転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜

Y.ひまわり

62.偽レナルド

「おはよう、リーゼロッテ嬢。昨日は、素晴らしい時間をありがとう。二人で話せて嬉しかったよ」


 いけしゃあしゃあと、偽レナルドはのたまった。
 既に、ジョアンヌとパトリスが操られているのは明らかだった。解除方法がわからないなら、合わせておくしかない。


「レナルド様、おはようございます」
 
「あら、お二人はもうお会いになってらしたのね」


 ジョアンヌは驚いている。


「なんだ。それなら、私も誘ってほしかったな……」とパトリスは、レナルドに耳打ちをした。


 陶器のように白い肌に黒い瞳のレナルドは、リーゼロッテを魅了しようとでもしているのか、甘い雰囲気で見詰めてくる。
 そして、男性らしくない綺麗な赤い唇を動かす。


「たまたまですよね、リーゼロッテ嬢。図書館でばったりお会いして……ね?」
 
 その口から発せられた言葉を聞くと、またも頭にモヤが掛かったような感じになる。


(……昨日のやつだ。ええいっ、鬱陶しい!)


 イラッとしたら、抑えていた魔力が身体を巡った。
 すると、急にパァッ――と頭がスッキリする。


 ピクリッと、レナルドの形の良い眉が動いたかと思うと、フッと口角を上げた。


(おや? あ……そうか)


 今までリーゼロッテは、極力目立たないように、魔力を大分抑えていた。
 だから、多少なりとも言霊魔法の影響を受けてしまったのだ。本来の状態なら、全く影響は受けなかったのだろう。
 
(もしかしたら……)


 リーゼロッテの魔力を二人に流せば、一時的には解けるかもしれない。
 だが、魔石を壊すのと違い、言霊は物ではないのだ。


 チラリと偽レナルドを見る。


(解いたところで、次から次へと言霊を使って話されたら……他人にずっと魔力を流し続けることは不可能だわ)


 リーゼロッテは諦めて、そのまま四人で貴族院の中へと移動した。


 一年生の教室へ着くと、当然パトリスとレナルドは二年の階へと向かうはずが――


「またね、パトリス」とレナルド。


「レナルド、また後で」とパトリスも返事する。


(はい?)


 意味が分からない。
 何故、二年のレナルドがリーゼロッテに付いて一年の教室へ入って来るのか。


「レナルド様は二年生。教室をお間違えですわ」と、リーゼロッテは優しく言ったが……。
 
「いや。僕は一年生でクラスメイトだよね? ジョアンヌ嬢」


「ええ、レナルド様はクラスメイトですわ。リーゼロッテ様ったら、どうされたの?」


 ジョアンヌは、いとも簡単に操られる。


「それに、僕はリーゼロッテ嬢の隣の席だよ。ね、みんな!」
 
 教室に居たクラスメイトは、皆にこやかに頷いた。
 リーゼロッテの隣の席だった令嬢は、さっさと移動していく。


(ぐうぅっ、なんて厄介な魔法なの! それに、こんなに一度にみんなを操るなんてっ)


 このレナルドは、リーゼロッテが自分を偽者だと気付いている事を知った上で、近付いてきているのだ。
 どんな目的があってやっているのか、リーゼロッテにはサッパリ解らない。


 授業が始まっても――。
 レナルドは正面を見ようともせず、横のリーゼロッテをニコニコしながらずっと眺めている。
 気不味いので、小声でレナルドに訴えた。


「あの……? これでは、気になって勉強がし難いですわ」


「じゃあ、僕と話していよう」


 レナルドは楽しそうにそう言うと、突然リーゼロッテとレナルドの周りだけに、何らかの結界を張った。


「ほら、これで誰も僕らに干渉しないよ。ねえ、リーゼロッテ、沢山お話しようよ。それとも、遊ぶ?」


 美しい顔で無邪気に笑うレナルドに、異様さを感じた。いつの間にか、呼び方も呼び捨てに変わっている。


「レナルド様。私は勉強をする為に、この学院に居るのです。お話しは、放課後でもよろしいのではないですか?」


「え〜、ダメだよ。だって、それだと邪魔が入っちゃうでしょ。折角、リーゼロッテから


(邪魔って……テオのこと? それに、離したって……)


 何だかもの凄く、嫌な予感がした。


「ねえ、遊ぼうよ。例えばさ、僕が死ねって言ったら……彼女はどんな死に方をするのかな?」


 まるで闇みたいな黒い瞳は、嘲笑うかのように、リーゼロッテの奥に座って授業を受けている――ジョアンヌを見ていた。
 
『ブチッ!』と、リーゼロッテの中で何かが切れた。


 人は怒りも頂点を越すと、逆に冷静になるらしい。
 リーゼロッテは冷たい笑顔で無言で立ち上がると、レナルドの手を掴んだ。


(……逃さないわよ)


 次の瞬間、リーゼロッテは偽レナルドを連れ一緒に転移する。
 辺境伯領の誰も足を踏み入れない最果てに。


 ここは、リーゼロッテがテオとの威力を試した場所だ。連なる山脈の、一部が無くなり見通しが良くなっている。


「へえ。面白そうな所だね」と、レナルドは楽しそうに笑う。


「そうでしょう? 遊ぶなら誰も居ない方がいいわ」


 リーゼロッテは滅多にしない、自分の魔力を解放した。


「ふふっ、やっぱりリーゼロッテは素晴らしいね!」
 
 偽レナルドはふわりと宙に浮くと、リーゼロッテに向かって魔力攻撃を打ち出した。


 リーゼロッテはそれを躱すと、手の平にオーロラの球を作りレナルドに向かって投げつける。
 球は空中で、幾つものリングに変化すると、レナルドを拘束した。


「やっぱり、その魔力! 記憶も取り戻したでしょう! ねっ、僕を思い出した?」


 瞠目した偽レナルドは興奮している。


「――記憶?」


(一周目のこと? それとも転生前のこと?)
 
 目の前の、偽レナルドが誰なのか一向に分からない。
 首を傾げたリーゼロッテに、レナルドは苛立ったように舌打ちした。


「……ちゃんと思いだしてよっ! 凛子!」




 偽レナルドが声を荒げた途端、ゴゴゴ……ッと地割れが起こり出した――。








 







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