転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜

Y.ひまわり

63.正体は

「――は? 凛子って誰よっ!?」


 思わず声を張り上げる。
 
「思い出すまで教えないっ!」


 拘束されたままの偽レナルドは、ふてくされた幼い子供みたいにプイッと外方を向く。


 どんどん崩れていく地面を飛び越えながら、足下を確保する。土魔法で足場を形成していくが、とても追いつかない。どうしてこんな事が起こせるのか。


(ともかく、これを止めさせないと……)


 そう思った瞬間――足が滑り、グラッとリーゼロッテはバランスを崩した。


(しまった!)


 割れた地面の中に吸い込まれるように、急降下していく。
 割れて歪になった地面に、叩きつけられかと思った瞬間――ボフッと柔らかい場所に着地した。


(……あれ?)


『主人、大丈夫か?』


「テオ! 無事だったのね……良かった!」
 
 リーゼロッテは、テオの上に落ちた……というか、受け止めてもらったのだ。
 温かいテオの背中にギュッとつかまると、ほっと安堵する。
 急に学院から消えたリーゼロッテの気配を辿り、テオも転移してやって来たのだ。


 背中にリーゼロッテを乗せたテオは、足場を見つけながら飛び乗っては、上へと登って行く。
 漸く地上に出ると、宙に浮いてるレナルドを見つけた。


『……やはりか』と、テオは呟く。


「彼は、何者? 私を凛子と言ったわ」


『まさかと思ったが。あれは、……弟だ』


「―――はいぃ!? テオの弟は魔玻璃の向こう側でしょう? しかも、人の姿だし大きさだって!」


 世界より大きくて、眠っていた筈ではなかったのかと、頭が混乱してくる。


『あれは、本体では無い。意識と体が別れているのだろう。……だが、何故そんな事態が?』


 テオにも理解出来ない状況らしい。
 そして、テオは偽レナルドに向かって言った。


『我が弟よ! リーゼロッテは凛子ではない! 別人だ。其方も分かっているだろう!』


「うるさい、うるさい、うるさいっ! お前なんか大嫌いだっ!!」


 テオを鋭く睨んでそう言うと、拘束していたリングの中からパッと消えた。


(え……うそ?)


 あの拘束具から、簡単に抜け出せるとは思いもしなかった。


 割れ続けていた地面は鎮まり、レナルドに扮したテオの弟の気配は全く無くなった。
 テオの背中から降りて、辺りを見渡す。
 危ないので、あちらこちら谷のような状態になってしまった地を塞いでおく。
 
「テオは、よくここが分かったわね?」


『それは、従魔契約しているからな』


「そっか。とりあえず、学院へ戻らない……と」


 リーゼロッテの手がヌルリとした。


(――え!?)
 
 手を見ると、べったりと血がついている。
 しかも生温かく、自分は怪我も無ければ痛みもない。


 ハッとしてテオを見ると、脇腹辺りの毛が真っ赤に染まっていた。


「テオ! あなた、怪我をっ!?」


『大した事は無い。舐めておけば治る』


「絶対、駄目。私が治す!」


 傷口がよく見えないので人の姿になってもらうと、それは完全に刺し傷だった。直ぐに癒しをかけるが――いつもより治りが遅い。


「誰にやられたの? それに、ただの傷じゃない……」


「多分、操られた本物のレナルドだろう。やつの剣には、魔法が付与され……厄介な毒が塗られていたようだ」


 大事なテオを傷つけられ、頭にきた。
 リーゼロッテは自分の魔力をダイレクトに流し込み、テオの身体を巡らせると毒を打ち消していく。それと同時に癒しも強めた。


 すると、やっと傷口が塞がり始め、きれいに治った。


「全然、大した事あるじゃない! 私は、テオの主人なんでしょっ。ちゃんと………ちゃんと、頼ってよ!」


 ポロポロと勝手に目から溢れる涙が、横になっているテオに落ちる。


 人前で泣くのが嫌いと言っていたリーゼロッテを泣かせてしまい、テオは困ったような顔をする。
「すまなかった」と、テオはそっとリーゼロッテの頭を撫でた。


 ぎこちないその仕草と、初めて見るテオの表情。泣き笑いになったリーゼロッテは「許すわ」と言った。






 それから二人は、学院の裏庭へと転移した。


 襲ってきた本物のレナルドは、意識を失っているそうで、テオの部屋に拘束して寝かせているそうだ。


 リーゼロッテは、気配を完全に消して教室へと向かう。


 急にリーゼロッテと偽レナルドが消えたのだ。
 流石に、教室内がどんな状況になっているのかと不安になったが――そっと覗くと、普段と変わりない風景だった。


 恐る恐る気配を戻して教室に入ると、直ぐにジョアンヌがやって来た。


「あら? もう気分はよろしくて?」


「えっ?」


 リーゼロッテは意味が分からずキョトンとする。


「ご気分が悪いと、保健室へ行かれたじゃない? 心配していましたのよ」


(保健室? 偽レナルドの仕業?)


「あ、あの、ジョアンヌ様。レナルド様はどこに?」
 
 キョロキョロしたリーゼロッテに、ジョアンヌは呆れ顔で言う。


「レナルド様は、二年生でしょ。ここに居る訳ありませんわ。リーゼロッテ様、まだ具合がよろしくないのね。今日はお帰りになられた方が良いのではなくて?」


「そ、そうかもしれませんね。今日は、早退致しますわ。ジョアンヌ様、ご機嫌よう〜」


 と、リーゼロッテはそそくさと教室を離れた。


 歩きながらテオに念話して、本物のレナルドの状況を見てもらう。
 すると、レナルドはテオの部屋からもう居なくなっていた。確信は無いが、本物のレナルドは二年の教室に居るような気がした。


(これをやったのは……テオの弟ね)
 
 急いで、図書館の書庫へ行き、女神について調べなければと思った。
 そこにはきっと、リーゼロッテの知りたい答えがある。
 
(たぶん、彼が言った凛子が……女神だ。そして、私と同じ転生者――)


 そんな気がしてならなかった。
 







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