イモ好き令嬢は嫁いで、畑仕事に精を出したい! 〜ヤンデレ夏の妖精王とツンデレ冬の妖精王の溺愛よりもイモですイモ!イモが食べたい!〜

あさぎかな@電子書籍二作目発売中

第18話 冬の妖精王と黒い獣

「ん……」
「くうん?」

 最高に気持ちの良い毛並みに、温もり。私を大切だというように擦り寄ってくるのは黒い獣の特徴だ。

(モフモフ……)
「クウン」

 目を覚ますとそこは薄暗い部屋の中で、暖炉傍の長椅子に横になっていた。
 生きていることに驚きつつも毛布でぐるぐる巻きにされ、私の背中には黒い獣が守るように傍にいる。いつの間にか尾は五つになっており、ぶんぶんと嬉しそうに降っているのが見えた。

(可愛い奴め!)

 思わず顎を撫でたら「キュン」と可愛い声をあげて甘えてきた。ベロベロと頬を舐めるのは擽ったいが、好かれているのだと思うと胸が温かくなる。

「モフモフ……!」

 身じろぎすると雨で濡れた髪は乾いており、足や喉には包帯がしっかりと巻かれていて誰かが手当てをしてくれたようだ。
 気を失う前に近寄った黒衣の騎士だろうか。

「(私を連れ帰ったのは精霊魔術師レムルとは無関係? ミデル王やサフィール王国の遣いの可能性ならモフモフがいるのも可笑しいし……)モフモフ、ここはどこか分かる?」
「ワフ!」

 安全かどうかは分からないけれど、黒い獣が傍にいるだけで安心できた。私が不安になっていないか心配するように擦り寄るのが可愛くてたまらない。
 周囲には暖炉の炎がか細くも赤々と燃えており、ソファはかなりの年代物だが、毛布は新品のように新しい。

(古城、または使われていない屋敷かしら?)

 大きな窓は汚れてカーテンも古臭い匂いがする。石造りで出来た暖炉も古く、すすも目立ち、部屋の灯りが暖炉の炎だけだからか薄暗く物寂しい感じがした。生活感が感じられず、ここ数年は放置されていたようだ。

「……目を覚ましたようだな」
「!?」

 低い声に、ドキリとした。
 声のほうに視線を向けると、ドアの傍に黒衣の騎士が佇んでいた。闇をまとった死神のような男の人。琥珀こはく色の双眸は硝子の様に無機質で、なんだか表情が削ぎ落されたような──けれど何だか不思議と怖くない。

「あ、が」

 言葉にしようとして声が出ず、咽てしまった。喉に痛みがないのを確認して、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「あなた……が私を助けてくれたのですか?」

 かすれた声だったけれど、なんとか言葉にできた。黒衣の騎士はしばし思案した後で、きつく結んだ唇を緩めた。

「結果的には、そうといえる」
「ありがとうございます──?」

 そう呟いている最中に視界がぐらりと歪んで、意識が遠のいた。気付けば天井と私を抱き留めてくれた黒衣の騎士がすぐ傍にいる。

「あ……れ?」

 心なしかものすごく顔が近い。
 良く見たら目鼻立ちが整っており、彫刻のように美しいが眉間に皺を寄せているせいか迫力がある。ジッと見つめられているような圧迫感は一体。

(怒っているようにも見えるのだけれど……)
「回復までには、まだ時間がかかる。今は体を休めるように……。君はすぐに無理をする――と、見て……いや、眷族がそう言っていた」
(眷族?)

 ふと尻尾を振って喜んでいる黒い獣の姿が目に入った。可愛いので頭を撫でたのだが、黒衣の騎士は僅かに片眉を吊り上げる。これはどういう反応なのだろう。

「(飼い主的に勝手に触るな?)……って、もしかしてこのモフモフは、貴方の眷族なのですか?」
「あー、ああ? ああ、そうだ」

 間延びした声に、疑問系で最後は断定。挙動不審というよりも私と会話をするのが緊張しているのか、あるいは会話が苦手なのか言葉に詰まっているような気がした。

「モフモフから聞いているかもしれませんが、私はサティ・フォン・クワールツ……いえ、サティと申します。貴方様のお名前とモフモフの名前を教えて頂けませんか?」
「俺はアルバート、でそっちは………………ノワールだ」
「ワフ!」
「ノワール!」

 ノワールをギュッと抱きしめたら、尻尾が沢山揺れてとても喜んでいた。それを見ていたアルバート様はノワールの首根っこを掴んで部屋の端に移動してしまう。

「ちょっと、失礼」
「あ、はい」
「グルルッ」
「(ちょ、アルバート様。コレどういう状況なのですか! 私の変化魔法を勝手にかけないでください!)暴れるな」
「グルルルル(黙れ、シルエ。本当は目を覚ましたらすぐに正体を明かすつもりだったのだが……急に怖くなってしまった)」
「まったく(何考えているんですか! 私にアルバート様の真似はできませんし、私がサティ様を口説けと!?)」
「ガウ!?(それは困る! と、とりあえずサティに食事の準備をすると言って、俺を連れ出すのだ!)」
「(分かりました。本当にすぐに正体を明かしてくださいね)……サティ、食事の用意をさせるのでこの部屋で待っていてくれ」
「(何だか仲良しさんだな。ノワールの家族が良い人そうでよかった)はい。ありがとうございます」
「ほら、ノワール、お前には頼んでおいた仕事を済ませてこい」
「ガウ」

 不服そうに頷いたノワールは、私の傍に歩み寄る。黒く長い毛並みはとても綺麗だ。ギュッと抱きしめると、尻尾を振って頬をすり寄せる。鼻にキスをしてソファの影の中に隠れてしまった。
 ノワールと戯れている間に、アルバート様は部屋から出て行ったようだ。少しお話をしたかったが、食事をするときに話す機会があるかもしれないと、ソファに座り直す。

(……そういえば、ここがどこかとか何も聞いてなかった)

 暖炉の炎がパチパチと音を鳴らす。
 静かだ。けれど不思議と落ち着く。
 少なくとも危険はないと思えた瞬間、どっと疲れが押し寄せてきた。

(体は怠いし、お腹も減ったし、ここに来るまで散々だった。……でも、もう一人じゃない)

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