転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜

Y.ひまわり

2.やはりループでしょうか

 ――これは、ループ?


 リーゼロッテの人生が巻き戻ったのだろうか……。
 つまり、今は二周目の人生――それ以外に考えられない。
 
 兎に角、一度ルイスに会ってみたかった。
 リーゼロッテの記憶の中のルイスと、転生者としての記憶がある今の私は、感じ方が違うかもしれない。
 両親の死についても、今は二度目で時間も経過しているので、悲しさはあるが……もう、受け入れられている。


 それよりも、一度目の最後の瞬間は覚えているが、その前までの記憶が部分的に欠落していることが、気にかかった。
 なぜ私は血塗れで、ルイスは剣を向けられていたのか。
 
 一体、誰が?
 
「フランツ、帰りましょう」


「えっ!? もう、家出はしなくていいの?」


「……家出? ……あっ!」


 思い出した。


 家出するために、まずは街を見たくて木に登ったことを。
 8歳のリーゼロッテは、ルイスに向かって啖呵を切り飛び出したのだ。


『新しいお父様なんて要らない! 本当のお父様とお母様を返してくれなきゃ、家出するからっ!!』と。


 泣きそうな顔をしていたのは、私ではなくルイスの方だった。なんて、子供は残酷なのだろう。


 ルイス自身だって……兄と義姉を亡くし、王都で築いてきた地位も手放して、私達の養父になる事を選択したのに。
 申し訳なさで、苦しくなった。


 ……あれ?


 一度目の時も、同じ様に木から落ちて頭を打ったのに、転生前の記憶は思い出さなかった。


 死の瞬間に、願ったからなのか?
 リーゼロッテ最後の願いは、『私にもっと力があったら……。どうか、ルイス叔父様を助けて……』だ。


 ──力?


 ジッと、小さな手を凝視するが、よく分からない。
 その手を……隣りからフランツが掴んだ。


「お姉ちゃん、帰ろう!」


「うん」


 ルイスの居る邸宅へ向かって、二人で歩き出した。






 ◇◇◇◇◇






 辺境伯邸に戻ると、二人の姿を見つけた従僕が、リーゼロッテ付きの侍女やフランツの従者を呼びに走った。
 お屋敷の使用人達が、総出で探していてくれていたらしい。


 この辺境伯領は、普通の領地とは違い危ないのだ。
 一歩、森や山へ入ってしまったら、魔獣や魔物の遭遇率がとても高い。


「「心配かけて、ごめんなさいっ!」」


 リーゼロッテとフランツは、皆に謝った。
 フランツに至っては、リーゼロッテの巻き添えでしかないのだが――。


 亡くなった両親は、貴族とは言えど悪いことをしたのなら、ちゃんと謝りなさいと教えた。エアハルト家に仕える者は、大切な家族だと。
 転生者であると思い出した今、とても共感できた。


 勿論、王都や他領ではそれは通じないのだが。


 身分や振る舞いは、決して間違えてはいけないらしい。その辺の、マナーやエチケットは、家庭教師に徹底して教えられている。


「ルイス叔父様……いえ、お父様は?」


 リーゼロッテの言葉に、侍女のヨハナは目を丸くした。


「……リーゼロッテお嬢様、ヨハナは嬉しゅうございます」
 
「いや、ヨハナ……泣かなくても」


 随分とリーゼロッテの反抗期は、皆に心配されていた様だった。
 ヨハナに連れられて執務室の前にやってくると、執事のマルクが扉を開けてくれた。


 緊張しながら中へ入ると、大きな窓の傍に佇んでいたルイスが振り返る。
 ネイビーブラックの髪に、黄昏時の空の光が降りそそぐ。


 リーゼロッテは、コクリと喉を鳴らした。


(……綺麗)


 父リカードの2歳下の弟、ルイス・フォン・エアハルト辺境伯は、この時はまだ26歳の筈。騎士として洗練された姿に整った顔立ち、美青年と言う言葉がピッタリだ。
 
「リーゼロッテ、フランツ。……よく帰って来てくれたね」


 そう言った、ルイスの表情は憂いを帯びていた。
 
(この表情……あ、私のせいだ)


「ルイスお父様、先程は申し訳ありませんでした」


「リーゼロッテ……!? 今、……と、言ったのか?」


 信じられないとばかりに瞠目して、リーゼロッテを凝視する。


「はい、言いました。私……反省したのです。悲しいのは私だけではないのに、ルイスお父様を傷つけるような言葉を……。私とフランツを、お父様の子供にして下さいませ」


 そして、リーゼロッテはルイスに丁寧なお辞儀をする。


「……リーゼロッテ、……っ」


 プルプルと肩を震わせ、口元を押さえて涙目になるルイス。
 どうやら、感極まっているらしい。ここの人達は、感受性が豊かな人が多いのだろうか。
 
(それにしても、ぎ、ギャップが……お父様、可愛すぎっ!)


 


 


 





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