ほっとけないよ?

清水レモン

おぼえていますか

 「思い出した…の?」

 「ああ…」

 「それはどういう」

 「記憶だよ。記憶として、よみがえったみたいな感じていうか」

 「中の人としての記憶ですか?」

 「おれがなにもので、ここでなにをしているのか、ていうか」おれは言う、
 「なにしにココに来たのかだな」

 どうだ。まいったか。空想や妄想なら、おれだって負けてないぞ。
 そもそも自分がゼロから生み出す世界観なんて、そうそうあるもんじゃない。ある種の限界を超えた世界観なら実際に見たり聞いたりした体験と考えたほうが理にかなっている。と、個人的には考えている。

 「科学的には証明できないけどな」
 おれは誇らしげに言い切ってみた。

 さあ、これで引っ込みがつかなくなったぞ。どうする。
 もしこれで『このひとヘン』て思われるなら、それはそれ。
 かまわないさ。

 だがしかし。万が一いや何億光年かけて旅することを許されるならば小さな埃のような小惑星と小惑星がニアミスするのを見てしまうことだって、あるかもしれないじゃないか。だとするなら願わずにいられない。
 おれは出会いたい、と思ってきたし、いまでもそう思っている。この得体の知れない感覚を同じように持っている誰か。そんな誰かとの出会いを。ささやかでもいい、一瞬の通りすがりでもかまわないさ。刹那を共有できるひとがこの世界に存在しているのなら、本当に出会ってみたいんだ。
 本当に…

 だから、もし。
 
 もしかしたら、もしかして。

 そんな期待のようなもの。

 おれは期待する。
 彼女の瞳に、とてつもない絶望の色が浮かぶのを。このひとおかしいわ駄目だこりゃ、と判決をくだす瞬間を。
 『そうすれば、おれはもう心置きなくこの子とサヨナラできる』
 出会いを願いつつ、そのひとでないとわかったならば、さっさと離れたい。相反する気持ちが同居している状態だった。

 さあ!

 おれは模擬試験の結果を受け取るときのような気分で、わくわくしてきた。なのに。

 それなのに。

 「ふぅー」
 会話というより、ためいき。
 だが彼女の声は明確に文字化できた。おれの耳から脳へ伝わり、はっきりと認識できる。
 彼女の吐息には絶望のかけらも感じられなかった。それどころか。

 うつむき加減に視線を落としている状態から、にわかにオーラとしての輝きを増す。暮れなずむ街の遠い黄昏色が光線となって放たれる。みるみるうちに目の前が光り輝き、きらきらとした星の微粒子が宙に舞い踊っていくのを、まのあたりにした。
 それって。
 これって。

 ごくり、と息を。おれは飲まざるをえない。骨伝導で響いた呼吸が頭蓋骨そのものを振動させるのがよくわかった。
 おい!
 なんだよ、いったい。どうしたっていうんだ。そのキラキラきらめく空気感、さっきまでとうってかわって。

 いや待て。
 この空気感を、おれは知っている。
 遠い記憶の中に。
 いや、今朝のこと。
 あの朝の駅のホームで、ふと目を惹いた瞬間のときと同じ。

 おれの鼓動が脈をうつ。同時に、

 「………」

 いまにもなにかを語りかけてきそうな眼差しで彼女がおれを。
 半開きのまま、なにも声を発さないでいる唇が。

 「おぼえていますか。シュート、あなたも」
 ついに波のような声を伝えてきた。
 

コメント

コメントを書く

「学園」の人気作品

書籍化作品