転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜

Y.ひまわり

7.力試し

 テオはリーゼロッテを背に乗せて、振り落とさない様に気を使いつつ、どんどんとスピードを上げていく。


(うわぁ……! 気持ちいいっ!!)


 元の世界では、遊園地の絶叫系が大好きだったと思い出す。
 樹々の間を擦り抜けて、緑の生い茂る森の中へと入って行った。
 不思議なことに、魔物が一匹も現れない。


(あれ? 魔物どころか、普通の動物さえいないような……)


 テオに話しかけようとするが、風を切って走ってるため声が出せない。
 仕方ないので、念話する。


『テオ、どうして魔物も動物も全く居ないの?』


『当然だ。私の魔力を少しだけ解放しているからな』


『少し?』


『格下の魔物など、それで十分だからな。先ず、出てこないだろう。目的地まではもう少しだ、しっかりと掴まっておけ』


 言われた通り、リーゼロッテはテオにしっかりとしがみ付く。更に上がるスピードに、もう念話すらキツくなる。
 目の前から、樹々が消えたかと思った瞬間、テオは空を飛んだ――のでは無く、丘のようになっていた場所から下へ飛び降りた。


(ひぃぃーっ! お腹がゾワ〜ッてするっ!!)


 完全なジェットコースター状態だった。シートベルトが無い分、怖さ倍増だ。
 フワッと、着地したテオは走るのを止めた。


『リーゼロッテ、着いたぞ』


 其処は、湖とも沼とも言えない微妙な色合いの……水辺だった。


「……ここは?」


『此処は、湖だ。あの中に面白い魔物が居る。リーゼロッテの力を試すのには、ちょうど良いと思ってな』


 ――嫌な予感がした。


 背中から降りようとすると、『降りなくて良い』と制止される。


 テオは、徐々に本来の大きさに戻っていく。
 落ちないように、灰色の豊かな毛を握りしめていると、あっという間に初めて会った時の……大きく立派なフェンリルの姿になった。
 
(ミニ狼の時は、柔らかくホワホワしていた毛並みだったのに)


 リーゼロッテが掴んでいたテオの毛は、大型犬サイズの時よりも更に硬くしっかりとしていた。 


『よいか。湖の魔物を少し煽るので、リーゼロッテが倒してみよ』


「……はい? 魔物を、倒す?」


『そうだ。耳を塞いでおけ。では、行くぞ!』


「はっ!? ちょっ、ちょっと待っ……」


 大きく息を吸い込んだテオの口から、地が揺れる程の咆哮が発せられた。
 魔力も一気に解放したのか、空気は振動し……リーゼロッテの身体にまで、ビリビリとした感じが伝わった。


 突如、凪いでいた湖の中心に渦が巻き出す。


(……居るよね……絶対……危ない奴ぅっ!!)


 ――――ドンッ!!


 と、地響きと共に渦の真ん中から水柱が上がった。


 リーゼロッテとテオのいた場所に、水柱から飛んで来る、湖の水が雨のように降り注ぐ。
 リーゼロッテは、それで濡れてしまうことよりも、水柱が上がった位置に現れた、大きな魔物に釘付けだった。


(ひぃぃっ。一つの身体から、……1.2.3.4.5……9匹の蛇の頭がぁ!? こ、これって、まさか……ヒュドラぁぁぁぁー!!)


 以前、某ファンタジー映画のCGで作ったことのあるモンスターだった。
 ちょっとしか出ない場面だったが、何日もかかったことを思い出す。


(映画の最後のロールで、自分の名前を見た時は感動したわ……名前は思い出せないけど。――って、そんな場合じゃないっ!!)


 完全にパニックのリーゼロッテに、テオはあっさり言った。


『大丈夫だ。リーゼロッテなら、簡単に倒せる』


「……そんなっ、どうやって!?」


『一度に全ての頭を落として、傷口を焼けば良い。そうだ、毒を吐くから結界も忘れるな。私の威圧を解いた時の要領でやれば良い』


「…………は? 頭を落とす?」


(ムリムリムリムリ!! 無理だぁぁ!)


 想像しただけで、全身に鳥肌が立つ。


 そんなリーゼロッテの気持ちはお構い無しで、水面を走るかの如く、ヒュドラーは水の中から此方に向かってやって来る。
 真ん中の蛇の口から、何かが吐き出された。


「ま、さか、毒!? い、いやぁぁ……来ないでぇぇぇ!!」


 思わずテオの毛を離して両手を前に突き出し、目をギュッと瞑って叫んだ瞬間……掌が熱くなった。
 何かが出たような感じはしたが、一瞬の出来事でよくわからない。
 暫く経っても変化が無かったので、恐る恐る片目を開くと――湖の中で燃えているヒュドラーがいた。
 しかも、全てテオに指示された状態になっている。


「……え?」


『ふむ。想像以上だな』


 状況が理解出来ずポケ〜っとする。


 気が付けば、ヒュドラーだった物からキラキラとした粒子が風に吹かれて飛んで行く。
 いつの間にか、水面には何も無くなり……淀んでいた湖の色が澄んだ水色になると、湖の周辺には可愛い虹色の花が次々に咲いていった。
 余りの急激な変化に、リーゼロッテは瞠目する。


「綺麗……」


『あれは魔物ヤツの魔素が栄養分となり咲いた花だ。確か、人間には貴重な物の筈だぞ。……リーゼロッテ、さっきの技は何だ?』


「はい? ……技?」


 何のことだかさっぱり解らず、小首を傾げる。


『そうだ。魔力の塊が飛んだかと思ったら、毒を消し去り頭を全て落として傷口から炎がでた。……何を想像した?』


「想像? 何も考えなかったけど……。あ、でも、テオが言った言葉は勝手に頭に浮かんじゃったわ。元々、イメージした物を創造する仕事だったから。自然と頭の中で描いちゃうのは癖ね。ただ、ヒュドラーがこっちに来ないように願ったけど……」


『……そうか。やはり、リーゼロッテは……』


「え? 何?」


『いや、何でもない。では、その花を摘んで帰るぞ。ルイスには、それを摘みに行くと言ったからな』


「えっ? じゃあ、お父様もヒュドラー退治をすることを知っていたの!?」


『そんなわけ無かろう。私が魔力を放つので、魔物は全く寄って来ないと言っておいた。花は安全な秘密の場所にあるともな』


 しれっと、テオはルイスを騙したことを告白する。


(えええ……)


 そして、大量の花をお土産に、二人は来た道を帰って行った。




 

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