転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜
45.魔術師の正体
 ――魔術師の正体がわかった。
それを確かめるべく、リーゼロッテは東の空が明るくなってくると、王宮へと転移した。
外から入ってくる柔らかい光を背に受けて、この部屋の主は窓辺に佇んでいる。
まるで、リーゼロッテがやって来るのを待っていたかのように。
「やあ、辺境の地の聖女様。……いや、女神様と言うべきかな?」
「クリストフ殿下、突然申し訳ありません。……不敬は承知しておりますが、この時間が一番邪魔が入らないと思いまして」
「私もそう思っていたよ。……貴女は全てが解ったのだろう?」
穏やかに話すクリストフ殿下は、相変わらず顔色が悪かった。
「……残念ながら、全てではありません」
リーゼロッテは、言葉を切って深呼吸する。
「私にわかったのは、殿下があの人を操る魔石を作っていることと……自ら、ご自身の魔力を魔石に流しているということ。そして、私の両親が亡くなった時、あの洞窟にクリストフ殿下も居た――その位です」
クリストフは、面白そうに笑みを浮かべて頷いた。
心の内を悟られないようにしたいのか、少し茶化すように言う。
「どうして、私が魔石に自ら魔力を流していると?」
「私が魔石を渡した時に、魔力が吸われているかのように、ご自身で流し込みましたよね? 考えれば、あんな量の魔力が沢山の魔石に吸われているのなら、とっくに殿下の魔力は枯渇してますよ」
「ああ、確かに。分かり易くする為に、やり過ぎてしまったね。あの魔石は、まだ未完成なんだ。かなり自然に相手を操れるのだが、私の魔力が切れると使い物にならなくなる。……私の師匠が作った魔石の方が、余程素晴らしい物だった。対の魔道具にだけ、魔力を流せばよいのだから」
(フランツに埋め込まれた魔石のことかしら?)
言われてみれば、何年もの時間が経過してもまだ、フランツを操ることが出来ていた。
クリストフは亡くなった魔術師を、とても尊敬しているのだろう。
「殿下は、死を望んでいるのですか?」
リーゼロッテの言葉に、クリストフは目を大きく見開いた。
「何故そう思う?」
「殿下のされていることは、かなり自虐的ですし……。何よりジェラール殿下を王太子にしたいと、そう望んでいらっしゃるのではないでしょうか?」
クリストフの穏やかだった表情が急に鋭くなり、リーゼロッテを射貫くように見詰める。
一瞬、怯みそうになったが負けじと言葉を探す。
「ここからは、私の勝手な想像です。クリストフ殿下の属性に気付いたのは、王妃殿下ではないでしょうか? 国王陛下には言えず……信頼している宮廷魔術師に、髪や瞳の色を変える魔道具を作らせ誤魔化し続けた。その宮廷魔術師が、クリストフ殿下の師匠でしょう。そして、教会に闇属性を消す方法……もしくは、闇を弱めて副属性を得られないかと、尋ねたのではないでしょうか?」
「そう、母上は……選りに選って父上でなく、母方の親戚でもある教皇聖下を頼ってしまったんだ。そして、辺境伯領にある聖遺跡を手に入れれば、属性を光に変えることが出来ると信じてしまった。正直、私も優秀なジェラールの存在に脅えなくて済むと思った。その後の出来事は、クレマンに聞いたのだろう?」
「はい。……殿下は、ご自身を責めたのですね?」
「国の為ではなく、私の個人的な望みの為に多くの命が失われたのだ……。それも、聖遺跡を手に入れたかっただけの教皇に騙されて」
ふと、不思議に思った。
「教皇には、魔玻璃の真実は伝えなかったのですか?」
「勿論、伝えたさ。信じるどころか、逆にあの件と属性のこと。属性を隠した母上の罪を問うと――脅された。相手は教皇だ。下手をすれば、父上も引き摺り落とされる。そうなれば、この国は……」
(だから教会の言いなりに、魔石を作っていたのね。教皇って、思い込みの激しいヤバい人よね絶対……)
「つまり、王族の弱みになってしまったクリストフ殿下が、自然に魔力枯渇で亡くなってしまえばいいと?」
「ジェラールは小さな頃から優秀だった。昔は、妬んだこともあったが、今は頼もしい。何せ、ここ数年は目を見張るほど、国の為に動き回っている」
(まあ、そりゃループで二度目で色々と分かってますから……。でも、それは)
「国ではなく、クリストフ殿下の為ではないですか? ジェラール殿下は、クリストフ殿下が国王になり、共に国を支えたいとお考えなのではないでしょうか?」
「そんは馬鹿なこと! 王子として生まれたのだ、国王を目指すのは当たり前だ。その為に研鑽を重ねてきたのだろうからな」
「うーん。では、それはご本人に訊いてみてください」
「……は?」
カチャリと扉が開き、テオと一緒にジェラールが入って来た。
正直――。リーゼロッテは、ジェラールにこの件を伝えるか迷っていたのだ。これを聞いた、ジェラールが傷つくのが嫌だったから。
だけど、自分だったら……それが辛かろうと知りたいと思った。
辺境伯領から、先ずはジェラールのいつもの部屋に転移し、急いでやって来たジェラールに大まかに説明した。やはり、ジェラールも真実を知りたいと言った。
そして、リーゼロッテ一人でクリストフ殿下の元へ転移し、テオとジェラールは隣の部屋で待機し、全てを聞いていたのだ。
「兄上。私は、国王の地位など望んではおりません」
ジェラールはクリストフを真っ直ぐに見ると、キッパリ言い切った。
「……だが!」
「優秀なのは兄上の方です。リーゼロッテに祝福の魔力を多めにと指示したのは、枢機卿ではなく兄上でしょう? あの貴族達は、これから先……国にとって大切な役割を果たせる者達です。だから、魔石が埋め込まれた場合に備えて、リーゼロッテの魔力を与えようと」
「……あの時に、リーゼロッテの力を知ったからな」
(ああ、そういう事だったのね。祝福の魔力量誤魔化しちゃったわ……。ま、大丈夫だろうけど)
「あの、お二人共優秀なのですから……二人で国を守れば良くないですか? 所詮、国王一人だけで国を守るなんて出来ないのですから。今はまだ、現国王陛下が居ますしね。決めるのは陛下です。――それよりもっ! 教皇にお仕置きが必要ではないでしょうか?」
リーゼロッテは、ふふふ……と不敵に微笑んだ。
それを確かめるべく、リーゼロッテは東の空が明るくなってくると、王宮へと転移した。
外から入ってくる柔らかい光を背に受けて、この部屋の主は窓辺に佇んでいる。
まるで、リーゼロッテがやって来るのを待っていたかのように。
「やあ、辺境の地の聖女様。……いや、女神様と言うべきかな?」
「クリストフ殿下、突然申し訳ありません。……不敬は承知しておりますが、この時間が一番邪魔が入らないと思いまして」
「私もそう思っていたよ。……貴女は全てが解ったのだろう?」
穏やかに話すクリストフ殿下は、相変わらず顔色が悪かった。
「……残念ながら、全てではありません」
リーゼロッテは、言葉を切って深呼吸する。
「私にわかったのは、殿下があの人を操る魔石を作っていることと……自ら、ご自身の魔力を魔石に流しているということ。そして、私の両親が亡くなった時、あの洞窟にクリストフ殿下も居た――その位です」
クリストフは、面白そうに笑みを浮かべて頷いた。
心の内を悟られないようにしたいのか、少し茶化すように言う。
「どうして、私が魔石に自ら魔力を流していると?」
「私が魔石を渡した時に、魔力が吸われているかのように、ご自身で流し込みましたよね? 考えれば、あんな量の魔力が沢山の魔石に吸われているのなら、とっくに殿下の魔力は枯渇してますよ」
「ああ、確かに。分かり易くする為に、やり過ぎてしまったね。あの魔石は、まだ未完成なんだ。かなり自然に相手を操れるのだが、私の魔力が切れると使い物にならなくなる。……私の師匠が作った魔石の方が、余程素晴らしい物だった。対の魔道具にだけ、魔力を流せばよいのだから」
(フランツに埋め込まれた魔石のことかしら?)
言われてみれば、何年もの時間が経過してもまだ、フランツを操ることが出来ていた。
クリストフは亡くなった魔術師を、とても尊敬しているのだろう。
「殿下は、死を望んでいるのですか?」
リーゼロッテの言葉に、クリストフは目を大きく見開いた。
「何故そう思う?」
「殿下のされていることは、かなり自虐的ですし……。何よりジェラール殿下を王太子にしたいと、そう望んでいらっしゃるのではないでしょうか?」
クリストフの穏やかだった表情が急に鋭くなり、リーゼロッテを射貫くように見詰める。
一瞬、怯みそうになったが負けじと言葉を探す。
「ここからは、私の勝手な想像です。クリストフ殿下の属性に気付いたのは、王妃殿下ではないでしょうか? 国王陛下には言えず……信頼している宮廷魔術師に、髪や瞳の色を変える魔道具を作らせ誤魔化し続けた。その宮廷魔術師が、クリストフ殿下の師匠でしょう。そして、教会に闇属性を消す方法……もしくは、闇を弱めて副属性を得られないかと、尋ねたのではないでしょうか?」
「そう、母上は……選りに選って父上でなく、母方の親戚でもある教皇聖下を頼ってしまったんだ。そして、辺境伯領にある聖遺跡を手に入れれば、属性を光に変えることが出来ると信じてしまった。正直、私も優秀なジェラールの存在に脅えなくて済むと思った。その後の出来事は、クレマンに聞いたのだろう?」
「はい。……殿下は、ご自身を責めたのですね?」
「国の為ではなく、私の個人的な望みの為に多くの命が失われたのだ……。それも、聖遺跡を手に入れたかっただけの教皇に騙されて」
ふと、不思議に思った。
「教皇には、魔玻璃の真実は伝えなかったのですか?」
「勿論、伝えたさ。信じるどころか、逆にあの件と属性のこと。属性を隠した母上の罪を問うと――脅された。相手は教皇だ。下手をすれば、父上も引き摺り落とされる。そうなれば、この国は……」
(だから教会の言いなりに、魔石を作っていたのね。教皇って、思い込みの激しいヤバい人よね絶対……)
「つまり、王族の弱みになってしまったクリストフ殿下が、自然に魔力枯渇で亡くなってしまえばいいと?」
「ジェラールは小さな頃から優秀だった。昔は、妬んだこともあったが、今は頼もしい。何せ、ここ数年は目を見張るほど、国の為に動き回っている」
(まあ、そりゃループで二度目で色々と分かってますから……。でも、それは)
「国ではなく、クリストフ殿下の為ではないですか? ジェラール殿下は、クリストフ殿下が国王になり、共に国を支えたいとお考えなのではないでしょうか?」
「そんは馬鹿なこと! 王子として生まれたのだ、国王を目指すのは当たり前だ。その為に研鑽を重ねてきたのだろうからな」
「うーん。では、それはご本人に訊いてみてください」
「……は?」
カチャリと扉が開き、テオと一緒にジェラールが入って来た。
正直――。リーゼロッテは、ジェラールにこの件を伝えるか迷っていたのだ。これを聞いた、ジェラールが傷つくのが嫌だったから。
だけど、自分だったら……それが辛かろうと知りたいと思った。
辺境伯領から、先ずはジェラールのいつもの部屋に転移し、急いでやって来たジェラールに大まかに説明した。やはり、ジェラールも真実を知りたいと言った。
そして、リーゼロッテ一人でクリストフ殿下の元へ転移し、テオとジェラールは隣の部屋で待機し、全てを聞いていたのだ。
「兄上。私は、国王の地位など望んではおりません」
ジェラールはクリストフを真っ直ぐに見ると、キッパリ言い切った。
「……だが!」
「優秀なのは兄上の方です。リーゼロッテに祝福の魔力を多めにと指示したのは、枢機卿ではなく兄上でしょう? あの貴族達は、これから先……国にとって大切な役割を果たせる者達です。だから、魔石が埋め込まれた場合に備えて、リーゼロッテの魔力を与えようと」
「……あの時に、リーゼロッテの力を知ったからな」
(ああ、そういう事だったのね。祝福の魔力量誤魔化しちゃったわ……。ま、大丈夫だろうけど)
「あの、お二人共優秀なのですから……二人で国を守れば良くないですか? 所詮、国王一人だけで国を守るなんて出来ないのですから。今はまだ、現国王陛下が居ますしね。決めるのは陛下です。――それよりもっ! 教皇にお仕置きが必要ではないでしょうか?」
リーゼロッテは、ふふふ……と不敵に微笑んだ。
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