転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜

Y.ひまわり

37.動きます

 王太子について、ルイスが知っていることは教えてもらえた。


 王太子のクリストフは、ジェラールと少し歳の離れた兄弟だった。二人は正室と側室の腹違いの子であっても、とにかく仲が良かったそうだ。
 小さな頃からジェラールは、優秀な兄クリストフのようになりたくて、日々努力していた。クリストフ自身もジェラールを可愛がっていたそうだ。


 ルイスが近衛騎士だった頃、それはよく見る光景だったのだとか。


 ただ、ここ数年はクリストフの体調が思わしくなく、床に伏せることが増えたらしい。
 聖女に治してもらえば良いと考え、癒しも試したそうだが――先天性疾患らしく、完治出来なかったと。ごく一部の人間だけに知らされた。
 
「それでは……クリストフ殿下が、次期国王になるのは難しくないですか?」


「いや、命に関わる程ではないから大丈夫だと聞いている。余程、弟のジェラール殿下が優秀であれば別だが……臣下にいいように利用される愚かな者であれば、陛下は決して認めないだろう」
 
(ああ……だから、優秀さを隠して程々の馬鹿王子だと、自ら仮の姿を広めたのか)
 
 少し、ジェラールを見直した。
 
(もしかして、ループした今……兄の為に、この国全ての膿を出してしまうつもりなのかもしれない)
 


 そして――。


 その後やって来たファーガスからの話は、概ね予想通りだった。


 魔石を埋め込まれた使用人により、あの男達に引き渡されたフランツを追って、両親とファーガスは洞窟へ向かった。
 ファーガスは、人を操れる魔石については知らなかったので、何故フランツが連れ去られたのかずっと疑問だったそうだ。


 侵入者は、ほぼ雇われたのであろう、屈強な男達だったと。
 ただ――。
 いつの間にか、黒いフード付き外套がいとうを羽織った者が二人ほど増えていたそうだ。


 リカードとファーガスに加え、魔獣が大暴れしたので全滅した筈だと。外套男二人の遺体も、その場にあったのが確認されている。


(雇われた男の人数は曖昧だったかもしれない。もし、印象的な外套だけ、他の遺体にかけたのだとしたら?)


 外套を着ていた一人は、今捕らえられている教会の助祭の可能性が高い。
 魔石の埋め込みや、操られたフランツが魔法陣を洞窟の地面に描いた事から、かなりの魔術師が向こうにはいると推測できる。


(やはりジェラールの言う通り、早く内部へ潜り込むべきかもしれない。……それにしても、ねぇ)


 尋常ではない汗を、ダラダラ流しているファーガスが可哀想になってきた。


「ねえ、テオ。ファーガスの膝の上から降りてあげて」


『ファーガスよ、もう限界か?』


「い、いえ! フェンリル様の魔力を、こんなに感じる事が出来る機会は有りません! まだ、大丈夫です!」


 どの位の魔力量の放出で、ファーガスが感知し、更に耐えられるのかをテオは試していた。
 ストンっと、ファーガスから飛び降りるとテオは人の姿に戻った。


「どうだ、テオ?」と、ルイスが尋ねる。


「かなりの微量な状態でもわかる様だ。しかも、結構な威圧にも耐えられる。ファーガスは、中々使えるぞ」


(うわぁ……威圧までしていたのか)


 ルイスとテオの会話に、厳ついファーガスは涙目だったが、自分の使命を感じたのか嬉しそうだった。






 ◇◇◇




 
 いつもの様に、リーゼロッテが教会へ行くと――。


 出迎えたユベールによって、今日は王都の教会から司教がやって来ると聞かされた。
 聖女のように癒しを使えるリーゼロッテの話を聞き、ぜひ会いたいと連絡が来たと。


 本当に予測した日数での教会の動きに、リーゼロッテはほくそ笑んだ。
 
 やって来た司教は、リリーとして一度離宮で会った人物だった。


 以前と変わらない温厚そうな表情で、リーゼロッテの能力を確かめると……リーゼロッテの力は聖女として、王都の教会へ行かなければいけないものだと言った。
 司教は、保護者であるルイスとも話す必要があるからと、リーゼロッテにルイス宛の書状を渡す。


 帰り際、リーゼロッテが馬車に向かって歩き出したところで


「ああっ! お嬢様のお首に蜂が!! 危ないですから、じっとして下さい」


 リーゼロッテの首にとまった蜂を、慌ててラシャドが取ってくれた。


 お礼を言って馬車に乗り込み、しばらく行くと――。


 リーゼロッテはラシャドによって、自分の首に埋め込まれた魔石を、壊さないようにそっと取り出した。
 勿論、本当に埋め込まれた訳ではない。


 ラシャドに首に蜂がと言われた瞬間、首の部分にシールドを施した。
 そして、首に魔石が入ったように隠蔽した。
 もしも、リーゼロッテに本当に埋め込めば、一瞬で魔石は粉々だ。


「テオの言った通り、私にこの魔石は効かないみたいね」


「当たり前だ。大前提として、リーゼロッテより魔力が多くなければ話にならぬ。しかも、遠隔で圧倒的強者を操れる者など、居るわけがないのだ」
 
 首のシールドの上に貼り付いた魔石から、頭の中へ言葉が響いてくる。


《聖女になりたいと、エアハルト辺境伯を説得しろ》と。


「でも、これで向こうが魔石で操りたい内容は聞けるわ。上手く、しなくちゃね」


 リーゼロッテは、大人っぽく微笑んだ。






 ――そして翌々日。


 ルイスと司教による、辺境伯邸での面会が決まった。


 ルイスからの絶対条件として、テオを従者として連れて行くことと、定期的な帰省が出された。


 定期的な帰省は、テオを連れて行くのを駄目だと言われた時に、妥協として無くしてもよい条件だ。
 そもそも、リーゼロッテは自分で転移出来るのだから。


 勿論、教会は折れるしかなかったが。


 無理なら国王陛下に相談すると、ルイスは脅したのだ。
 それだけ、この国にとって辺境伯は重要な人物ということ。
 もしも、ルイスが結界を解けば……結界を張れる聖女なんて居ないのだ。国は、魔物や敵国に攻め入られてしまう。


 教会のラシャドは泳がせておく為に、ユベールに事実を伝えて監視を頼んだ。
 ラシャドに関しては、魔石の件以外は良い司祭ではあった。
 正直、ユベールはショックを受けていたが、子供を守る為にしっかりと引き受けてくれた。子供達と毎日の日課として、あのフェンリル像を触ると約束して。




 斯くして、リーゼロッテはテオを連れ、王都の教会堂へ向かったのだ。
 
 
 




 





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