転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜

Y.ひまわり

71.幸せな未来

『ねえ! 突然僕が空に現れてさ、それで世の中を真っ暗にしちゃうの。でね! リーゼロッテがさ、此の国全体に祝福の光を降らせて明るくするなんてどう? ついでに、病気とか全部癒しちゃってさ。ね、ね、いい案でしょ?』


 ワクワクと声を弾ませて、ヨルムンガルドは言った。


「勝手なことを言うな!」とテオは顔を顰め、軽い兄弟喧嘩が始まる。


「もう! 二人しかいない兄弟なんだから、仲良くしなさいよ」


 リーゼロッテがそう言って止めると、二人はポカンとし、意味深長な表情をすると顔を見合わせた。


 ――ここは辺境伯邸のルイスの執務室だ。


 もうすぐ、リーゼロッテは貴族院の卒院式を迎える。
 その後は領地へ戻り、ルイスとの結婚式を行う予定だ。
 その為に一時帰宅し、衣装合わせを終えて式の打ち合わせをしていた時だった。


 ルイスとリーゼロッテより先に行われる、ジェラールと皇女の結婚式の招待状が宮廷より届いたのだ。


 いつの間にか話は、自分たちの結婚式ではなく、ジェラールの結婚式と、国民へのお披露目パレードに移って行った。


 でも何故、ヨルムンガルドがここに居るのかと言えば――。


 あの一件以来、思念体だけでなら結界を抜けて、自由に行き来が出来るようになったらしい。


(私の涙、返してほしいわ……。まるで、もう二度と会えないような雰囲気だったのに!)


 リーゼロッテは、少々騙された気分になったのだが、兄弟のやり取りを見ていると何だかほっこりしてしまう。
 隔世遺伝なのか、ルイスはナデージュとセドリックの血を濃く受け継いでいるらしい。そのせいか、ヨルムンガルドはやたらルイスに懐いている。


「お前達、いい加減にしなさい。ヨルムンガルド、いくらリーゼロッテでも流石にそれは無理だろう?」


 ルイスは、相槌を求めるかのような視線をリーゼロッテに送った。それを受けて、リーゼロッテはバツが悪そうに顔を背ける。


「……まさか、出来るのか?」


「はい……たぶん」


 唖然とするルイスに、リーゼロッテは申し訳なさそうに答えた。


 魔玻璃からナデージュの気配が無くなった後、リーゼロッテの魔力はナデージュの分まで補うかの如く、更に増えてしまった。
 リーゼロッテだけで、国中に結界を張ることも余裕で出来るだろう。


『だからさぁ! ジェラールが物凄い祝福を女神から受けたら、国王になった時に国民の支持が全然違うでしょ?』


「まぁ、それはわかるけど。私は……目立ちたくないのよ。何のために貴族院で地味に過ごしてきたのか、分からなくなってしまうし……」


「主人を困らせるな!」と、テオ。


『何だよぉ。兄上ばっかり従魔契約してさっ! リーゼロッテ、僕とも契約しようよっ』


 妖艶な美少年の顔が、じわじわとリーゼロッテに近付いてくる。リーゼロッテが後退りすると、背後からヒョイッと抱えあげられた。


(えっ!? お、お姫様抱っこぉぉぉ!)


「駄目だよ。リーゼロッテは、だからね」


 ヨルムンガルドに負けない美しさで、笑みを浮かべたルイスはリーゼロッテの額に唇を落とした。


 ボンッ――と、真っ赤になったリーゼロッテ。
 ルイスは楽しそうに、頬、瞼、鼻と次々に口付けをしていく。


「お、お父様! いい加減にして下さいませっ!!」


 溜め息を吐き、二人のイチャつきに呆れるテオ。
 ヨルムンガルドは『狡いっ!』と駄々をこねる。


 勝ち誇ったの顔のルイスは
「連れないな、リーゼロッテ。そういうところも可愛いが」と、ゾクゾクするいい声で囁いた。


(くぅぅ……。私の心臓、結婚式までもつかしら?)






 ◇◇◇






 ーージェラールと皇女の結婚式当日。


 その国民へのお披露目は、後世に語り継がれる程のものとなった。


 頑として譲らなかったヨルムンガルドが、勝手に空へ現れてしまったのだ。
 勿論、本体ではなく……思念体を国サイズの魔物の姿に変えて。


 仕方なく、リーゼロッテは真っ暗な空に自分ではなくナデージュの女神姿を映し出し、祝福の光と癒しを放ちまくった。
 そして、ジェラール達のお祝いとばかりに、盛大に二人を輝かせた。


 人々は歓喜し、次代の国王と王妃を讃えた。






 無事に一仕事を終え、リーゼロッテは辺境伯邸へ帰るとドッと疲れが出てくる。


『次は、リーゼロッテの結婚式だね!』


 満足そうなヨルムンガルドのその言葉に、隣に居たテオの口角が上がった。


(なんだか……嫌な予感がする)


 ルイスは微笑むだけで、二人を止めようとはしない。


「お願いだから、私の時は地味にさせてね」


 リーゼロッテは真剣な表情で言った。




 
 ◇◇◇






 ――数年後。




「お父様! お母様! 今日から私も魔玻璃に魔力を込めるのですね!」


 月明かりに照らされて、ルイスとリーゼロッテの間で手を繋いで歩く少女は、キラキラと輝く瞳で両親を見上げた。


「そうよ、リリアーヌ」


 優しく微笑むリーゼロッテに、リリアーヌは「やったぁ!」と喜ぶ。


 リーゼロッテとルイスは、自分達の子供に辺境伯領についてを、幼くともきちんと伝えて行くことにした。
 本当の意味での理解は、まだ先になるかもしれない。


 それでも――。


 この地で続いていく未来は、其処を歩んでいく者達のものなのだから。
 選び、守り、進む。素晴らしい未来と希望を、先人は託していくのだ。


 リーゼロッテは明るい夜空を見上げると、愛しい二人を見て言った。


「ルイス、リリアーヌ、月がとても綺麗ね」
 
 
 



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