転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜

Y.ひまわり

40.推理します

 見覚えがあったのか、魔石を手に取り透かす様にかざして中の紋様を見る。


「……これはっ。……ぅぐっ!?」
 
「あ、兄上!?」


 クリストフは、魔石を持ってない手で頭を押さえた。
 リーゼロッテがクリストフの眼を見ると、まるで瞳が魔石になったかのように赤くなり、黒い紋様が浮き出るように現れた。
 直ぐにクリストフの手にあった魔石を取り上げて、もう一度癒しをかけ鎮静させた。


 ――パタリと、クリストフはベッドに倒れる。


(やはり、そうだったのね……)


 リーゼロッテは、この部屋に結界を張ると外との繋がりを遮断した。


「リーゼロッテ! 兄上に何をした!?」


「私は何も。癒しをもう一度かけました。殿下は……今は眠っただけです。ジェラール殿下、貴方にもちゃんと話していただかないといけません」 


 リーゼロッテの静かな言い回しに、ジェラールは戸惑った。見た目はリーゼロッテだが、リリーみたいな大人の口調になってる。リリー姿の時は、わざと大人びた喋り方にしているのかと思っていたのだ。


「この……黒魔法が施された魔石は、クリストフ殿下が作った物ではありませんか?」


「ま、まさかっ!」


「多分、お一人では無理でしょう。フランツに埋め込んだ時期を考えると、もっと別の……。例えば、殿下にとっての魔術の師匠とか?」
 
 考えながら話すリーゼロッテの推測に、ジェラールは固唾を呑む。


「それに、先程の殿下の髪と瞳の色の変化。クリストフ殿下は小さな頃から、金髪で青い瞳だったのではないですか? ジェラール殿下は、黒髪黒眼に驚いてらっしゃいましたよね?」


「ああ、確かに子供の頃から……兄上は、金髪で青い瞳だった」


「つまり国王陛下か、又は王妃殿下が……クリストフ殿下の闇属性を知っていて隠蔽していた。宮廷魔術師の誰かを使って。――そして、その魔術師は魔玻璃を狙っている者」


 ジェラールは目を見開いた。


「どうして、そんなことが分かるのだ!! 兄上が闇属性だから、魔玻璃を狙っていると言いたいのかっ!?」


「違います」と、リーゼロッテはキッパリ言い切る。


「訳がわからん!」


 苛立ちを隠せないジェラールの口調は強くなり、リーゼロッテを見据えた。


「いいですか。クリストフ殿下は、誰かに利用されています。殿下の魔力が、この魔石に吸い取られているのです。ループする前、この時期の殿下はここまで悪化していましたか?」


「……いや、普通に執務を行える程度だった」


「これは、仮説ですが……。私達がループして、この魔石の存在を知り、壊したり回収したりしています。ですから、一周目に比べてクリストフ殿下からの魔力が、相当な量を消費されているのだと思います。王族であっても、魔力量には限界があるのではないですか?」


「確かに……だがっ!」


「先程、殿下が魔石を持った瞬間、魔石にクリストフ殿下の魔力が流れていきました。……今、この部屋には私が結界を張っています。結界を解けば、また殿下の魔力は外の魔石へと流れて行くでしょうね」


 リーゼロッテは、またクリストフに魔力枯渇の危機が来ると言っているのだ。
 
「ならば、どうすればいいのだっ!!」


 うーん……と、リーゼロッテは考える。


「では、こうしましょう! クリストフ殿下に協力してもらいます。ジェラール殿下、説得お願いします」


 胡乱げに視線を向けるジェラールを無視して、話を進めて行く。


「結界をこのままにして、クリストフ殿下は回復していないことにします。そうすれば、魔石に魔力が流れなくても怪しまれないでしょう?」
 
「……成る程」


「それから、ジェラール殿下は宮廷内を探って下さい。クリストフ殿下の隠蔽は、誰の指示で誰が行ったものなのか。私は、教会内部の人間を探ります」


 頷いたジェラールは、じーっとリーゼロッテを見詰めた。


「……何ですか?」


 コテリと首を傾げる。


「つくづく、リーゼロッテを……いや、敵に回したくないと思っただけだ」


 ジェラールは、何も言わずに自分を見ているテオの視線に気付いて、天を仰ぐと言葉を濁した。


「あ! あと一つ質問です」


「何だ?」


「ジェラール殿下が、あの洞窟へ追って来たのって……クリストフ殿下ですか?」


「……なぜ分かった?」


「何となくです」
 
 それ以上は訊けなかった。


 以前は――。
 漠然とだが、自分を追って来たのだと思っていた。
 だが、ジェラールが必死に追いかけていたのは、リーゼロッテではなくクリストフなのだと確信した。何かの罪を犯させないように。兄を助けたかったのだろう。


(でもそれは、一周目の出来事……)


 多分、ジェラールはもう対策をしている筈だ。
 だから、リーゼロッテがこれ以上、兄弟仲に踏み込み暴く必要は無いと感じた。


「お互い、大切な人を守る為にループまでしちゃうなんて。凄いですよね」


「全くだ。……エアハルト辺境伯には、少々妬けるがな」


 リーゼロッテのループ仲間に向けた優しい表情に、ジェラールは照れた様に笑みを返した。


 そして、王家へ恩が売れるかもと期待して待っていた枢機卿に、無理だったと伝え教会へと帰った。
 
(あ、忘れるところだった)


 クリストフから取り上げた魔石を、また自分の首に貼り付けた。


(さあ、いつでも来なさいっ!)







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