしなくて済んだことに、使用人たちみんなからリナは感謝され、なんだかその本気の熱意に「私、何もしてないんだけど!?」と戸惑っていた。
「……素直で可愛らしい方ですね」
ラミラがちいさく微笑むと、エドガルドは少し驚いたような顔をする。
「仲良くなったんだな」
「ええ、ちょっと乙女同士の話もしました」
「それはどういうものかよくわからんが……そうか、打ち解けたのなら良かった。お前が俺の又従妹であることも言ったのか?」
「え、まさか、言いませんよ。又従兄妹など他人ですから」
「……俺にとってはもう唯一の肉親とも言えるんだが。まあ、言うか言わないかはお前に任せているからな」
どことなく孤独の気配に包まれている又従兄を見て、ラミラは彼に似た目元を細くした。
「親戚だなんて名乗って、貴族のあれこれに巻き込まれるのは御免です。私は気楽に金が欲しいだけなので。……家族が欲しければ、今は奥方様がいるではありませんか」
「奥方?」
「可愛くて素敵なリナミリヤ様ですよ。三ヶ月だけの奥方様」
「……三ヶ月だけなら、一日もない方がましだ」
エドガルドは重い溜息を吐いた。
「俺なんかと一時的にでも結婚などと……とんでもない汚点になるぞ。彼女は努力家で優秀だ。防御魔法の暴走など、すぐに解決できるはずだろう。これからいくらでも他の男と――」
ぶわりと黒い毒霧が広がりそうになり、又従兄妹同士は「うわ」と家系特有の毒魔法を駆使して抑え込む。ラミラは壁に掛かっていたガスマスクを素早く着用した。
「やっぱりガスマスク要りますね。密室だとうっかり死にかねない。……お心が乱れるとよくありませんよ」
「……そうだな。最近また毒魔法が不安定になってきた。一刻も早く彼女を追い出してくれ」
「そのことなんですが」
ラミラは首を傾げてみせる。
「円滑に、リナミリヤ様を傷つけずにそれとなく追い出せた者には褒賞金をいただけるんですよね?」
「ああ、そうだが」
「実行者ではなく、提案者でもよろしいですか」
「なにか名案が浮かんだのか?」
身を乗り出すエドガルドに、ラミラは頷く。
「押してだめなら引いてみろ、という言葉がありますように、突き放したり追い立てて『逃げたい』と思わせるのではなく、『逃げなきゃ』とリナミリヤ様ご本人が確信できるようにするべきかと」
「……つまり、どういうことだ?」
「今と逆で、閣下が溺愛なさればいいのです。それはもう怖いくらいに囲い込み、『今逃げないと、一生逃げられなくなる!』と思うくらいに愛を囁けばよろしいのです。『三ヶ月だけって言ってるのに、この人、本気で私が妻になったと思ってる! 怖い!』と思わせたら勝ちです」
「………………」
随分と長い沈黙があった。
それからぽつりと、エドガルドは言う。
「……心に傷が残ったらどうする。可哀想だろう」
はあ、とラミラは溜息を吐いた。「これだから」とか「手ぬるいんですよ」と言わんばかりだ。
「とりあえず、一日に三回は『俺の妻』とおっしゃってください」
「馬鹿みたいじゃないか」
「馬鹿になってください」
エドガルドは頭痛を堪えるように額に手を遣り、「……まあ、いざという時の手段として覚えておく」と呻いて、今日の報告は終わりになった。
リナミリヤが知らない、とある二人のやりとりだ。
リナの専属侍女ラミラは、今日の報告のためにエドガルドの執務室にいた。
「――というわけで、ガスマスクが演出であることをリナミリヤ様に打ち明けました」
「ああ、彼女から聞いている」
〝ガスマスク、本当は要らないんでしょう? つらそうだから、私への嫌がらせのためならもうやめて。叱らないであげてね〟
と、彼女に言われたのだ。
そして、息苦しくて、重くて、蒸れて、頬に圧迫痕がつく魔導式ガスマスクをあと三ヶ月もしなくて済んだことに、使用人たちみんなからリナは感謝され、なんだかその本気の熱意に「私、何もしてないんだけど!?」と戸惑っていた。
「……素直で可愛らしい方ですね」
ラミラがちいさく微笑むと、エドガルドは少し驚いたような顔をする。
「仲良くなったんだな」
「ええ、ちょっと乙女同士の話もしました」
「それはどういうものかよくわからんが……そうか、打ち解けたのなら良かった。お前が俺の又従妹であることも言ったのか?」
「え、まさか、言いませんよ。又従兄妹など他人ですから」
「……俺にとってはもう唯一の肉親とも言えるんだが。まあ、言うか言わないかはお前に任せているからな」
どことなく孤独の気配に包まれている又従兄を見て、ラミラは彼に似た目元を細くした。
「親戚だなんて名乗って、貴族のあれこれに巻き込まれるのは御免です。私は気楽に金が欲しいだけなので。……家族が欲しければ、今は奥方様がいるではありませんか」
「奥方?」
「可愛くて素敵なリナミリヤ様ですよ。三ヶ月だけの奥方様」
「……三ヶ月だけなら、一日もない方がましだ」
エドガルドは重い溜息を吐いた。
「俺なんかと一時的にでも結婚などと……とんでもない汚点になるぞ。彼女は努力家で優秀だ。防御魔法の暴走など、すぐに解決できるはずだろう。これからいくらでも他の男と――」
ぶわりと黒い毒霧が広がりそうになり、又従兄妹同士は「うわ」と家系特有の毒魔法を駆使して抑え込む。ラミラは壁に掛かっていたガスマスクを素早く着用した。
「やっぱりガスマスク要りますね。密室だとうっかり死にかねない。……お心が乱れるとよくありませんよ」
「……そうだな。最近また毒魔法が不安定になってきた。一刻も早く彼女を追い出してくれ」
「そのことなんですが」
ラミラは首を傾げてみせる。
「円滑に、リナミリヤ様を傷つけずにそれとなく追い出せた者には褒賞金をいただけるんですよね?」
「ああ、そうだが」
「実行者ではなく、提案者でもよろしいですか」
「なにか名案が浮かんだのか?」
身を乗り出すエドガルドに、ラミラは頷く。
「押してだめなら引いてみろ、という言葉がありますように、突き放したり追い立てて『逃げたい』と思わせるのではなく、『逃げなきゃ』とリナミリヤ様ご本人が確信できるようにするべきかと」
「……つまり、どういうことだ?」
「今と逆で、閣下が溺愛なさればいいのです。それはもう怖いくらいに囲い込み、『今逃げないと、一生逃げられなくなる!』と思うくらいに愛を囁けばよろしいのです。『三ヶ月だけって言ってるのに、この人、本気で私が妻になったと思ってる! 怖い!』と思わせたら勝ちです」
「………………」
随分と長い沈黙があった。
それからぽつりと、エドガルドは言う。
「……心に傷が残ったらどうする。可哀想だろう」
はあ、とラミラは溜息を吐いた。「これだから」とか「手ぬるいんですよ」と言わんばかりだ。
「とりあえず、一日に三回は『俺の妻』とおっしゃってください」
「馬鹿みたいじゃないか」
「馬鹿になってください」
エドガルドは頭痛を堪えるように額に手を遣り、「……まあ、いざという時の手段として覚えておく」と呻いて、今日の報告は終わりになった。
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