妖怪村の異類婚姻譚-失せ物さがし-
13.
乙彦は気だるげに目をそらした。そこでようやく、小姫は彼が動かないのではなく、動けないことに気づく。
「乙彦……?」
慌てて側によってしゃがみこむ。洞窟の外から入るほのかな明かりで、うっすらと乙彦の体が浮かび上がった。
「こっちに……、来てはいけないのです……!」
着物で隠れてよく見えないが、足か腕、または両方とも折れているのかもしれない。しかも、着物ににじんだ血の量はかなりのものだ。荒い呼吸を繰り返し、ときおりうめき声を押し殺している。
「まさか……」
小姫が崖から落ちても大した怪我がなかったのは、乙彦がかばったせいだったのか。
愕然とする小姫から傷を隠すように、乙彦は体をずらした。そして、追い払うように左腕を振った。
「もう、あなたの体を補うほどの妖力も私にはない。その花をもって、さっさと家に帰るのです。……私も、これで、思い残すことはなくなった……」
小姫は乙彦の傷に視線を移す。
思い残すことはないと言いながら、小姫の左足は消えていない。小姫が山を抜けるまで、力を注ぎ続けるつもりなのか。
自分の命が尽きるとしても。
「……その傷、妖力があれば治せるの?」
「ヒメ。だから――」
「ごめん。私……、そんなに、乙彦が苦しんでるなんて知らなかった。お母さんの娘なのに、何にもしていなかった。もう、跡継ぎじゃないからって、妖怪のこと、何も知ろうとしなかった。……何ができるかわからないけど、これから、頑張るから……!」
小姫は、白い花を彼の胸に強く押し付けた。花弁が淡く光り始め、次第に輝きを増していく。
乙彦が驚きに目を見張る。
「何を……!」
「この花の力、先に使って」
彼は、静かに終わりを迎えたいのかもしれない。これ以上、人間に関わりたくないのかもしれない。
だが、小姫はそんな気持ちのまま、乙彦を死なせたくはないと思ってしまった。
(私は、乙彦の次でいい。花の力が残るかは、わからないけど……)
乙彦は慌てて、まだ動く左手で小姫を引き寄せた。力の向かう先を変えようというのだろうか、花もろとも小姫の体を抱きしめる。
「――ヒメ。私は――……!」
光に包まれ、乙彦の声も小姫の声も聞こえなくなる。
お互いのことも見えなくなって――……。
「乙彦……?」
慌てて側によってしゃがみこむ。洞窟の外から入るほのかな明かりで、うっすらと乙彦の体が浮かび上がった。
「こっちに……、来てはいけないのです……!」
着物で隠れてよく見えないが、足か腕、または両方とも折れているのかもしれない。しかも、着物ににじんだ血の量はかなりのものだ。荒い呼吸を繰り返し、ときおりうめき声を押し殺している。
「まさか……」
小姫が崖から落ちても大した怪我がなかったのは、乙彦がかばったせいだったのか。
愕然とする小姫から傷を隠すように、乙彦は体をずらした。そして、追い払うように左腕を振った。
「もう、あなたの体を補うほどの妖力も私にはない。その花をもって、さっさと家に帰るのです。……私も、これで、思い残すことはなくなった……」
小姫は乙彦の傷に視線を移す。
思い残すことはないと言いながら、小姫の左足は消えていない。小姫が山を抜けるまで、力を注ぎ続けるつもりなのか。
自分の命が尽きるとしても。
「……その傷、妖力があれば治せるの?」
「ヒメ。だから――」
「ごめん。私……、そんなに、乙彦が苦しんでるなんて知らなかった。お母さんの娘なのに、何にもしていなかった。もう、跡継ぎじゃないからって、妖怪のこと、何も知ろうとしなかった。……何ができるかわからないけど、これから、頑張るから……!」
小姫は、白い花を彼の胸に強く押し付けた。花弁が淡く光り始め、次第に輝きを増していく。
乙彦が驚きに目を見張る。
「何を……!」
「この花の力、先に使って」
彼は、静かに終わりを迎えたいのかもしれない。これ以上、人間に関わりたくないのかもしれない。
だが、小姫はそんな気持ちのまま、乙彦を死なせたくはないと思ってしまった。
(私は、乙彦の次でいい。花の力が残るかは、わからないけど……)
乙彦は慌てて、まだ動く左手で小姫を引き寄せた。力の向かう先を変えようというのだろうか、花もろとも小姫の体を抱きしめる。
「――ヒメ。私は――……!」
光に包まれ、乙彦の声も小姫の声も聞こえなくなる。
お互いのことも見えなくなって――……。
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