転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜

Y.ひまわり

番外編 女は強くてよ!(byジョアンヌ)

(やはり……今日もこちらにいらしたわ)


 あまり目立たない、宮廷の一画にある薬草庭園。
 しゃがんで薬草をチェックする、濃紫のローブを身に纏った後ろ姿に、ジョアンヌは目が離せなくなってしまう。


 リーゼロッテから貰った、辺境伯領でしか咲かない白い花を潰さないようにギュッと抱え、深呼吸を数回繰り返す。


(しっかりなさい、わたくし!)


 ジョアンヌは自分に気合いを入れると、洗練された姿勢を保ち、クリストフに向かって歩きだした。


「クリストフ殿下、こちらにいらっしゃったのですね」


 声が震えないように、淑女らしい笑顔で声をかける。


「……ジョアンヌ嬢?」


 顔を上げ立ち上がったクリストフは、ジョアンヌが手にしている花に目をやった。


「リーゼロッテ様に頂きましたの。以前……このお花が、殿下が研究にお役に立つと仰っていらしたので」


 ジョアンヌは、少しだけモジモジしてしまう。
 これを兄パトリスに見られると、いつも揶揄われるのに。どんなに平静を装っても、大好きなクリストフの前に立つとダメなのだ。
 
(あんなに王子妃教育を頑張ったのに……)


 扇でもあれば少しは表情を隠せるが、今は両手が塞がっている。ほんの少しだけ視線を花の方に落とす。


「助かるよ。辺境伯に頼んでも、希少な物だからなかなか手に入らないらしくて」


「……え?」


 ジョアンヌは、首を傾げた。
 リーゼロッテは簡単そうに取ってきて、花をプレゼントしてくれる。
 もしかして、リーゼロッテは自分の為に無理をしているのではないかと心配になった。


 そんなジョアンヌの戸惑いを察したのか、クリストフは「ああ、きっと……私が頼んだ時期が悪かったのだろう」と付け加えた。


「そうなのですね」とジョアンヌはホッとする。


 クリストフは、この花がどうやって出来た物か知っているため、ルイスが許可をしないのを解っているつもりだ。


 この花を分析してみると、虹色の花から出来た高濃度ポーションの成分とは違う、また別の効果があるのを発見した。 
 その効果とは――浄化。
 乾燥させ粉末状にした物を、汚染された土壌に撒くと見事に浄化されるのだ。
 これがあれば、国の中でも貧しく、穢れた土地に住む者の生活がかなり改善される。


 ただ、この花だけに頼るだけでは一時的な解決にしかならない。作れるのは女神の力を持つ者だけなのだから。


 全く同じ物は無理だろうが、クリストフは宮廷魔術師として、花の解析をして自分たちで生成できる方法を探している。だが――
 
「ジョアンヌ嬢。貴女はもう私に会いに来ない方がいい」


 クリストフの言葉は元婚約者のジョアンヌを、冷たく拒絶した。
 




 ◇◇◇






 ジョアンヌは、どうやって寄宿舎に戻って来たか分からないほど、ショックを受けていた。


 何度もクリストフとのやり取りが頭をめぐる。


 


「どうして、ですの……?」


「私たちはもう婚約者ではありません。私は廃嫡された王子で、王太子でもありません。ジョアンヌ嬢、貴女なら――私の罪を知っているのではありませんか?」


「ですが、それは!」


 クリストフの美しい金髪が黒髪であることも、どうして廃嫡されたかも、婚約者だったジョアンヌには国王が直々に話してくれた。
 それでも、ジョアンヌは構わなかったのだ。


 幼い頃から、ずっと見てきた。
 本当は誰よりも国を想っている、優しい人。――けれど、いつも何かに苦しんでいた。
 
 利用され、犯してしまった罪は重い。
 それでもクリストフと一緒になり、彼を支えられるなら、ジョアンヌは公爵令嬢の立場もいらないと思っていた。


「幸い私たちの婚約は発表していない。ジョアンヌ嬢だったら、もっと素晴らしい人物と一緒になれるだろうから」


 ジョアンヌから目を逸らし、それだけ言い残すとクリストフは庭園を去って行った。


 


 ジョアンヌは、ベッドにうつ伏せになり涙で枕を濡らす。


「……もっと素晴らしい人物って、なんなのよ……」
 
 国王陛下も父親である公爵も、必死で説得した。婚約を白紙にしないように。
 公爵家の跡取りで、いずれ宰相になるかもしれない兄だって応援してくれている。
 みんな、クリストフが国にとって必要な人物だと知っているのだ。


(でも……)


 廃嫡された、元王太子という立場の風当たりは強い。
 宮廷魔術師になったのは、本当によい選択だったと思う。高位魔術師は変わり者が多く、能力だけがものを言うのだ。


「突き離したのが、私の為だなんて……絶対に言わせないのだから!」


 ガバッと起き上がったジョアンヌは、鏡台の引き出しから鋏を取り出し――ザクッと髪を切り落とした。


 


 ◇◇◇






 貴族院を卒業し、まる一年かけ三回にわたる宮廷魔術師試験を全て一発合格したジョアンヌは、濃紫のローブを羽織る。
 
「おめでとう、ジョアンヌ。とってもよく似合うわ」
 
 今日のため王都にやってきたリーゼロッテは、ローブ姿を披露したジョアンヌに、真っ白な大きな花束を渡す。


「ありがとうリーゼロッテ! これで、大手を振って殿下につきまとえるわ」


「ちょっと今の発言は、公爵令嬢としてどうなんだい? いきなり勉強の邪魔だからと、髪を切ったのにも驚かされたけど」


 と呆れるパトリスが、久しぶりに再会した親友同士の会話に水を差す。


「お兄様うるさいですわ。私はもう令嬢ではなく、立派な魔術師なのですから!」


「いやいや。魔術師になっても大事な妹だし、公爵令嬢なんだからね」


「大丈夫ですわ。公式の場では完璧な淑女に戻りますから」


「本当かなぁ……」


 そんな兄妹のやり取りに、リーゼロッテはクスクス笑う。


「ジョアンヌの配属先は、クリストフ殿下の所よね?」


「ええ。ジェラール殿下が手を回して下さったみたい」


 実はまだ、クリストフとジョアンヌの婚約は白紙になっていない。
 ジョアンヌが、絶対にクリストフを振り向かせると豪語し、三年の猶予を国王と公爵から勝ち取ったのだ。
 
「大丈夫か?」とパトリスは訊く。


 大好きなクリストフに冷たくされるのは、正直にいって辛いだろう。
 それでも、ジョアンヌは彼を支えようとしている。


「お兄様、心配なさらないで。愛しい人のためなら――女は強くてよ!」


 ジョアンヌは凛々しい笑顔を見せた。


 


 ◇◇◇






 その、翌々日からジョアンヌの宮廷魔術師としての生活が始まった――。




 王太子妃教育とはまた違う大変さがあるが、とても充実していた。


 リーゼロッテの弟フランツが、貴族院を卒業する来年、近衛騎士団の入団試験を受けに王宮にやってくるそうだ。


(詳しくは分からないけれど。騎士団の見学にやってきた彼を見かけた殿下は、苦しそうだったわ……)


 過去にジョアンヌの知らない何かが、辺境伯領であったのだろう。


(いつか、その苦しみも一緒に――)


 ジョアンヌは顔を上げた。


「今日も頑張りますわよ! 殿下、覚悟あそばせ」




 そして、笑顔のジョアンヌは元気よく、上司のクリストフに会いに向かった。




 

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