転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜

Y.ひまわり

5.命名テオ

 ――翌朝。


 いや、もう昼だった。
 昨夜、だいぶ夜更かしをしてしまったせいか、リーゼロッテは太陽が高くなるまで目が覚めなかったのだ。


 ぼーっとした頭で、寝返りをうつと……隣りには、銀髪イケメンがベッドの中に居た。


(………!? 何故にベッドにイケメンがっ!!)


「……ん。……主人、おはよう」
 
 微睡むイケメン……否、フェンリルの「主人」という言葉で昨夜の出来事を思い出す。


 フェンリルを連れて部屋に戻ると、ホッとしたのか突然睡魔に襲われた。ふらついたリーゼロッテを、フェンリルがベッドに運んでくれたのだ。


(恐るべし、8歳児の体力の無さ……。転生前なら、完徹なんて当たり前だったのに)
 
 そして、ハッと気がついた。


(この状況は……! 絶対に不味いっ)


 いくら子供でも、一応リーゼロッテは令嬢だ。そのベッドの中に、従魔とはいえ成人男性(?)がいるのは……。
 ガバッとリーゼロッテは起き上がると、フェンリルを揺すり起こす。


「フェンリルさんっ! 起きて下さいっ。このままでは、侍女が驚きます! 人以外に変身出来ませんか?」


「……んん。人でなければ良いのか? ……ならば」


 未だボーっとしているフェンリルは、狼の姿に戻った。
 ただし、子犬サイズの。そして、また眠りにつく。


(うっ! 超可愛いんですけどぉー!!)
 
 あまりの可愛いさに、撫でようと手を伸ばそうとすると……。


「お嬢様、おはようございます。お目覚めでしょうか?」と、新人侍女のアンヌがやって来た。


 間一髪だった。


「アンヌ、おはよう」


「リーゼロッテお嬢様、旦那様がお部屋でお待ちです。お支度させて頂きますね」


 すると、アンヌがベッドの中のフェンリルの存在に気が付き、目を見開いた。


「此方がフェンリル様ですね。まあ、随分と可愛らしい……あ、いえ。早急にフェンリル様用のベッドをご用意致します」


 侍女達は、ルイスからフェンリルについて聞かされている様子だった。
 テキパキとアンヌは、リーゼロッテの支度を終わらせた。


 それから、人の姿になったフェンリルと、軽めのブランチを取る。
 フェンリルが何を食べるのか知らなかったが、リーゼロッテと同じものが用意されていた。多分、ルイスの指示だろう。


「フェンリルさん、よく眠れましたか?」


「勿論だ。久しぶりに、身体から重い枷が外れたのだ。それにしても、人間の使うベッドとは……何とも寝心地がよい物だな」


「アンヌが、フェンリルさん専用のベッドを用意すると言ってました」


 ふふっと笑うと、フェンリルは肩を竦めた。


「……我はリーゼロッテのベッドで良いのだが。時に、主人よ。その呼び方はどうなのだ?」


「呼び方ですか?」


「その、とは何だ? もしも、人として他の者を欺くならば、名を与えよ」


 確かに、フェンリルが有名な魔獣ならば、その名前を外で呼ぶのは宜しくない。


「名……? フェン……とか、リル……?」


 その言葉を聞いたフェンリルは、ジト目でリーゼロッテを見る。
 慌てて、他の名前を考える。……所詮、頭の中はただの日本人。洋風な名前が思い付かない。


「で、では、テオはどうかしら? 確か、意味は『神の贈り物』だったような……」


「ほう。テオ……か。気に入ったぞ」


 満足そうなフェンリルに、ホッと胸を撫で下ろした。


(昔、飼っていた犬の名前だとは、絶対に言えない……)


 食事を終えると、ルイスが仕事をしている執務室へ向かった。
 ルイスはリーゼロッテがやって来ると、書き物をしていた手を止め、顔を上げると微笑みを向けた。


「リーゼロッテ、フェンリル、よく眠れたかい?」


「はい、お父様。とても、よく眠れました」


「ああ、良く眠れたぞ。主人の父よ、リーゼロッテに新しい名を貰った。テオだ。これからは、そう呼べ」


 驚くルイスにテオはドヤ顔をする。
 さすが伝説の魔獣……態度がでかい。


「成る程、テオか。私の事は、ルイスと呼んでくれ」


「相分かった。ルイスよ、侍女が我にベッドを用意すると言っていたが、リーゼロッテのベッドで構わないぞ。彼処は、とても寝心地が良かった」


 ルイスの手から、ポロっと持っていた羽ペンが落ちる。


(……あぁぁぁぁ、しまった! 口止めしなかったぁ!)


「あ、あの、いえ……お父様……」


「……テオ。リーゼロッテは、まだ幼いが女性だ。いくら従魔といえど、テオは男。同じベッドで寝ることは出来ない」


「ほう? 人間とは面倒だな」


 渋々ながら、テオは納得してくれた。


 そして、この辺境伯邸の者以外には、テオがフェンリルであると明かさないことを約束をした。
 まだ子供のリーゼロッテが、高位な魔獣を従魔にしていると誰かに知れたら、下心のある者が寄ってくるかもしれない。最悪、リーゼロッテが狙われる可能性もあると、ルイスは懸念している。
 それについては、テオも同意見らしかった。


 ルイスの提案で、テオはリーゼロッテと外へ行く時は、執事兼従者として行動することになった。あくまでも、他人から従者と思われたらそれで良いと。


 話し方や動作等、執事のマルクに習う事になり――早速、特訓が始まった。













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