転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜
16.変です
王都からのお土産に、辺境伯邸の皆が大喜びしてくれた。
流行りのお菓子は見た目も可愛らしく、程よい甘さで女性使用人にも男性使用人にも、とても反響が良かった。
フランツには、ブランディーヌからフランツにと用意されていたプレゼントを預かってきたので、それを渡す。
厳しい祖母が苦手なフランツだが、いつも口煩く言うのは、大切な孫の将来を考えてのことだと分かっている。
一緒に会いに行かなかったことを、少しだけ後悔していた。
プレゼントは、以前フランツが欲しがっていた文房具だった。
「……ありがとう」と、じーっとプレゼントを見詰め、嬉しそうにはにかんだ。
◇◇◇
王都から帰って数日経った。
(……どうも、お父様がおかしい)
辺境伯領へ帰って来てからの、ルイスの様子が変だった。
(リリーが突然居なくなってしまったことが、まだ尾を引いているのかしら?)
今までは、用事があればルイスの執務室へ呼ばれ、話をすることが多かったのだが――。
何故か、ルイスの方からリーゼロッテの元へやって来ることが増えた。
子供部屋にまで顔を出し、勉強の様子を見に来たと言っては居座ったりする。
その度に、女性の家庭教師達が色めき立つので、本当に迷惑だ。
(……自分の美貌を自覚して欲しいわ。全く!)
庭を見ながら、木陰でのティータイム。
リーゼロッテとテオは、使用人に聞かれないように、外で密談していた。
「ねぇ、テオ。帰って来てからのお父様、ちょっと変じゃない? あんなに仕事が大変そうなのに、やたら会いに来るし」
理解出来ないと、肩を竦める。
テオは、リーゼロッテをチラッと見て溜息を吐いた。
「やはり、あれが原因だろう」
「何? あれって?」
「帰りの馬車で、リーゼロッテの寝言を……ルイスは聞いていたからな」
「寝言?」
そういえば……とリーゼロッテは思い返す。
転生前はよく会社で仮眠をとると、寝言が凄いと笑われた。
余りにもハッキリと喋るので、起きているのかと度々覗き込まれたこともあったらしい。アラサーと言えど、乙女の寝顔を覗くなんて……と、軽く凹んだものだ。
「しっかり、アニエス様と言っていたぞ」
寝言だし、不可抗力ではあるが……。
「私、やらかしたわね」
今のリーゼロッテが、「アニエス様」などと口にすること自体がおかしい。
聖女の名前を知ったのは、一周目の宮殿の中で見かけた時に、ルイスがそう呼んでいたから。
宮廷の近しい人間以外は、聖女様の名前は知らないのだ。
特にアニエスは、貴族では無く平民上がりだから、より伏せられていた。
「そうだな。多分、ルイスは何か勘付いているだろう」
「……隠し通すのは難しいかしら?」
「そもそも、何故ルイスに隠す必要がある? ブランディーヌにも、ある程度は知らせていたではないか」
「――ゔっ。確かにそうなのだけど……。一周目の時に、ちゃんと親子になれなかったから、今回は本当の娘になりたかったのよ。全て話したら……きっと、以前のリーゼロッテとは別人だと認識される気がするの」
そう、これはただのエゴだとわかっている。転生者の意識がある時点で、もう別人なのだから。
「私には理解出来ない。どちらも、リーゼロッテであることに変わりはない」
頬杖をついたテオは、しょんぼりするリーゼロッテの頬をムニュッとつまんだ。
「主人よ。らしくないぞ、しっかりしろ」
さらに、ムニュムニュされる。
「……正論ね。よしっ! でも、お父様に何て言ったらいいかしら?」
――と、その時。
「何をだい? リーゼロッテ……随分と、二人で楽しそうだね」
いつの間にか、ルイスが背後に立っていた。言葉は穏やかだが、目は笑っていない。
ルイスはリーゼロッテの柔らかな髪に触れ、瑠璃色の魔石が埋め込まれた髪飾りを見て言った。
「瞳の色と同じ魔石だね……よく似合っているよ」
「あ、ありがとう存じます」
顔を近付け、真正面からジィーっとリーゼロッテの瞳を凝視する。
「そういえば、リリーも同じ瞳の色だったね」
「そ、そうでしたね」
目を逸らしながら、思わず答えてしまった。
ハッ!と気付いた時には、手遅れだった。
「さて、……リーゼロッテ。どういう事か説明を聞きたいな。リリーとは誰のことだろうか?」
(やられた……。その美貌の顔を、あんなに近付けるなんて、ズルいっ)
「ルイスよ、あまり主人を虐めるな」
「心外だな、テオ。ブランディーヌ様の邸宅にずっと居た筈のリーゼロッテが――なぜか離宮に住んでいる聖女様と、その侍女の名前を知っているのだぞ。不思議に思って質問したくなるのは、当たり前だろう?」
(あぁぁぁ、完敗です!)
「お父様! 騙してごめんなさいっ!」
立ち上がり、リーゼロッテは魔力を巡らすと、そのまま大人の姿……リリーになった。
ルイスは自分の仮定が実証されたのに、苦しそうな表情で、リリー姿のリーゼロッテを見詰めていた。
流行りのお菓子は見た目も可愛らしく、程よい甘さで女性使用人にも男性使用人にも、とても反響が良かった。
フランツには、ブランディーヌからフランツにと用意されていたプレゼントを預かってきたので、それを渡す。
厳しい祖母が苦手なフランツだが、いつも口煩く言うのは、大切な孫の将来を考えてのことだと分かっている。
一緒に会いに行かなかったことを、少しだけ後悔していた。
プレゼントは、以前フランツが欲しがっていた文房具だった。
「……ありがとう」と、じーっとプレゼントを見詰め、嬉しそうにはにかんだ。
◇◇◇
王都から帰って数日経った。
(……どうも、お父様がおかしい)
辺境伯領へ帰って来てからの、ルイスの様子が変だった。
(リリーが突然居なくなってしまったことが、まだ尾を引いているのかしら?)
今までは、用事があればルイスの執務室へ呼ばれ、話をすることが多かったのだが――。
何故か、ルイスの方からリーゼロッテの元へやって来ることが増えた。
子供部屋にまで顔を出し、勉強の様子を見に来たと言っては居座ったりする。
その度に、女性の家庭教師達が色めき立つので、本当に迷惑だ。
(……自分の美貌を自覚して欲しいわ。全く!)
庭を見ながら、木陰でのティータイム。
リーゼロッテとテオは、使用人に聞かれないように、外で密談していた。
「ねぇ、テオ。帰って来てからのお父様、ちょっと変じゃない? あんなに仕事が大変そうなのに、やたら会いに来るし」
理解出来ないと、肩を竦める。
テオは、リーゼロッテをチラッと見て溜息を吐いた。
「やはり、あれが原因だろう」
「何? あれって?」
「帰りの馬車で、リーゼロッテの寝言を……ルイスは聞いていたからな」
「寝言?」
そういえば……とリーゼロッテは思い返す。
転生前はよく会社で仮眠をとると、寝言が凄いと笑われた。
余りにもハッキリと喋るので、起きているのかと度々覗き込まれたこともあったらしい。アラサーと言えど、乙女の寝顔を覗くなんて……と、軽く凹んだものだ。
「しっかり、アニエス様と言っていたぞ」
寝言だし、不可抗力ではあるが……。
「私、やらかしたわね」
今のリーゼロッテが、「アニエス様」などと口にすること自体がおかしい。
聖女の名前を知ったのは、一周目の宮殿の中で見かけた時に、ルイスがそう呼んでいたから。
宮廷の近しい人間以外は、聖女様の名前は知らないのだ。
特にアニエスは、貴族では無く平民上がりだから、より伏せられていた。
「そうだな。多分、ルイスは何か勘付いているだろう」
「……隠し通すのは難しいかしら?」
「そもそも、何故ルイスに隠す必要がある? ブランディーヌにも、ある程度は知らせていたではないか」
「――ゔっ。確かにそうなのだけど……。一周目の時に、ちゃんと親子になれなかったから、今回は本当の娘になりたかったのよ。全て話したら……きっと、以前のリーゼロッテとは別人だと認識される気がするの」
そう、これはただのエゴだとわかっている。転生者の意識がある時点で、もう別人なのだから。
「私には理解出来ない。どちらも、リーゼロッテであることに変わりはない」
頬杖をついたテオは、しょんぼりするリーゼロッテの頬をムニュッとつまんだ。
「主人よ。らしくないぞ、しっかりしろ」
さらに、ムニュムニュされる。
「……正論ね。よしっ! でも、お父様に何て言ったらいいかしら?」
――と、その時。
「何をだい? リーゼロッテ……随分と、二人で楽しそうだね」
いつの間にか、ルイスが背後に立っていた。言葉は穏やかだが、目は笑っていない。
ルイスはリーゼロッテの柔らかな髪に触れ、瑠璃色の魔石が埋め込まれた髪飾りを見て言った。
「瞳の色と同じ魔石だね……よく似合っているよ」
「あ、ありがとう存じます」
顔を近付け、真正面からジィーっとリーゼロッテの瞳を凝視する。
「そういえば、リリーも同じ瞳の色だったね」
「そ、そうでしたね」
目を逸らしながら、思わず答えてしまった。
ハッ!と気付いた時には、手遅れだった。
「さて、……リーゼロッテ。どういう事か説明を聞きたいな。リリーとは誰のことだろうか?」
(やられた……。その美貌の顔を、あんなに近付けるなんて、ズルいっ)
「ルイスよ、あまり主人を虐めるな」
「心外だな、テオ。ブランディーヌ様の邸宅にずっと居た筈のリーゼロッテが――なぜか離宮に住んでいる聖女様と、その侍女の名前を知っているのだぞ。不思議に思って質問したくなるのは、当たり前だろう?」
(あぁぁぁ、完敗です!)
「お父様! 騙してごめんなさいっ!」
立ち上がり、リーゼロッテは魔力を巡らすと、そのまま大人の姿……リリーになった。
ルイスは自分の仮定が実証されたのに、苦しそうな表情で、リリー姿のリーゼロッテを見詰めていた。
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