イモ好き令嬢は嫁いで、畑仕事に精を出したい! 〜ヤンデレ夏の妖精王とツンデレ冬の妖精王の溺愛よりもイモですイモ!イモが食べたい!〜

あさぎかな@電子書籍二作目発売中

第28話 情報収集をします

 アルバート様はそう言うと足を進めた。パーティーは中庭で行われるようで、世界樹城というだけあり、屋根よりも高い大樹がいくつも見られた。
 各テーブルには菓子や料理が並び、飲み物は家事妖精ブラウニーたちが運んでくる。開放感あるパーティーを前に、私も少し気持ちワクワクしてきたのですが──アルバート様の周囲だけ葬式のように暗い。

 空気も重い。
 挨拶にくる妖精たちもおらず、完全にアウェイすぎる。このままじゃ不味いと思い、声をかける。

「あ。そうです、アルバート様。何か飲みますか?」
「(あれはアルコール度数の高すぎるカクテル! 酒豪殺しの飲み物ばかりじゃないか。あんなのサティに飲ませて、頬を染める姿を他の連中が見たら……)不要だ」

 即否定。会話に終了した。領地にいる時はもっと雰囲気は柔らかいのに、ここだと素っ気なさが目立つ。
 緊張、というよりは警戒が強い。もしかしたらミデル公爵の牽制かもしれないと思い、見せつけるのなら、と意を決して彼の腕に触れて密着する。

「サティ」
「仲良しアピールです。あ、嫌だったら」
「そんな訳ない」
「……! はい」

 伯爵令嬢として、品格と優雅さを総動員して並んで歩く。
 ドキドキ心臓の音が煩いけれど、アルバート様に拒絶されなかったのが嬉しくて口元がニヤけてしまう。

(アルバート様は素敵な方なのだから、周りの人たちにも伝えたい)
「(ああああああーーー。胸が当たって、サティがめちゃくちゃかわいいことを! え、今日、俺、いや私は死ぬの? こんな可愛い子なら皆惚れるんじゃないか!)……」

 密着しても涼し気な表情をしていらっしゃる。うん、分かっていたけれども。でも耳が少し赤くなっているのが、何だか可愛い。なぜか頭を撫でてあげたい気持ちが芽生えた。

 さぁあああ。
 ふと風と共に木々の香りが鼻腔をくすぐった。

「そういえば中庭にある樹木は立派ですね」
「ああ」
「妖精界の樹木は自身が発行しているように輝いて見えます」
「マナが濃いからな。しかしサティがそう話すと私の目にも美しく映るものなのだな」
「じゃあ、私たちのお屋敷もマナが潤えば、こんな風に緑豊かな領土になるのですね」
「ああ」

 アルバート様は一瞬だけ目を見開き、少しだけ口元を綻ばせた。そのギャップにドキリとする。

「せっかくだ。挨拶をしていこう」
「?」

 私とアルバート様は中庭の大樹の前で立ち止まった。挨拶とは一体?

「やあ、待っていたよ~。アルバート~」
「!」
「久しぶりだな、森の上位精霊エント

 間延びした声で喋ったのは樹木そのものでした。

「サティ、彼は森の上位精霊エントだ。数百、数千年生きた大樹が精霊へと昇華する」
「は、初めまして。アルバート様の妻、サティです」
「はじめましてぇ~」

 この大樹の前だと自然と緊張がほぐれて、空気が和らいだ。楽器を持った演奏者たちが曲を奏で始めたことでさらに場は盛り上がる。こうしてみると人間も妖精もあまり大差ない気がした。もっとも妖精の国では美男美女ばかりですが。

(こういう所なら、ダンスとかもするのかしら?)
「おーい、アルバート」

 アルバート様と森の上位精霊エントの会話を遮ったのは、長身の青年でした。蝶の羽根を生やした青年の服装は緋色の燕尾服でかなり目立っています。人懐こい笑みを浮かべる青年に対して、アルバート様は底冷えするような視線を返した。

(友人……ではない?)
「なんの用だ?」
「睨むなよ、オベロンが今後の事で少し話があってさ」
「そうか」

 アルバート様はチラリと私に視線を向けた。恐らく私は連れていけないのだろう。だからこそ青年はあのような言い方をしたのだ。ここは良い嫁を演じることに徹するべきと判断して、私はアルバート様へと視線を向けた。

「アルバート様、私はここでお待ちしています」
「……サティ。わかった」

 腕から手を離すと、アルバート様は少しだけ困った顔をしつつも私の頬にキスをした。ぼん、と一瞬で頬に熱が集まる。周囲も見ていた人たちが「きゃー!」と声を上げているのが聞こえる。

(人前で、き、キス!)
「(唇にしたいけれど、卒倒したら困るし……。帰ってからにしよう)すぐに戻る」
「はぃい」

 こういうパーティーでの「すぐ戻る」はあてにしない。妖精であっても社交は大事だし、情報共有や交渉となれば時間は更に掛かる。
 特に呪いについての打開策を探しに来ているのだ。それはアルバート様も分かっているだろう。
 私は大人しく壁の花になっていればいい。そう結論を出したのだが、悲しいことに世の中そう上手くことは運ばないものだ。

「あ、アナタ冬の妖精王の花嫁でしょう!」
「え、あ」
「きゃあ、なんて甘いマナなの~」
「ねぇねぇ、冬の妖精王アルバート様との生活はどう?」
「やっぱり大変?」
「酷いことされていない?」
「辛くない?」
(す、すごい質問攻め。そしてアルバート様の印象の悪さ!)

 私に話しかけてきたのは上位精霊ニンフたちだった。神様にも近しい彼女たちからは甘い香りが漂い、美人ばかりで眩しい。

「あ、えっと……」
「貴方からは春のマナを感じるの」
(速攻でバレた!)
「うんうん。花のいい匂いもするわ」
「とっても綺麗な魂だわ。だから、あの冷血妖精王の傍に居て大丈夫か、心配なの」

 これがモテ期──冗談はさておき、嬉しいことに妖精たちに好かれている。てっきり「あの方に人間なんてふさわしくない」とか言われると思ったのに、予想外だった。
 とにもかくにも、私はサフィール王国で学んだ淑女らしい笑みを浮かべて答える。

「お気遣いありがとうございます。アルバート様はとても優しく大事にしてくださいますよ!」
「本当に?」
「ええ」

 見ず知らずの訳あり伯爵令嬢である私に、居場所を作ってくれた大恩ある方だ。私の畑仕事や料理にだって許容してくれて、一緒に楽しんでくれる。ノワールの主人でもあるし、冷たい方でも恐ろしくもない。むしろ──。

「不器用と言いますか言葉足らずなところはありますが、領土回復にも一生懸命ですし、素敵な方です。あの方の番になれて、よかったと心から思っています! 本当に!」

 私の言葉に上位精霊ニンフたちは「かわいい」とか「愛らしい」となぜか私の株が爆上がりしました。なぜに。出来るのならアルバート様の株が上がって欲しかったのですが、思うようにいかないものだ。

(でもまあ、険悪な雰囲気にならずに済んでよかった──って思っておけばいいかも?)

 それから私は色んな妖精たちと挨拶を交わした。みな好意的で優しくて親切な人たちばかりだった。
 サフィール王国のパーティーとは全く違う。牽制し合う令嬢や流言飛語が飛び交い、醜聞を話のネタにするような者はいない。なんて素敵なのでしょう。
 
 この時、私はアルバート様の評価が低いのか警戒されているのかなど気になったものの、それを聞く機会は得られなかった。残念。

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