転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜

Y.ひまわり

54.抱いた懸念

「魔玻璃の祝福を受け、リーゼロッテの力が更に強くなった――そういう事だな?」


「その通りだ」


 ルイスの問いに、テオは簡潔に答えた。
 執務室には、ルイスの他にテオとリーゼロッテ、ファーガスが居た。珍しく、ルイスは眉根を寄せて顳顬こめかみを押さえている。


「リーゼロッテ様は、本当に素晴らしい御力があるのですね。感謝しかありません」


 腕を治してもらったファーガスは、自分の腕をそっと触る。喜びに反してルイスの雰囲気が沈んでいる為、大人しめにお礼を言った。


「ファーガス。私としても腕が治って嬉しいのだが……その腕を治した者が、リーゼロッテだと誰にも言わないでほしい。その力は、明らかに聖女の域を超越してしまっている。そうだろう……テオ」


「何を今更……最初から超越しているがな。ルイスの懸念は、リーゼロッテを女神の二の舞にしたくないのだろう? 人間とは繰り返す生き物だからな」


 肩を竦めたテオは、人間を冷めた目で見ていた。
 ふぅ……と、ルイスは息を吐く。


「そうだ。これが広まれば、リーゼロッテの力を手に入れようと、戦争が起こってもおかしくない。今度は人間同士の、だ」


 ――ゾクッと、背筋が冷たくなる。


「……戦争。それは……絶対に嫌です」


 人を助ける為に力を使い、それにより多くの人が殺し合う。それでは本末転倒、悲劇でしかない。
 大切な人を守りたいと、ループや転生をした自分が、この世界に居る意味がわからなくなってしまう。


 戦争など経験したことは無いが、転生前はそういった作品に関わる仕事も数多くあった。
 何が正義で何が悪なのか、それは主人公の立ち位置で全く異なるのだ。
 
(だったら……)


 まだ、火種となる物は隠し通す方がましだと思った。たとえ、それが卑怯だと言われたとしても。
 リーゼロッテの言葉に、ルイスは頷く。


「だから、リーゼロッテもその力は使わないでほしい」


「わかりました。最低限の癒し以外は……使いません。この事はジェラール殿下にも?」


 ルイスは暫く考える。


「……私から、伝えよう。ファーガスの腕が治ったことも、他の理由付けが必要だ。殿下の協力が欲しいが、婚約者である皇女から、帝国に漏れる事はあってはならない」


 戦略を立てるように、ルイスは最善策を模索する。


「ファーガス、すまない。このまま暫く休暇を取ってくれ。隊には私から伝える」




 そして、ルイスとファーガスは王都へと向かった。




 
 ◇◇◇






「本当に、人間とは厄介な生き物だ」


「……そうね、難しいわ。……魔物の世界は違うの?」


「いや。それはそれで面倒事はある」


「何それ? じゃあ、魔物も厄介なんじゃない?」


 テオの言い分に思わず笑ってしまう。
 リーゼロッテとテオは、魔玻璃に向かって歩いていた。
 何でもテオが言うには、どうしても確認しておかなければならない事があるそうだ。


 いつもと何ら変わらないように見える、魔玻璃の前に立つ。


 魔玻璃を境に、オーロラみたいな複雑な色合いの結界が張られている。結界の向こう側は全く見えない。このオーロラの結界が裂けると、闇が見え魔獣が出てくるのだ。


「結界の向こうには何があるの?」


 素朴な疑問をぶつけてみた。


「……ただの闇だ」


「闇だけ? 沢山の魔獣が居るのでしょう?」
 
「そうだ。今から行く」
 
「……はぁ!? え、いや流石に無理でしょう?」


「今のリーゼロッテは、魔力が増えていると言った筈だ。それは、光だけでは無く闇の方もだ。手に魔力を集めながら、結界に触れてみろ」


 もう、訳がわからな過ぎて考えるのを止めた。
 恐る恐る手を結界に近付ける。


(静電気みたいにバチっとしたりして。痛いのは勘弁してほしいわ)


 触れた瞬間、予想外に結界は冷たく感じるだけだった。


 そのまま、結界を押すと――ズプリと手が入る。
 硬いと思っていた結界は、まるで違っていた。水というか、ゲル状の物に手を沈めた感覚に近い。


(……温かければパラフィンパックみたいね)


 そんな呑気なことを考えていたら、テオに腰を掴まれグッと中へ押し込まれた。


(ひやぁ!! 溺れるっ!?)


 スルリと結界を抜けると、其処は確かに闇だった。


(ん……あら、濡れてない。ここは、真っ暗な……森?)
 
『いいか、主人。決して声は出すな』


 完全なフェンリルの姿に戻ったテオは、念話でリーゼロッテに釘を刺した。頷いたリーゼロッテを背に乗せると、闇の森を勢いよく走り出す。
 振り落とされない様にしっかり掴まりながら、テオへ念話を送る。


『此処は一体どこなの? 森の中?』


『人間が付けた言葉で言うなら、魔界だ』


『はああぁぁあ!? それって、人間が入っちゃいけない場所じゃない? もしかして、私食べられちゃうやつ?』


『……安心しろ。普通の人間なら食べられるが、リーゼロッテは普通じゃない。寧ろ……』


 テオは、急に止まった。
 
『しまった……。もう、気付かれたか』


 テオの視線の先には、暗闇にうごめく無数の真っ赤な眼がいくつもあった。赤い眼は、テオではなくジーッとリーゼロッテだけを見詰めている。


(ホラーとかグロいのとか、リアルは本当に無理なんですけど……)


 泣きそうだった。













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