転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜
28.嫌な事実
手前の牢の中には、簡素な寝台に横たわる男が一人。
そう、リリーに怯えていたあの男だ。
ジェラールとリーゼロッテの足音が聞こえたのか、のろのろと起き上がった男の顔は、たった一日しか経っていないのに憔悴しきっていた。
その男を無視するように素通りし、先に見覚えが無い方の男が収容されている牢へ向かう。
体調管理をするフリをして、脈を取り、そのまま魔力を流したが――特に変化はなかった。
いくら前世の記憶があっても、医療関係の仕事などしたこと無いので、当然ながら見様見真似だ。
ただ――。
触れた男の手の感じから、教会に従事する者というより、手荒い仕事を生業にしている者ではないかと思った。操られていないなら、自らの意思。
(こっちは……ただ、雇われただけか)
そして、本来の目的である男の前に立った。
リリー姿のリーゼロッテの横には、王子であるジェラールが居る為、素直に従い手を出した。同じ様に魔力を流したが、此方も変化は無かった。
リリーに怯えているせいか、異常な程に脈は速かったが。
「……お、お前は誰だ?」
男はリリーに向かって言った。
ジェラールは、好きにしろと言わんばかりに口角だけを上げた。リリーは頷き、男に接近する。
「貴方の方が、私をご存知でしょう?」
貴族らしい笑みを浮かべ髪を解くと、リリーから亡くなった時のエディットの年齢位まで、身体を成長させる。
この牢屋の暗さは、あの洞窟に近い。男には、リーゼロッテがエディットに見えたのだろう。
震えながら地べたに這い蹲り、必死で許しを乞う。
「すみませんでした……すみませんでした……貴女を巻き込んで殺すつもりは無かったんです……」
(――やはり、そうだったのね)
「何故、私の息子に魔石を埋めたの?」
「さ、騒がれないように……と。あと、先に聖遺跡に触れさせて人柱に……」
「……なっ、人柱だとっ!!」
ジェラールが、思わず声を荒げる。
人柱、つまり生贄。
(最初から、フランツを殺すつもりで……なんてことをっ!)
――――ズンッ!!
と、地が揺れる。
リーゼロッテの怒りが、魔力を解放してしまった。
目の前の男は口から泡を吹き、ジェラールは苦しそうに膝をつく。
ポケットから飛び出し、人の姿になったテオは、リーゼロッテの力を抑えるように強く抱きしめた。
「主人、落ち着くのだ。……力を抑えなければ、人を殺めてしまうぞ。……ルイスも悲しむ」
テオの言葉で引き戻されるように、ハッと我に返る。
リーゼロッテは慌てて魔力を抑え込むと、ジェラールとその男に急いで癒しをかけた。
「……リーゼロッテ。今のは何だっ!?」
苦しそうに息を吐いたジェラールが、わなわなと震えていた。
(あー、殿下怒ってるわぁ。やっちゃった……)
リリーの姿に戻り、取り敢えず急いでジェラールの部屋に転移する。
それから、ジェラールによる質問攻めが始まった。
宮廷を揺らしてしまったのだ。ジェラールには、後で上手く立ち回ってもらわなければならない。
仕方ないので、正直に話すことにした。
「先ずは、其奴を説明しろっ!」
リーゼロッテにピッタリと寄り添って座る、銀髪イケメンのテオを指して言った。
「え? あ、はい。私の従魔のテオです」
「……従魔? 人に化けることが出来る程の、高位の魔物を従えているだと?」
目を見開くジェラールに、フェンリルだと紹介した。
「フェ、フェンリル!? あの、辺境伯領に捕らえられらていた?」
「流石、よくご存知ですね。色々あり、私を気に入ってくれたのです」
ジェラールは信じられないのか、上から下までテオを眺める。
「リーゼロッテに手出しをしたら、私が許さないぞ」
テオはリーゼロッテの美しい髪をすくうと口付けをし、ジェラールを見据えて言った。
(……テオったら、殿下を煽ってるわ。いつもは、こんなことしないのに)
この国でフェンリルを倒そうと思うなら、相当な被害が出ることを覚悟しなければならない。
テオは、ジェラールが愚かな人間だとは思っていない。だから敢えて言ったのだ。
それから――。
リーゼロッテの魔力についても説明した。
ただ、転生者である事だけは、これから先も言うつもりは無い。
「いくら強くなりたいと願ったのだとしても、だ! ちょっと大き過ぎるだろう、それは。癒しまで使えて、教会に知られたら聖女にさせられるぞ」
「何を馬鹿なことを。聖女なんて大したことのない存在ではない。またそんな事をすれば、過去を繰り返すぞ――」
テオの言葉で、ジェラールは理解した。リーゼロッテの力は、聖女ではなく女神の力なのだと。
「それでは、私はリーゼロッテを手に入れられないではないか。……残念だ」
しゅん……と、ジェラールは叱られた子犬にみたいになった。――が!
「ん? いや、待てよ。無理やりでなく、リーゼロッテと両思いなら問題無いのではないか?」
キラキラと翡翠色の瞳を輝かせた。
「有り得ません」
ピシャリとリーゼロッテが即答すると、ジェラールはガックリと項垂れ、教会の話題に戻す。
「これは、言うつもりは無かったのだが……状況が変わった」
とジェラールは話し出した。
あの洞窟で、ルイスに刃を向けたのは――血塗れで意識の無いはずの、フランツだったと。
操られていた事は優に想像できたので、教会の人間が辺境伯領の者へ接触するのを防げばいい。そう思っていたそうだ。
リーゼロッテがフランツの魔石を消滅させたと報告したので――。敢えて過去の真実は知らせずに、ジェラールの胸に仕舞っておくつもりだったらしい。
「まさか人柱にする為に、そんな幼少期に魔石が埋め込まれていたとはな」
かなり前から準備された根の深いものだと感じ、ジェラールは考えを改めたそうだ。
(そもそも、どうして人柱であの結界が保てると思ったのかしら? あの魔玻璃に溜めてある魔力量は……尋常じゃないのに)
リーゼロッテは首を傾げた。
そう、リリーに怯えていたあの男だ。
ジェラールとリーゼロッテの足音が聞こえたのか、のろのろと起き上がった男の顔は、たった一日しか経っていないのに憔悴しきっていた。
その男を無視するように素通りし、先に見覚えが無い方の男が収容されている牢へ向かう。
体調管理をするフリをして、脈を取り、そのまま魔力を流したが――特に変化はなかった。
いくら前世の記憶があっても、医療関係の仕事などしたこと無いので、当然ながら見様見真似だ。
ただ――。
触れた男の手の感じから、教会に従事する者というより、手荒い仕事を生業にしている者ではないかと思った。操られていないなら、自らの意思。
(こっちは……ただ、雇われただけか)
そして、本来の目的である男の前に立った。
リリー姿のリーゼロッテの横には、王子であるジェラールが居る為、素直に従い手を出した。同じ様に魔力を流したが、此方も変化は無かった。
リリーに怯えているせいか、異常な程に脈は速かったが。
「……お、お前は誰だ?」
男はリリーに向かって言った。
ジェラールは、好きにしろと言わんばかりに口角だけを上げた。リリーは頷き、男に接近する。
「貴方の方が、私をご存知でしょう?」
貴族らしい笑みを浮かべ髪を解くと、リリーから亡くなった時のエディットの年齢位まで、身体を成長させる。
この牢屋の暗さは、あの洞窟に近い。男には、リーゼロッテがエディットに見えたのだろう。
震えながら地べたに這い蹲り、必死で許しを乞う。
「すみませんでした……すみませんでした……貴女を巻き込んで殺すつもりは無かったんです……」
(――やはり、そうだったのね)
「何故、私の息子に魔石を埋めたの?」
「さ、騒がれないように……と。あと、先に聖遺跡に触れさせて人柱に……」
「……なっ、人柱だとっ!!」
ジェラールが、思わず声を荒げる。
人柱、つまり生贄。
(最初から、フランツを殺すつもりで……なんてことをっ!)
――――ズンッ!!
と、地が揺れる。
リーゼロッテの怒りが、魔力を解放してしまった。
目の前の男は口から泡を吹き、ジェラールは苦しそうに膝をつく。
ポケットから飛び出し、人の姿になったテオは、リーゼロッテの力を抑えるように強く抱きしめた。
「主人、落ち着くのだ。……力を抑えなければ、人を殺めてしまうぞ。……ルイスも悲しむ」
テオの言葉で引き戻されるように、ハッと我に返る。
リーゼロッテは慌てて魔力を抑え込むと、ジェラールとその男に急いで癒しをかけた。
「……リーゼロッテ。今のは何だっ!?」
苦しそうに息を吐いたジェラールが、わなわなと震えていた。
(あー、殿下怒ってるわぁ。やっちゃった……)
リリーの姿に戻り、取り敢えず急いでジェラールの部屋に転移する。
それから、ジェラールによる質問攻めが始まった。
宮廷を揺らしてしまったのだ。ジェラールには、後で上手く立ち回ってもらわなければならない。
仕方ないので、正直に話すことにした。
「先ずは、其奴を説明しろっ!」
リーゼロッテにピッタリと寄り添って座る、銀髪イケメンのテオを指して言った。
「え? あ、はい。私の従魔のテオです」
「……従魔? 人に化けることが出来る程の、高位の魔物を従えているだと?」
目を見開くジェラールに、フェンリルだと紹介した。
「フェ、フェンリル!? あの、辺境伯領に捕らえられらていた?」
「流石、よくご存知ですね。色々あり、私を気に入ってくれたのです」
ジェラールは信じられないのか、上から下までテオを眺める。
「リーゼロッテに手出しをしたら、私が許さないぞ」
テオはリーゼロッテの美しい髪をすくうと口付けをし、ジェラールを見据えて言った。
(……テオったら、殿下を煽ってるわ。いつもは、こんなことしないのに)
この国でフェンリルを倒そうと思うなら、相当な被害が出ることを覚悟しなければならない。
テオは、ジェラールが愚かな人間だとは思っていない。だから敢えて言ったのだ。
それから――。
リーゼロッテの魔力についても説明した。
ただ、転生者である事だけは、これから先も言うつもりは無い。
「いくら強くなりたいと願ったのだとしても、だ! ちょっと大き過ぎるだろう、それは。癒しまで使えて、教会に知られたら聖女にさせられるぞ」
「何を馬鹿なことを。聖女なんて大したことのない存在ではない。またそんな事をすれば、過去を繰り返すぞ――」
テオの言葉で、ジェラールは理解した。リーゼロッテの力は、聖女ではなく女神の力なのだと。
「それでは、私はリーゼロッテを手に入れられないではないか。……残念だ」
しゅん……と、ジェラールは叱られた子犬にみたいになった。――が!
「ん? いや、待てよ。無理やりでなく、リーゼロッテと両思いなら問題無いのではないか?」
キラキラと翡翠色の瞳を輝かせた。
「有り得ません」
ピシャリとリーゼロッテが即答すると、ジェラールはガックリと項垂れ、教会の話題に戻す。
「これは、言うつもりは無かったのだが……状況が変わった」
とジェラールは話し出した。
あの洞窟で、ルイスに刃を向けたのは――血塗れで意識の無いはずの、フランツだったと。
操られていた事は優に想像できたので、教会の人間が辺境伯領の者へ接触するのを防げばいい。そう思っていたそうだ。
リーゼロッテがフランツの魔石を消滅させたと報告したので――。敢えて過去の真実は知らせずに、ジェラールの胸に仕舞っておくつもりだったらしい。
「まさか人柱にする為に、そんな幼少期に魔石が埋め込まれていたとはな」
かなり前から準備された根の深いものだと感じ、ジェラールは考えを改めたそうだ。
(そもそも、どうして人柱であの結界が保てると思ったのかしら? あの魔玻璃に溜めてある魔力量は……尋常じゃないのに)
リーゼロッテは首を傾げた。
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