可能性のバイミー
人生をやり直したくはありませんか?
光を放つ液晶ディスプレイが私と、その傍に立つ女性の顔を照らしている
暗い部屋の中には物などが全く置かれておらず、スピーカーから響く音声だけが聞こえている
画面に映し出されている男の人生を私はダイジェストで見せられていた
その男に見覚えがあると言うと、凄く白々しくなってしまうが、私はその男に見覚えがあった
西村宏太、男性、趣味はネットゲーム
男の生活サイクルは平々凡々としている
変わり映えのしない日常、穏やかに流れる日々
たまに嬉しい事や悲しい事が起きていたりはするが、それも些細な事で、日本の何処にでもありそうな普通の光景
そんなエンターテイメントの欠片もない彼の日常を、私と女性はディスプレイ越しに眺めている
「なんと言うか、面白味に欠けますね」
私が落胆気味に呟くと傍に立つ女性が表情を変えずに返事をした
「それは、あなたが望んだからでしょう?」
女性の台詞に私は言葉を返す
「私が望んだと言うよりは…世間が望んだと言う方が正しいかと…」
私の言葉を聞き、黄色に光る猫のような眼を細めた女性は、淡々と告げる
「あなたの選択です…誰になにを望まれていたとしても…最終決定権はあなたにある…まぁ国が違えばその言い訳にも、少しは同意できる余地があったかもしれませんが」
「君は外国人みたいだから知らないだろうが、ここはそんなに自由ではないよ、不自由な事だって沢山」
「それが答えじゃないですか?あなたは自由を勝ち取る為に不自由を選び、自由を勝ち取った、その事で別の自由が損なわれていたとしても、仕方のない事です、どちらも得ようとする事自体が難しい話なのですから…自由だからと言って自由自在とはいかないものですよ、人生と言うのは」
「君みたいな若い子に説教されると、おじさんなんだか興奮してしまうな…」
彼女の正論に、私は冗談を飛ばす事しか出来ないでいた
おまけに彼女の顔は真顔で、こちらのジョークなどは全く面白いと感じていないらしい
これがジェネレーションギャップと言う奴だろうか?
私が若い頃はみんな、質の悪い冗談でも、愛想笑いぐらいはしてくれたものだが
あるいは年齢もあるのだろう
私が過去に笑って許されていたとしても、それは、その時の状況が噛み合っていただけにすぎない
私の冗談は昔の私が言えば、輝きを放つのかもしれないが、今の私が言うと冗談とは受け取ってもらえないと、そう言う事だろう
これが歳を重ねると言う事なんだなと、感慨に浸りながら、ディスプレイに映る男の姿を見つめる
この男が生まれてからの数十年間を事細かに描写しているのにも関わらず、私が身に付けているパネルライの時計の短針は文字盤を周回する事はない
ダイジェストとは言え、明らかに時間の感覚がおかしい
混乱する頭で、自分の人生について考える
映像の中に映っているのは若かりし頃の私で、今現在の私は52歳だ
ディスプレイに映る私は、画家になろうと頑張っていた時期の私で、アルバイトをしながら絵を描いてたのを覚えている
この後は画家になるのを諦めて、29歳でとある大手企業に入り、それなりに充実した暮らしをしていた
仕事自体はそこまで難しいものではなく、給料が良い事もあり、周りの友達からも羨ましいと言われた事もあった
定年まで働いて、老後はのんびりと暮らすと、そんな事を考えていたのだが、人生とはなにが起こるか分からないもので、51歳で職を失い、仕事に役立つ専門性なども磨いていなかった為、52歳の今現在はかなり厳しい状況である
10代はそれなりの青春を謳歌していたし、20代の時は夢に燃えていた時期もあった、30代の時には可愛い彼女も居たりして、将来は結婚も考えていた…
しかし、40代では彼女と破局し、仲の良かった友達とも疎遠になり、昔からやりたかった夢に向き合おうと考えたりもしたが、今更そんな事をしても痛いだけだと、酒と女遊びに逃げて、貯金を使い果たした
我ながら酷い人生だと感じる…
こんな男のこんな人生を、わざわざダイジェストで見せて、この女性は一体なにがしたいのだろうか?
頭の中で疑問がわいてくるが、答えは全く浮かんでこない
この女性がどんな人物なのか全く分からないし、この状況がなんなのかも今だに理解できない
ただ、普通じゃない事は理解が出来る
この状況になる前の事を思い出してみても、それは明らかだ
私がアルバイトを終えて飲み屋街を歩いている時に、彼女は現れた
「そこのあなた、ちょっといいですか?」
私はキャッチかなにかだろうと思い、適当にあしらおうとしたのだが
「あなたですよ、聞こえていますよね?」
「聞こえません」
「返事してるじゃないですか?」
「聞こえません」
喋る時は相手を見てから喋るのが礼儀と言うものですよ」
「聞こえません」
「見ざる聞かざると言う訳ですか、そこまでするなら言わざるも徹底して欲しいものですが」
「聞こえません」
「私も聞こえません」
思った以上にしつこい女性を10分程無視して歩いていたが、彼女は何処までも足を止めずに付いてくる
流石にしつこすぎると判断し、追い払おうと決めた次の瞬間、背中越しに聞こえた女性の台詞で、私は足を止めた
「人生をやり直したくはありませんか?」
女性の言葉が気になり振り向くと、そこには長い黒髪をした、猫のような目つきの、小柄なコスプレ少女が立っていた
アニメかなにかの話だろうかと思いつつ、酔っ払った足取りで女性に近づく
すると、飲み過ぎていたのか、いきなり眩暈が襲ってきて、気づくと私は、暗い部屋の中に居た
部屋の中にはコスプレみたいな格好をした、先程の女性が立っており、私をディスプレイの前に座らせると、いきなり映像が始まり、現在に至る
全くもって理解が出来ない、この状況について尋ねようとしても彼女は「質問は映像を見終わってからお願いします」と言って、状況の説明をしてくれない
最初は映像を見てるのも楽しいと感じていたが、社会人になった辺りから生活はマンネリ化しており、自分の人生ながらつまらないなと感じてしまっている
それでも、全部見終わらないと状況を話してくれそうにないので、私は仕方なくディスプレイを見続けた
52年間をダイジェストって一体何時間かかるんだろうかと、そんな事を考えていた
暗い部屋の中には物などが全く置かれておらず、スピーカーから響く音声だけが聞こえている
画面に映し出されている男の人生を私はダイジェストで見せられていた
その男に見覚えがあると言うと、凄く白々しくなってしまうが、私はその男に見覚えがあった
西村宏太、男性、趣味はネットゲーム
男の生活サイクルは平々凡々としている
変わり映えのしない日常、穏やかに流れる日々
たまに嬉しい事や悲しい事が起きていたりはするが、それも些細な事で、日本の何処にでもありそうな普通の光景
そんなエンターテイメントの欠片もない彼の日常を、私と女性はディスプレイ越しに眺めている
「なんと言うか、面白味に欠けますね」
私が落胆気味に呟くと傍に立つ女性が表情を変えずに返事をした
「それは、あなたが望んだからでしょう?」
女性の台詞に私は言葉を返す
「私が望んだと言うよりは…世間が望んだと言う方が正しいかと…」
私の言葉を聞き、黄色に光る猫のような眼を細めた女性は、淡々と告げる
「あなたの選択です…誰になにを望まれていたとしても…最終決定権はあなたにある…まぁ国が違えばその言い訳にも、少しは同意できる余地があったかもしれませんが」
「君は外国人みたいだから知らないだろうが、ここはそんなに自由ではないよ、不自由な事だって沢山」
「それが答えじゃないですか?あなたは自由を勝ち取る為に不自由を選び、自由を勝ち取った、その事で別の自由が損なわれていたとしても、仕方のない事です、どちらも得ようとする事自体が難しい話なのですから…自由だからと言って自由自在とはいかないものですよ、人生と言うのは」
「君みたいな若い子に説教されると、おじさんなんだか興奮してしまうな…」
彼女の正論に、私は冗談を飛ばす事しか出来ないでいた
おまけに彼女の顔は真顔で、こちらのジョークなどは全く面白いと感じていないらしい
これがジェネレーションギャップと言う奴だろうか?
私が若い頃はみんな、質の悪い冗談でも、愛想笑いぐらいはしてくれたものだが
あるいは年齢もあるのだろう
私が過去に笑って許されていたとしても、それは、その時の状況が噛み合っていただけにすぎない
私の冗談は昔の私が言えば、輝きを放つのかもしれないが、今の私が言うと冗談とは受け取ってもらえないと、そう言う事だろう
これが歳を重ねると言う事なんだなと、感慨に浸りながら、ディスプレイに映る男の姿を見つめる
この男が生まれてからの数十年間を事細かに描写しているのにも関わらず、私が身に付けているパネルライの時計の短針は文字盤を周回する事はない
ダイジェストとは言え、明らかに時間の感覚がおかしい
混乱する頭で、自分の人生について考える
映像の中に映っているのは若かりし頃の私で、今現在の私は52歳だ
ディスプレイに映る私は、画家になろうと頑張っていた時期の私で、アルバイトをしながら絵を描いてたのを覚えている
この後は画家になるのを諦めて、29歳でとある大手企業に入り、それなりに充実した暮らしをしていた
仕事自体はそこまで難しいものではなく、給料が良い事もあり、周りの友達からも羨ましいと言われた事もあった
定年まで働いて、老後はのんびりと暮らすと、そんな事を考えていたのだが、人生とはなにが起こるか分からないもので、51歳で職を失い、仕事に役立つ専門性なども磨いていなかった為、52歳の今現在はかなり厳しい状況である
10代はそれなりの青春を謳歌していたし、20代の時は夢に燃えていた時期もあった、30代の時には可愛い彼女も居たりして、将来は結婚も考えていた…
しかし、40代では彼女と破局し、仲の良かった友達とも疎遠になり、昔からやりたかった夢に向き合おうと考えたりもしたが、今更そんな事をしても痛いだけだと、酒と女遊びに逃げて、貯金を使い果たした
我ながら酷い人生だと感じる…
こんな男のこんな人生を、わざわざダイジェストで見せて、この女性は一体なにがしたいのだろうか?
頭の中で疑問がわいてくるが、答えは全く浮かんでこない
この女性がどんな人物なのか全く分からないし、この状況がなんなのかも今だに理解できない
ただ、普通じゃない事は理解が出来る
この状況になる前の事を思い出してみても、それは明らかだ
私がアルバイトを終えて飲み屋街を歩いている時に、彼女は現れた
「そこのあなた、ちょっといいですか?」
私はキャッチかなにかだろうと思い、適当にあしらおうとしたのだが
「あなたですよ、聞こえていますよね?」
「聞こえません」
「返事してるじゃないですか?」
「聞こえません」
喋る時は相手を見てから喋るのが礼儀と言うものですよ」
「聞こえません」
「見ざる聞かざると言う訳ですか、そこまでするなら言わざるも徹底して欲しいものですが」
「聞こえません」
「私も聞こえません」
思った以上にしつこい女性を10分程無視して歩いていたが、彼女は何処までも足を止めずに付いてくる
流石にしつこすぎると判断し、追い払おうと決めた次の瞬間、背中越しに聞こえた女性の台詞で、私は足を止めた
「人生をやり直したくはありませんか?」
女性の言葉が気になり振り向くと、そこには長い黒髪をした、猫のような目つきの、小柄なコスプレ少女が立っていた
アニメかなにかの話だろうかと思いつつ、酔っ払った足取りで女性に近づく
すると、飲み過ぎていたのか、いきなり眩暈が襲ってきて、気づくと私は、暗い部屋の中に居た
部屋の中にはコスプレみたいな格好をした、先程の女性が立っており、私をディスプレイの前に座らせると、いきなり映像が始まり、現在に至る
全くもって理解が出来ない、この状況について尋ねようとしても彼女は「質問は映像を見終わってからお願いします」と言って、状況の説明をしてくれない
最初は映像を見てるのも楽しいと感じていたが、社会人になった辺りから生活はマンネリ化しており、自分の人生ながらつまらないなと感じてしまっている
それでも、全部見終わらないと状況を話してくれそうにないので、私は仕方なくディスプレイを見続けた
52年間をダイジェストって一体何時間かかるんだろうかと、そんな事を考えていた
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