転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜

Y.ひまわり

31.癒し

 ――それからというもの、リーゼロッテは毎週教会へと通った。


 エディットが亡くなってからも、領地経営をしているルイスから、定期的に施しは届けてられていたそうだ。
 リーゼロッテがやって来る時は、更に何かしら持って行くのでとても喜ばれている。


 慈善活動の無い日は、テオと森へいっては虹色の花や、その他なかなか手に入りにくい薬草なども取ってくるようにしている。
 潜入目的で行う今まで以上の施しの資金に、民からの税金を使うのは違うと思った。
 だから、出来るだけ自分で素材を売って稼ぐことにしたのだ。


 とはいえ、素材は執事のマルクに換金してもらい、施しの品を買ってきてもらう。流石にそれを、辺境伯令嬢のリーゼロッテが、自らやるわけにはいかなかった。


(でも、経済をまわすのは大事よね)


 やはりこれは、元の世界の感覚なのだろう。
 貴族は、領民からの税金で裕福な生活をさせてもらう代わりに、民を守る。それが、この世界のやり方だから。


「リーゼロッテ、学校などの施設はどうだったかい?」


 ルイスも、リーゼロッテから見た領地の状況を知りたいようだ。


「そうですね、読み書きと計算は何とか……って感じです。やはり、教師が足りていない感じはします」


 他国から攻められると、大人の男は騎士や兵士として戦に向かってしまうので、人手が足りないのは仕方ない。


「女性の登用を増やしては?」
 
「……そうか。少し、考えてみよう。リーゼロッテは、これから教会かい?」


「はいっ! 行って参ります」


 リーゼロッテは元気よく答えると、教会へと向かった。
 馬車の中で、テオと予定の確認をする。


「今日は、重病人が居るお宅を訪問するつもりよ」
 
「いよいよだな」


「ええ」


 科学的な物は無く、魔法や薬草などがメインの医療……優秀な治癒師や薬師でもいない限り、治せない病いが山ほどある。
 だが、リーゼロッテなら――。
 先天性のものや、日が経ち一度回復済みになってしまったものは難しいが、それ以外なら大抵は治せる筈だ。


 一度でも、癒しを使えばリーゼロッテの噂は直ぐに広まるだろう。
 当初は、片っ端から癒してしまえば良いと考えたが。それだとこの先、リーゼロッテが来られなくなった時に民が困る。


(病院……そっちも、もっと充実させないとよね)


 取り敢えずは、貧困によって病院へかかれない人から訪ねることにした。
 
「リーゼロッテお嬢様が来たぞー!!」


 馬車が到着すると、外で待っていたラルフが教会の中へ向かって大声で叫んだ。


(あれ? ……いつもと雰囲気が違う)
 
 ラルフは、何だか切羽詰まった感じがする。


 馬車から降りると、ラルフはさっきまで泣いていたのか、目元を着ていた服で拭った。リーゼロッテの手を取ると、グイッと引っぱる。


「こっちに来て、ミラが大変なんだっ」


 ミラは、あの天使の様な1歳児の女の子だ。


「ラルフ、ミラに何があったの!?」
 
 急ぎ足で孤児院へ移動しながら話を聞く。


 最近やっと歩き出したミラは、教会の井戸の近くで遊んでいて、水たまりで滑って転んだらしい。
 膝と手を切ったくらいで、大した事にはならなかったらしいが……昨夜から高熱を出し意識が無いそうだ。


 医者を呼んだが、まだ小さく薬も飲み込めず。あまり体力の無いミラには、もう手立てが無いと言われたと。
 
(傷からの高熱って……破傷風とか? なら急がないと!)


「大丈夫よ、ラルフ。ミラは私が助けるわ」


 ミラが死んでしまうかもと、不安で震えるラルフの頭を優しく撫でる。
 孤児院の一室に入ると、ミラの周りには司祭や孤児達皆が心配して集まっていた。


 ラシャドとユベールが、リーゼロッテに気付くと顔を上げた。ユベールは目の下に隈をつくり、寝ずの看病をしていたのが分かる。


「ラシャド司祭、私にミラを診せて下さい」


「ありがとうございます。リーゼロッテ様、ミラの最後を看取ってやって下さい」


「いいえ。看取るのではなく、治します!」


 リーゼロッテは膝をつき、ベッドの中のミラの手を取る。


(ミラ、苦しかったね……もう大丈夫だから)


 そのまま、握った手からミラに癒しをかけた。


 リーゼロッテとミラの全身が、淡く金色の光に包まれると、徐々にミラの息遣いが正常に戻っていく。
 転んだ時にできた、手と膝の傷も綺麗に消える。


 ――ゴクリっと、誰かの喉が鳴った。


「これで、もう大丈夫です」


 リーゼロッテはニッコリと微笑む。
 スヤスヤと気持ち良さそうに寝息を立てているミラ。


「「「やったぁーー!!」」」


 固唾を呑んで見守っていた子供たちから、歓声が上がった。


「……リーゼロッテお嬢様は、癒しが?」


 驚きを隠せないラシャドは、リーゼロッテをマジマジと見詰めて訊いた。


「はい。最近、使えるようになったのです。ミラはもう大丈夫そうなので……これから、他の病人が居るお宅を訪問しようかと思うのですが?」


「それは、有り難いです!」


 即答したのは、ユベールだった。


「だいぶ具合が悪く、心配な者が居るのです。私に案内をさせて下さいっ!」と、頭を下げる。


「助かるわ、ユベール。でも、その前に貴方もね」


 そう微笑むと、寝不足で疲れているユベールにも癒やしをかけた。
 瞠目したユベールは、感極まったのか頬を染め……リーゼロッテの手を握り言った。


「貴女は、聖女様だったのですね……」


(あ、もう聖女にされた。これは……直ぐに事が動くかもね)




 ――そんな二人のやり取りを、ラシャド司祭は黙って見ていた。


 



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