転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜

Y.ひまわり

65.過去

(自分の過去はさて置き……)


 続きを読みながら、頭の中を整理していく。


 ナデージュは辺境の地で生まれ育ち、魔物達の住む森で暮らしていた。
 魔物や魔獣を差別せず、大切な存在として関わってきた彼女は、魔に属する者達からとても愛されていた。


 そんなある日。


 森に迷い込んだ人間が、魔物に驚き攻撃をしかけてしまった。


 だが、当然魔物は反撃し、逆に人間は相当な怪我を負わされてしまう。瀕死の状態で倒れていたところに、たまたまナデージュが通りかかり、癒しをかけて助けた。
 普通では、治すなどあり得ない程の大怪我を治癒させ、まるで魔物を従えているかのようなナデージュが、神々しく見えたのかもしれない。


 彼女に助けられた人物は、選りに選って宮廷からの視察でやって来た者で、国王に森の魔物やナデージュの存在を知らせてしまった。
 国王は、彼女を女神だと言い出し、ナデージュを自分のものにしようと考え始めたのだ。


 そして、王命を受け魔物討伐と女神保護にやってきたのが、当時の王太子だった。


 王太子はナデージュに惹かれ、また魔物や魔獣達とも仲良くなった。特に、彼女を慕っていたヨルムンガルドとは気が合い、親友と呼べるまでになった。


 いつしかナデージュと王太子は愛を育み、彼女が桜坂凛子という転生者なのだということも告白された。
 勿論、王太子は全てを受け入れ、凛子としても彼女を愛したのだ。


 桜は――凛子の好きな花だった。
 こちらの世界には咲かない桜を、絵に描いて王太子に見せては楽しそうに話していたらしい。


 幸せそうに過ごしていたナデージュと、魔物達との繋がりを切ってしまってはいけないと思った王太子は、国王に彼女を宮廷に連れて行くのを諦めさせようと手を尽くした。


 国王は王太子の説得に応じ、女神の肖像画だけでも描かせて欲しいと懇願したのだ。
 
 真面目な王太子は父である国王を信じ、優しいナデージュは、それで全てを丸く収めてくれるならと、快諾して王都へ向かった。


 罠だとも知らずに――。


 肖像画はナデージュだけの物と、王太子の希望で、ナデージュとヨルムンガルドの三人一緒のものも描いてもらった。
 叶わぬ恋と、魔獣の友人。せめて、肖像画の中だけでも王太子は一緒に居たかったのだ。


(それが、最終ページの肖像画ね……)


 平和的な関係を築けたと思っていたのも束の間――。全てが国王の策略だっと知ることになる。


 戦争を望まないナデージュを脅して幽閉し、ヨルムンガルドだけを城から追い出したのだ。
 人を傷つけたくない彼女は、力があったのにも関わらず、抵抗することが出来なかった。


(私なら、城を爆破してでも逃げるのに。爆破――ああ、そうか。戦争を体験した彼女にしか分からない、何かがあったのかもしれないわ)


 王太子も必死にナデージュを守ろうとしたが、王に反逆したと捕らえられてしまったのだ。


 怒り狂った、ヨルムンガルドと魔物達は、人間達を襲い戦争を始めた。
 ヨルムンガルドは人間を憎み――王太子が自分達を裏切ったと思ってしまった。


 人間に勝ち目などないことを知っている王太子は、どうにか脱獄し、ナデージュを塔から逃がすと魔物達を抑えてほしいと頼んだ。
 自分は国王を倒して国を治め、辺境の地を守り人間達を抑えるからと。


 ナデージュと王太子は、その時にお互いの愛を確かめ一つになった。二度と会わない事を誓って――。


(ううゔっ……駄目だ。悲し過ぎて、涙と鼻水が止まらない。好き同士が一緒に居られないなんて……)


 その先は、ほぼリーゼロッテが知っていることだった。


 ナデージュに辺境伯の爵位を与え、『特記事項』を付与したのは、国王となったこの王太子だったのだ。


 ここには書かれていなかったが、ナデージュは王太子の子を宿していたのだろう。
 
(だからきっと――)


 辺境の地に生まれてくる者は、ナデージュやリーゼロッテのように転生者で無くとも、魔力がとても多いのだ。
 ナデージュと、王族である王太子の血を引いているなら、納得の話だ。


 その後、ナデージュ、王太子は、それぞれの子孫に守るべきものを託して生涯を終えた。


(なのに……いつの時代にも、私利私欲に塗れた者が現れてしまうのね。こんなに、二人が頑張ったのに)
 




 ――パタリと、リーゼロッテは本を閉じた。


「多分だけど……私が一周目で殺された時、凛子さんと一緒に眠っていたヨルムンガルドを起こしてしまったのね。私と、ジェラール殿下は、凛子さんの想いで作られた魔玻璃の力でループしたのだわ」


「つまり、どういう事だ?」


 テオには、人の感情がよく分からないようだ。


「ジェラール殿下は、この王太子の生まれ変わりなのかもしれないわ。だから、ヨルムンガルドと仲直りさせてあげなくちゃ」


「ジェラールと王太子は、顔が似ているだけかもしれないぞ?」


「その可能性も有るけど。凛子さんが愛した人を間違えるとは……到底思えないわ。できれば――」


「何だ?」


「ううん、何でもないわ。さっ、帰りましょうか!」


 白紙に戻した本を棚に戻すと、寄宿舎へと転移した。
 


 窓の外は、いつの間にか薄明を迎えていた。




 

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