転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜

Y.ひまわり

21.時は過ぎ

『―――やめろっ!!』


 ハッと目を開けると、そこは自分の部屋のベッドの上だった。
 洞窟でルイスに抱えられたまま、意識を失った事を思い出した。


(今のは……夢?)


 頭の中に響いた声に、聞き覚えがあった。


 リーゼロッテが目を覚ました事に気が付いたテオは、ベッドに飛び乗ると擦り寄った。


『……大丈夫か? うなされていたぞ』


 テオは心配そうに、リーゼロッテの頬にスリッと顔を寄せた。フワフワの柔らかい毛が、くすぐったくて笑みが溢れる。テオを抱き上げて、ギュッと顔を埋めた。


「こうしてると落ち着くわ……」


『そうか? ……何かあったのか?』


「少しだけ思い出したの。、剣を振り上げた人物以外にもう一人居たの……やめろ、と叫んでいたわ。あれは誰だったのかしら?」


『焦る事はない。……まだ先の話だ』


 優しく慰めるように言ったテオは、ペロッとリーゼロッテの手を舐めた。


「うん。ありがとう、テオ」
 


 だが――。




 それから特に思い出す事は出来ず、進展の無いまま数年が過ぎて行った。




 
 ◇◇◇






 13歳になったリーゼロッテは、日々時間を自分を鍛えることに費やしていた。


 無論、筋肉ムキムキとかを目指したのではない。


 子供部屋での教育を終えると、リーゼロッテはブランディーヌの邸宅へと向かった。
 社交界デビューの予行演習と称して、晩餐会へ参加したり、友人邸での小さな舞踏会へも連れて行ってもらっている。


 これから先を考え……根回しする為にも、リーゼロッテ自身の人脈パイプを作っておかなければならない。貴族社会では必要なことなのだ。


 一周目では、自分から動かず辺境の地を言い訳にして、親の爵位に胡座をかいていた。
 マナーやエチケットの知識だけは、外へ出ないぶん徹底して覚えていたので問題無かった。むしろ、今は役に立っている。


 そして、時々――。
 こっそりと離宮へ向かい、ブリジットとロビンと接触して、聖女アニエスの様子を確認した。
 アニエスは、一周目とは別人の素敵な女性になっていた。やはり傍に信頼できる者が居るのは、とても大切な事なのだ。


 辺境伯領では、テオとの花摘みや、ルイスと共に魔玻璃に魔力を流したりを時々している。
 魔玻璃の魔力の蓄えが多い程、強固な結界維持に繋がるのだそうだ。
 
 弟のフランツも大きくなり、だいぶ魔力が増えてきた。
 ただ、近衛騎士だったルイスに憧れていて、剣の稽古ばかりをしている。
 このままいくと、領地をリーゼロッテに任せて、王都の騎士団に入りたいと言い出しかねない。


(……まあ、それでも良いのだけどね)


 ルイスやテオ、美少年に成長したフランツを見慣れているせいか、舞踏会に行っても男性には全く興味がわかない。
 もともと中身が大人な上、これから先の事を考えると、それどころでは無いのだから仕方がない。
 それを、何気無くルイスに伝えると、満面の笑みを浮かべるのは……解せないが。






 ――そんな、ある日。


 辺境伯邸は、騒つく事態になっていた。
 突然この辺境の地に、王都から高貴な客がやって来たのだ。


 最近、魔物も落ち着き、例の回復薬のおかげで潤ってきた辺境伯領を視察する――という名目で。
 側近のアントワーヌ侯爵と、ルイスの後任の近衛騎士を連れた、第二王子ジェラールがやって来た。


 視察のはずなのに、何故か応接間にリーゼロッテを呼び出したのだ。
 
(……第二王子が?)


 記憶を探るが、一周目で接点があった様には思えない。とりあえず、待たせる訳にはいかないので、正装し急いで向かう。


 応接間に入ると、ルイスと向かい合って座るジェラールが居た。
 丁寧なお辞儀を披露すると、王子から声が掛かるのを待つ。


「リーゼロッテ嬢……お会いしたかったです」


 その声に、聞き覚えがあった。


(……え?)


 頭が混乱する中、どうにか挨拶を終え、そのまま一緒にお茶をすることになった。


 ジェラールは、リーゼロッテの3つ歳上の16歳。
 癖のある美しい金髪に翡翠色の瞳、いかにも王子様な整った顔立ちの青年だった。


「リーゼロッテ。殿下は、王都の舞踏会でリーゼロッテの噂を聞いたそうなんだよ」


「噂ですか?」


 キョトンとするリーゼロッテに、ジェラールはクスッと笑った。


「この、アントワーヌ侯爵の息子レナルドが、ある舞踏会でリーゼロッテ嬢を見かけたそうなのだ。まだ、社交界デビュー前にも関わらず、素晴らしい御令嬢だったとね」


 ジェラールの側近アントワーヌ侯爵は、にこやかに頷く。


「まあ! お褒めにあずかり光栄ですわ。わたくしなんて、まだまだですが……」


 楚楚と笑みを浮かべながら、記憶を辿る。


(レナルド侯爵令息……? 居たような、居なかったような……特に会話もダンスもしていないと思うけど)
 
 疑問だらけの中、当たり障りない会話でどうにかやり過ごした。
 ジェラールは帰り際、リーゼロッテの脇を通りながら耳元でそっと呟いた。


「……今度は、貴女を逃しませんよ」と。


 聞き覚えのある声。


 ――全身が粟立ち、息が出来なかった。


 そして、確信した。
 あの洞窟で「やめろ」と叫んだ人間こそが、この国の第二王子ジェラールだと。


 

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