転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜

Y.ひまわり

36.ファーガスとの出会い

「……でも、を無事に過ごさないと意味は無いわね」


 リーゼロッテはボソっと呟いた。


 そう。殺されるまで、あと二年。
 死んでしまったら、それどころでは無いのだ。二年以内に、犯人を捕らえてしまわないといけない。
 
(運命の……強制力が無いことを祈るしかないわ。――ん?)


 背後に人の気配を感じる。すると


「もしや、リーゼロッテお嬢様ではありませんか?」


 驚きを含んだ、野太く低い声で呼びかけられた。


 声の主を確かめようと振り返ると、騎士団の制服を着た、背が高く体格の良い壮年が、リーゼロッテを見ていた。
 あまり騎士との接点を持たないリーゼロッテでも、制服に着けている装飾品から上官クラスだと分かった。他の騎士に比べて、ルイスの纏う制服に近い。
 ただ――。
 彼には左腕が無かった。


「はい、そうです。貴方は?」


「突然お声をかけてしまい、申し訳ありません。こんな場所にいらっしゃるとは思いもしなかったもので。……私は、ファーガスと申します。第三騎士団の指揮官をしております」


「……指揮官さん?」


 腕を失った者が、引退せずに騎士を続けるのは正直とても厳しいだろう。
 だというのに指揮官という地位。疑問に思い、つい視線が無い腕に行ってしまった。


「はい。この腕に驚かれるのは無理もないです。ですが
、訓練を重ねた今、腕など無くとも十分に戦えます。馬に乗っても剣を振るえますよ」


「それは凄いですね!」
 
 驚くリーゼロッテに、躊躇しながらファーガスは言葉を続ける。


「以前は――先代リカード様の側近をしておりました。私に力が足りなかったばかりに……」


 ファーガスは、跪き深く頭を垂れると、自分がリカードとエディットを護りきれなかったと謝罪した。


 今までファーガスは、謝りたくともリーゼロッテに会うことが許されていなかった。――リーゼロッテとフランツには真実が隠されていたから。
 もちろん、ファーガスは詳しい内容は話せないし、話さない。
 まさか、リーゼロッテが事実を知っているとは思っていないだろう。


 それでも。
 リーゼロッテを見掛けてしまったファーガスは、謝らずにいられなかったのだ。


(悪いのは、ファーガスではない。全て……奴等のせいだ)


「ファーガス指揮官、どうぞ頭を上げて下さい。貴方だけでも、助かって本当に良かったです」


 リーゼロッテの言葉にファーガスは、肩を震わせた。


「私は……助かったこの命、この地の為に使います。例え肉壁となってでも!」


 ギュッと腕の無い左肩を掴んだ。


「ありがとう、ファーガス。でも、死なないで下さいね。私もルイスお父様も、民の命を守る為にここに居るのですから」


 まだ、少女のリーゼロッテから出た言葉は、ファーガスにとって信じられないものだった。幼い頃のリーゼロッテを知っていただけに。
 謝罪の言葉は、リーゼロッテの両親と一緒にいたと告白したのも同然なのだ。自分だけ生き残ったことを責められる覚悟をして。


「……お嬢様」


「どうやって馬に乗って戦うのか、今度ぜひ訓練風景を見せて下さいね」


 無邪気に言ったリーゼロッテに、ファーガスは快く頷いた。


「それから……嫌な事を思い出させて申し訳ありませんが、あの洞窟での出来事を詳しく教えて下さいませ」


「……ご存知なのですか?」


 真剣な眼差しを向けられ、ファーガスは息を呑んだ。リカードやルイスとはまた違った、上に立つ人間の眼だと――漠然とそう感じた。


「こんな所に、いらっしゃったのですね。リーゼロッテお嬢様」


 リーゼロッテがファーガスに返事をする前に、声をかけられた。


「あら、テオ。もう起きたの?」
 
 いつの間にか、真後ろに立っていた従者姿のテオに、ファーガスは無意識に飛び退く。全身が粟立っていた。


「ほう」


 とテオは、面白そうにファーガスを見た。


「紹介しますね、私の従者のテオです」


「じ、従者……ですか?」


「ええ。あっ! お父様も訓練が終わったようですね」


 訓練場の外に居た三人に気付き、ルイスがこちらに向かってやって来た。


 何故、リーゼロッテとファーガスが一緒に居るのかと怪訝そうにするが……リーゼロッテが、直ぐに事の成り行きを簡潔に説明すると、ルイスは納得した。
 ルイスは、ファーガスに残りの訓練の指示を出し、後で執務室へ来るように言って下がらせる。


「あの者は、無意識だが魔力感知が出来る様だな。これだけ、魔力を消しているのに直ぐにが分かったようだぞ」


「へえ……だから、あんな飛び退いたのね」


「ファーガスは、信頼出来る人間だ。そうか、魔力感知……か」と、ルイスは呟く。
 
「だから、あの時の戦いで重傷は負ったが、魔獣を倒せたのかもしれないな」


 黙るルイス。
 頭の中では、ファーガスの新情報を加え、新たな戦略を組み立てているに違いない。
 やはり、ルイスは騎士を率いる人間なのだ。
 
(邪魔しちゃ悪いわよね。王太子については、またファーガスが来る前に訊けばいいか……)


「お父様、私は戻りますね。では、また後ほど。あ、そうだ! 訓練している姿、とても素敵でした」


 ニコッと素直な感想を伝えると、テオを連れて屋敷に向かって歩き出す。




 リーゼロッテは見ていなかった――珍しく、耳を真っ赤にしていたルイスの姿を。
 
 


 


 
 




 
  

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