転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜

Y.ひまわり

27.怒ってます

 フランツに魔石それを埋め込めるとしたら、両親が殺された時しか考えられない。


 しかも、操られていたフランツの動作は――。


 一周目、宮殿で操られていたらしいアニエスに比べると、かなり不自然だった。
 つまり、フランツに埋め込んだ時の物は、未完成だったのだろう。


 こんな何年も先を見越していたとは思えない。
 人質にしたフランツが騒がないよう、埋め込んだだけなのかもしれないが。


(よくも、私の可愛い弟に……許せないっ!)


 テオに運んでもらい、ベッドでスヤスヤと眠るフランツを見ていたら、ふつふつとリーゼロッテの中で怒りが込み上げてくる。
 
(でも……どうして、このタイミングでフランツを操ったのだろう。あ、そうか! アニエス様に失敗したからだわ)


 リーゼロッテやジェラールが立ち回っているせいで、一周目とずれが生じている。
 多分、向こうは失敗に焦っているのだ。


 頭の中でバラバラだった出来事が、パズルの様に徐々に組み上がって行く。
 あの、リリーの姿に怯えた男はやはり、母エディットと面識があったのだ。それも、洞窟で――。
 両親を死に追いやったのが、教会関係者なのだと確信した。


 リーゼロッテは、眠っているフランツの髪を優しく撫でると、テオを連れフランツの部屋を後にした。
 もう一度、地下牢に戻ると……あらゆる事を想定して、フランツの描いた魔法陣の周辺に幾つもの魔法を施しておく。
 
 明日、早速だが宮廷のジェラールを訪ねることを決めた。ルイスに今夜のフランツの件を、ちゃんと報告してから。


 その夜。
 ドキドキよりも怒りの方が勝ってしまい、リーゼロッテはしっかりと睡眠がとれた。






 ◇◇◇






 ――翌朝。


 リーゼロッテは、早々にルイスの元へ行き、昨夜の出来事を伝えた。


「フランツに……だと。何て事をっ!」


 幼かったフランツに教会の人間がしたことに、ルイスも怒りを露わにした。


「私、許せません。……教会全体で行っていることなのか、一部の人間だけがやっているのか。突き止める必要があると思います」


「つまり?」
 
「殿下に頼んで、宮廷に捕らえられた者に会ってきます。まあ、殿下に駄目だと言われたら、勝手に忍びこんで会いますけど」


 もう、何を言っても聞かなそうなリーゼロッテに、「はあぁ……」とルイスは大きな溜息を吐いた。


「止めるだけ無駄か。決して……無理はしないように」


「ありがとう存じます。それでですが……お父様にお願いがあります」


 ニッコリと笑みを浮かべたリーゼロッテは、テーブルの上にドンっと、ある物を置いた。今朝、洞窟から取ってきたのだ。


「これは、洞窟の?」


「流石、お父様。そうです、あの洞窟にゴロゴロある石英です。確か、石英の無色透明なものが水晶なのですよね? 先日、図書室で調べました」


「そうだが。それがどうかしたのか?」


「ちょっとした実験です」


 リーゼロッテは石英を両手で挟み、自分の魔力をどんどん流し込んだ。石英は青白く光り出すと、透明度を増していく。


「……これはっ!」


 息を呑むルイスに、リーゼロッテは手応えを感じた。


「はい。多分ですが、魔玻璃はこうやって出来たのだと思います」
 
 白濁していた石英は、リーゼロッテの魔力を帯びて魔玻璃に変化した。


「洞窟にある、あれ程大きな魔玻璃は無理ですが……。今この魔玻璃には、私の魔力が流れています。屋敷の者と、あの洞窟に入る人間には、必ずこれに触れさせて下さい。私の魔力が流れれば、人を操るあの魔石を消滅させられる筈です」


「リーゼロッテの魔力は、人間の言う女神のものと酷似しているからな。そのやり方でも十分に効果はあるだろう」
 
 そう、これはテオの案なのだ。


「成る程。フランツの他にも、操られる者がいるかもしれないという事か……。わかった。では、こちらは任せておきなさい」


「あ、それとですね……。地下牢に……」






 一通りの説明を終えると、テオと一緒に宮廷のジェラールの元へと向かった。


 勿論、いつもの侍女リリーの姿で。
 ただ――。
 テオの存在を、ジェラールにすっかり伝え忘れていたので、念の為またエプロンのポケットに入ってもらった。






 ◇◇◇






 ジェラールの部屋に転移すると、本当に誰も居なかった。


 キョロキョロしても悪いので、大人しくソファに座って待つことにしたが。
 さほど時間が経たないうちに、勢いよく扉が開いてジェラールが入って来た。


(……殿下は静かに扉を開けられないのかしら?)


「リーゼロッテ……昨日の今日で、もう私に会いたくなったのか?」


 嬉しそうに言ったジェラールに、しっかりと否定しておく。


「は? 違いますよ。それから、今の私はリーゼロッテではなくリリーです」


「……じゃあ、何なのだ?」


 明らかにムスッとしたジェラールに、昨夜の出来事を報告し、自分の考えを伝えた。
 リーゼロッテの話を聞いて、ジェラールは暫く考え込んだ。


 そして、あの捕らえられた教会関係者に会いたいと伝えると、あっさり許可してくれた。
 但し、ジェラールも行く事になってしまったのだが。


「念のため……あの男には、先に私の魔力を流しても良いでしょうか?」


「構わぬ。だが……同じループをしたのに、其方にだけ何故そんなに魔力があるのだ? ずるいぞ」


 ジェラールは、変なところで拗ねる。


「……私にも分かりません。きっと、辺境の地の血を引く者だからではないですか?」


「そう考えれば、確かに頷けるな」


(あ、納得してくれた。まあ、半分は事実だしねぇ)


 案外ジェラールは素直な人なのかもと、リーゼロッテは思った。







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