転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜

Y.ひまわり

4.従魔契約

 とどのつまり、フェンリルはリーゼロッテと従魔契約をして、この牢屋から解放されたいということだった。


 従魔とは、契約した相手を主人とし、決して逆らうことが出来なくなる。会話も、声を出さなくても通じる様になるらしい。心での会話……念話だ。
  
「でも、それって……。こんな子供が主人でいいのですか?」


『リーゼロッテには、全く悪意を感じぬ。それに、その魔力は主人として相応しい。何より、我が其方を気に入ったのだ』


「はあ、まあ……そういうことでしたら」


『では、契約を』


 リーゼロッテは、フェンリルに言われた通り、自分自身で手の甲に傷をつけようと、鍵穴近くの鋭角な部分で手を擦る。痛みが走り、少しだけ出血した。
 その手を鉄格子の間から、フェンリルに向かって差し出す。


 フェンリルは、自分の前足をガブリと噛み、リーゼロッテの傷の上に己の血を垂らした。
 手の甲はカッと熱を帯び、青白い光に包まれる。
 何か魔法陣のような紋様が現れると、そのまま痣の様に手に残った。
 
『これで、契約は完了した。では、リーゼロッテこの魔紐を切ってくれるか?』


「……魔紐? その手足に巻き付いた絹の様な紐ですか? 何かナイフの様な切れる物があるかしら……?」


 リーゼロッテは辺りを見回す。


『我が主人リーゼロッテよ。この紐は、其方が触れ魔力を流せば直ぐに切れる』


「あ、そうなんですね。……んん、しょっ!」


 もう一度、鉄格子の間から手を伸ばす。
 なかなか届かず、檻に身体を精一杯近付ける。プルプルする指先が、どうにか魔紐に触れた。


(よしっ、届いた!!)


 ほんの少し、魔力を流しただけでパチンッと紐は切れ、フェンリルは自由になった。


『漸く、重い枷から解放された。主人よ、感謝する』


 フェンリルは、グーッと気持ち良さそうに伸びをした。


(……気持ち良さそう)


 思わず笑みが溢れる。


「ねえ、フェンリルさん。どうやって、其処から出るの? それに、出れてもその体の大きさだと目立ってしまわない?」


『心配には及ばぬ』


 そう言うと、フェンリルは魔力の渦を体に纏い、人の姿に変身した。
 
「どうだ? この姿なら問題ないだろう?」


 銀髪の美しい青年の姿になったフェンリルは、妖艶に微笑んだ。
 そして、事もなげに鉄格子をグニャリと曲げて檻から出てきた。


 リーゼロッテの前に来ると、膝をつき紋様のある手の甲に、口付けをする。
 すると、痣は消え元の綺麗な手に戻った。フェンリルは、隠蔽を施したのだ。
 
(ヒエェェ……、この世界は刺激が強すぎだわ!)


 真っ赤になったリーゼロッテに、フェンリルは可笑しそうに笑う。


「主人、どこが大人の女性なのだ?」


「……うっ!」


 反論出来ずに悔しがっていると、上の方で勢いよく扉が開かれた音がした。
 
(やばっ! 誰かにバレたのかもっ!)
 
 焦るリーゼロッテの横で、フェンリルは不敵な笑みを見せ、階段から勢いよく下りてくる人物を見据える。


「誰だっ!! 此処で何をしているっ!」


「あっ、ルイスお父様……」


 声の主は、この屋敷の当主であるルイスだった。


「リ、リーゼロッテ……!? こんな時間に、此処で何をしてるっ? 子供が来る場所ではないっ!」


 リーゼロッテの肩を掴み、心配そうに覗き込んだ。


「あの……ですね。じ、実は……」


 しどろもどろで、何と説明したものかと悩んでいると、『我に任せよ』と頭の中に声が響いた。


「其方が、今の当主であるな?」


 フェンリルが、ルイスに平然と声をかけた。
 顔を上げたルイスは、壊された檻と人の姿のフェンリルを見て愕然とする。


「こ、これは……」


「心配するな、主人の父よ。我は、其方らに危害は加えない」


「……父だと!? まさか、お前は魔獣の……」


「いかにも、我はフェンリル。この場に捕らえられ100年……。漸く、主人と自由を手に入れたのだ。リーゼロッテを主人と認め、契約を結んだ」


「……んなっ! リーゼロッテはまだ子供だ! お前、リーゼロッテを嵌めたのかっ!」


 激昂するルイスに、フェンリルはフンッと鼻で笑った。


「何を言っている、主人は子供ではな……」


「あー!あー!あー! お、お父様っ! 私は、フェンリルさんに騙されてなどいませんっ!」


 リーゼロッテは焦り、捲し立てるようにフェンリルの言葉を遮ると、慌てて念話を送った。


『フェンリルさんっ! お父様は私の正体知らないのっ! まだ言わないでっ』


 フェンリルが黙って肯くと、リーゼロッテは適当な言い訳を考え話す。


「あ。そ、そうです! 私、お父様とお母様が亡くなってから寂しくて、いつもお話を聞いて貰っていたのです! それで、心配したフェンリルさんが私を守ってくれる約束をしてくれたのです……」


「……つまり、リーゼロッテは前々から此処へ来ていたのか? それで、契約を?」


「ごめんなさい……寂しくて。使用人達には内緒で抜け出していました。だから、誰も叱らないで下さい。全て、私が悪いのです」


 ポロッと涙を零すと、ルイスは切なそうな表情をして優しく頭を撫でた。
 それを見ていたフェンリルが、『ほう、成る程。涙を自在に操るとは……確かに、主人は大人の女だな』と念話してきたが、そこは勿論スルーした。
 
「……分かった。誰も叱らないから泣くんじゃない。ただ、従魔契約を本当にしたのか確認したい」


 リーゼロッテは、フェンリルに隠蔽を解いてもらい、自身の手の甲にある紋様を見せた。
 ルイスが息を呑んだのが分かる。


「確かに、本物の契約だ。……今日は、もう遅い。この件はまた話そう……リーゼロッテ、部屋に戻りなさい」


「はい。ルイスお父様」
 
 リーゼロッテの後について歩き出したフェンリルに、ルイスは尋ねる。


「……フェンリル、どこへ行く?」
 
「リーゼロッテの部屋に決まっている。主人と共に居るのは当たり前だ」


 フンッと言ったフェンリルと、ルイスの間にピリッと微妙な空気が流れていたことに、リーゼロッテは気がつかなかった。
 それよりも、あっさり泣き落としに引っかかってしまう、優しいルイスが心配になった。








 


 







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