ほっとけないよ?

清水レモン

勝手に近づいただけのこと

 「ちなみに電車での通学は…」おれが話を切り出すと、
 「できればもうしたくない。あんなの乗りたくないなあ」
 ラッシュアワーを思い出す。ぎゅうぎゅうの車内に、もう無理だろとわかっているのに乗らなきゃ行けない絶望感といったらもう。
 「あんなの…か」
 「あんなの、よ?」
 冷静に考えれば、よく乗れるよね。すでにもう毎日毎日ずっと乗れてる。
 冷静に考えると、よくよく狂ってるとしか思えないんだけど。
 「まあたしかに。普通じゃないよね、普通なんだけど」
 すでに常識。
 「うん。はっきり言えば異常。なのにあれが当たり前と言われてるあたり、異常も異常と思う」
 ここでの常識あちらでは非常識、そんなあちらがあるなら行ってみたい。
 「明日はエリカ…ちゃんのお父さん、父上さまの運転に戻れそうかい?」
 「だったらどんなにいいことか。あー」
 そのまんまテーブルに突っ伏しそうな勢いで前かがみになってしまう。

 おれは店内を見渡す。
 壁紙の色は白いけど、どこか温かみが感じられる。
 暖色系の照明のおかげかな、と思ったときに『あれ? 照明ちょっと変わったか』と気づいた。トーンが微妙に暗くなってる。落ち着いたと言ったほうがいいだろうか。
 「迷惑じゃなければ」おれは試しに提案してみることにした、
 「明日から一緒に乗らないか?」
 彼女はうつむきかげんのまま「ん?」と、ひとこと。言葉というよりシンプルな声。
 それから顔をあげて、まじまじとおれを見る。
 じっと。
 じいーぃっと。
 「…」
 おれは戸惑った。
 にらまれているわけではないけれど、視線をそらせなくなってしまったからだ。
 よくわからないが、視線さらしたら『負け!』と誰かに言われてしまいそう。
 彼女に言われるのではなく、もっとこうなんていうのか、おれの中のオレ的ななにかの声に。
 「おれ、負けるのは好きじゃないんだ」と言ってみる。
 「!」
 なにか、ひっかかったような目の光を放ってくる彼女。
 おれは続ける、
 「気持ちが負けたままだと、なんかもっとこう本質的に? くさってきちゃう気がしてしょうがないんだよね」
 彼女は瞳をキラッとさせて「わかる」と声を出した。
 わかる?
 ちょっと嬉しい。同意というのか共感なのか、『わかる』と言われたことで断然さっきより彼女との距離感が近くなったように感じた。
 ま、気のせいだろうけどね?
 おれが勝手に彼女に近づいただけのことだと思う、よ。

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