ほっとけないよ?

清水レモン

初めてな気がしない

 汗は心の涙です。
 ちがうな。
 涙は心の汗なんですよ。
 うーん、なんかさっき思いついたのとニュアンスちがうかも!
 思考ぐるぐるしなが思い浮かぶ言葉は試行錯誤ばかりだ。
 同時進行で現実は容赦なく時間を進めているけど。
 
 そう。

 ほら、あと数歩。
 すぐそこにいるよ彼女、見覚えのある朝のセーラー服。

 「よく来るの?」
 
 おれは声かけて『ん?』て表情になる。
 
 そう。
 あれ? だってだってさ、どこかで会ったことがあるような面影が。

 『いや、だからさ、朝会ったんだって。会ったんだよ朝』

 つい今朝のこと。
 どこの誰かも知らない女の子。でもまあ同じ地元なのだろう。同じ駅から通学している?
 めったに通らない路地で下校しているおれは、神社に立ち寄った。そしたら偶然こうしてバッタリなわけだが。

 「ウフフ」

 ん? いまチョット笑った? のかな。
 見た感じ唇は閉ざされていて、発生された形跡らしきものがないけれど。ウフフて。
 
 ん。うーん?
 ジャリジャリジャリ勢いよく歩く、おれは彼女に近づいた。
 っと、とっとっ、とっ。まずい、近づきすぎたかも。と思って、たじろぎそうになるのをグッとこらえた、

 「久しぶり?」
 今度はハッキリと唇の動きも見れた。でも久しぶり? まあ今朝のことだけど、まあ過去には戻れないのだから久しぶりといえば久しぶりか。

 「だね」
 おれは一気に和んだ。思わず笑顔ニヤけたかもしれない。まあ、いいや。

 ちゅんちゅん鳥の声、すずめだろうかハトだろうか。そんな脳内ひとりごとに遅れて、

 くるっくー。くるっくー。

 あ、ハトは、あっち。くるっくー、ちゅんちゅん。風がない、きわめて不自然なほど空気が澄み切っている。

 「…」
 
 彼女なにか言いたそう。なにも言ってこないから、おれが言う、

 「ここ」
 いや、すでにもう質問済みだった。ここの神社によく来るのかい、って。実際なんて言ったかもう思い出せないけど、おれのほうが先に質問しているのだけは確かだ。だったら。

 たたみかけるように話しかけたら失礼、だよな。

 待とう。おれは自分に指示する。ちょっと待とう、反応。彼女なんて答えるのか、なにも答えないのか。待とう彼女。すると、

 「…うん」

 うん。
 うん?
 だね。
 てことは、ここによく来る。神社に参拝か、それとも散歩か。でも、あれ?

 朝、降りたのは隣の駅。
 電車に乗ったのは、おれと同じ駅。
 
 『この街に用事があるのか?』
 まあ、親戚がいるとか友だちがとか、あるかもしれない。

 「そっか。うん」
 おれは納得して言う、
 「おれは、たま~に。ごく、たま~に、通ります」

 彼女は素早い反応でコクコクコクンうなずいた。
 まるで『知ってるよ』みたいな反応にも見える。気のせいだろうけど。

 「ここに来ると空気すっごく澄んでるよね。気持ちが洗われる」

 思わず本音を言ってしまう。
 
 『いっけね! 空気が澄んでるとか気持ちが洗われるとか禁句だったっけ!?』
 ときどき同級生クラスメートから指摘されていたのを思い出した。
 よく言われるし、おれもよくついつい言ってしまう、そのたびに指摘されているんだった、『シュートは話しかたが固いんだよ』って『ほんと少しちゃんと研究したほうがいいってば、その話しかた。しらけるよ』って、ああ、思い出したら気分がしおれてきた。
 
 目の前の彼女は、とくに嫌そうな顔ではない。

 『なら、ま、いっか。もう話してしまったことだし、いちいち打ち消して訂正するとか面倒だし』

 ときどき妙に耳がとぎすまされて鳥のさえずりがハッキリ聞こえた。風は、ない。
 
 すると、
 「うん、ここの空気とても気持ちいい。すっきりする」
 彼女が言った。

 こころなしか、ちょっとなごんでいるような、いないような。
 うん、と無言でうなずいてしまう。そのとき、

 『あ。おれ、この子と仲良くなりたい』と思う。思ったとたんに、

 「え? わたしと?」と彼女が言う。

 まさか心を読まれたのか、エスパーか。それならそれでもいいけど、まさかおれが思わず無自覚に声に出していたとかじゃないだろうな。だとしたら困る、ひとりごと言ってたとしたら恥ずかしい。けど、まあ、だとしても手遅れか?
 言ってしまってたんなら、すでにもう撤回できないし。
 ああ、なんだかもう、おれってからまわりぎみなのかもしれないな!

 と、なかばヤケになりかけたところで、
 「ちょっとだけ。少し時間いい?」
 おれは訊く。

 「…うん」
 すんなり返事されてホッとしつつも戸惑った。
 
 だって、なにも考えていなかったから。話題なんてないし。そもそもなんでおれ、そんなこと言うかな。

 「じゃあ歩きながらでも」

 「もう参拝は済ませたの?」

 「まだ」

 「わたしも」

 「じゃあ、一緒にしよう」

 うん、と小さく、小さいながらも返事が返ってきた。唇の動きは感じられなかったけれど、ちょっとだけ笑顔になってくれている気がする。まったく理由はわからないけど。
 
 それにしてもなんだろう、この感覚ていうか彼女の反応。
 まったく知らない気がしない。
 初めて会う、んだよな。いやまあ今朝すでに一回もう会っているわけだけど、でも。
 
 朝は気づかなかった。なぜだか初めてな気がしない。
 

 

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