転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜

Y.ひまわり

44.洞窟での懺悔

 リーゼロッテが魔玻璃に近づいて行くと、いつもの様に魔玻璃の光が強くなり輝きが増す。


 光の近くに居る二人と、捕らえられた者のシルエットが見えて来た。


 まだ見つかってはいなかったが、フランツが洞窟内に描きそびれた魔法陣の他に、古い転移陣が隠されている可能性があった。


 だから、魔力感知が得意なファーガスとテオに、洞窟に不自然な魔力の流れが無いか確認してもらっていたのだ。
 テオだけに頼んでも良かったが、ファーガスと二人一組にしたのは――もし百年前のように、魔獣を捕らえられる魔術師が居た場合に備えてだ。


 そして、其処からやって来るであろう者を、テオがフェンリルの姿に戻り、威嚇し捕まえる計画を立てた。
 テオの咆哮は、かなりの威力だから。


(ファーガス、ごめんね……)


 テオとファーガスによって、魔玻璃の前で捕らえられていたのは、辺境伯領の教会のラシャド司祭だった。


 枢機卿等が洞窟に転移したと聞いて、慌ててやって来たのだろう。
 項垂れたラシャド司祭は、リーゼロッテに気がついた。顔を上げると、瞠目する。
 魔玻璃の輝きの中に立つリーゼロッテが、女神にでも見えたのだろうか。まるで、懺悔をするかのように、急に話し出した。


 ラシャド司祭――正しくは、クレマン司教。


 二人は入れ替わっていたのだ。
 当時、クレマンは教会から派遣されて、この領地で司祭をしていた。


 つまり、クレマンが最初に魔石をフランツや使用人に埋め込んだ人間だ。本物のラシャドは、クレマンの下で助祭をしていた。
 クレマンが司教に昇格すると、そのままラシャドが司祭になった。


 そして、クレマンが司教として王都へ行く時に、ラシャドと入れ替わったのだ。元々、年齢の近い二人は雰囲気がよく似ていたのだろう。
 あの結界に亀裂が入った一件で、辺境伯領は荒れて大変だった為、領民に気付かれる事は無かった。


 クレマンは、真面目で正義感の強いラシャドに聖女の事実を話して、自分に成り代わり彼女たちの手助けをしてほしいと説得したそうだ。
 自分には、この領地でやり残したことがあるからと。
 その後、ユベールが助祭としてやって来た。


 両親が殺された日、黒の外套を着ていた二人の内、一人はこの男だったのだ。


(……やはり、そうだったのね)
 
 魔術師と共に手練れを金で雇い、魔玻璃を手に入れようとやって来たのだと言う。
 想定外の出来事で失敗し、魔獣とリカード達にほぼ全滅させられた。生き残ったのは、たった三人だけだったと。


(寧ろ、よくあの状況で生き残ったものだわ)


 ファーガスの腕を見て、つくづく思う。


 魔術師が最後の力を振り絞り、軽傷の三人だけ転移させた。
 クレマンと、宮廷で捕まった男。
 そしてもう一人……。


 枢機卿は、その時雇われた手練れの仲間だった。狡賢く、色々と調べあげて権力者を脅し、今の地位を築いたのだ。 
 枢機卿が醸し出す俗人ぽさ……リーゼロッテの直感は当たっていた。


「クレマン司教。貴方の役目は、此処を監視することだったのですね?」


 リーゼロッテは静かに尋ねる。


「……私達は偽の情報を信じて、大きな間違いを犯しました。教会は、まだ間違った情報を信じているのです。従順な振りをして、ずっと様子を窺っていました。助けてくださった……あの方の為に」


(魔術師は死んでいたのね。そうなると……嫌だな)


 リーゼロッテは表情を曇らせる。


 クレマンは、魔玻璃の存在の意味を知ったのだ。
 王と辺境伯しか知らない事実。魔玻璃が決して聖遺跡のお飾りではないのだと。


「あなた方を助けた魔術師は、宮廷魔術師だったのではないですか?」


 クレマンは、頷いた。


「そうです。彼は、宮廷魔術師でした。彼が居なければ、私達は生きていなかったでしょう。そして、聖遺跡を手に入れたがっているのは、教皇聖下です」


「……教皇だと!?」
 
 ルイスが息を呑んだ。


 まさか、教皇が関わっているとは思わなかった。国王に匹敵する教会の最高権力者。
 その人物が、魔玻璃を手に入れようとしているということは……。王族との力関係を変えるつもりなのだ。


「だが、魔玻璃はただの聖遺跡などではない!」


 ルイスの言葉にクレマンは頷いた。


「はい。……ですが、教会の歴史書には別の事が書かれているそうなのです。聖遺跡を手に入れれば、女神が現れて世界を統一する事ができると」


「……なっ! 馬鹿な!!」 


 その場にいた全員が唖然とした。
 長い歴史の中で、王家が隠した事実が歪んだ形で教会には伝わってしまったのかもしれない。


(だあぁぁぁ! これが全ての元凶だったのね)


 ジェラールに自分の推理を話した後、リーゼロッテは色々と考えたのだ。リーゼロッテが立てた仮説には、沢山の穴があった。
 その穴を徐々に埋めていくと、だんだん違う方向に真実が見えてきた。


 当時の魔術師がいない今、新しい魔石を用意している魔術師は――。


 それは、当たってほしくなかった真実。
 クレマンの言葉で、それがはっきりとした。


(まあ、枢機卿が捕まったから、直ぐに教会が動くことはないでしょうけど。魔玻璃は到底移動できる物ではないし……。教皇については、後々考えるとして……うーん、よしっ!)


「お父様、明日ちょっと王宮まで行ってきます」


 
 


 





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