イモ好き令嬢は嫁いで、畑仕事に精を出したい! 〜ヤンデレ夏の妖精王とツンデレ冬の妖精王の溺愛よりもイモですイモ!イモが食べたい!〜

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第10話 鳥籠の世界

 社交界デビューから二ヵ月が経ったものの、ミデル王との婚約破棄は覆らず続行となってしまった。
 物が無くなる、手紙が届かないなどのことが多発し、私は社交界に行く機会を失うことに。これではあの妖精貴族の少年とも会えない。一つ一つ逃げ道を潰されていく感覚。
 鳴り続ける警鐘。
 姉様の艶然とした笑み。
 そして嫌な予感は、すぐに的中する。

 人攫い。
 しかも深夜に屋敷に侵入した賊は、私を誘拐しようと部屋に侵入した──らしい。その日は何故か酷く眠くて早々に寝床についたので、私は終始気付かないまま全てが終わっていた。

 次に目を覚ませば、両親が「無事でよかった!」と泣き崩れているし、ミデル公爵は安心した顔でホッとしていて、トリア姉様は明らかに残念がっていた。
 話を聞くに賊が私の寝室に入った瞬間、妖精の警護者スプリガンが一網打尽にしたという。ゾッとする話だが、怖いのはここからだった。

「私の妻になりたいという令嬢は多い。サティの存在に危機感を覚えて、卑怯な手に出たのだろう。許されない行為だ」
「私たちも護衛を雇っていたのですが、お恥ずかしい話、今回、賊の中に魔術師もいたらしく何らかの魔法で眠らせられていたようなのです」
「今回は未然に不正だけれど……ここは安全じゃないかもしれないわ」

 自然な流れで話が進んでいく。筋書きは最初から決まっていたかのようで、あっという間に婚姻を早める話が持ち上がる。

「エーティン、君の安全を第一に考えたい。どうか婚姻の受諾を」
「そ……そんな。急に……」

 それでなくともミデル公爵と二人きりで話す機会など皆無で、常にトリア姉様がくっついて来る。それだけではなく会話にできるだけ加えないようにして来るのだ。
 ミデル公爵はそれを容認しているのか、トリア姉様を窘めることはしない。
 だからいまだに私はミデル公爵のことがよくわからないし、何を考えているのかもさっぱりだった。

(そもそも私はエーティンではない。その辺りの事情も聞いてないし……)
「すぐに婚姻ができないのなら、安全な……そうだ。この国に所有している私の屋敷で暮らしてみるのはどうだろう。そこなら妖精の警護も厚いし安全も保証できる」
「まあ! 素晴らしい提案だわ!」
「なんとそこまで娘のことを……!」

 茶番劇だ。
 ミデル公爵は譲歩したつもりなのかもしれないが、そんなことはない。一方的な押し付けで、私に最初から選択肢を残していないのだ。

(ミデル公爵的には配慮しているつもりなのかもしれないけれど、束縛が強そう? 普通、こういうのって相談してから手配するものじゃない?)

 結局、両親とミデル公爵の提案で、ミデル公爵の屋敷に隔離させられた。
 数人の家事妖精ブラウニーとミデル公爵だけが、用意された私の部屋に入れるらしい。私は屋敷の敷地内から出ることができない。王都の図書館も、本屋に行くことも許可が下りなかった。
 幽閉のようなものだ。幸いだったのは読んだことのない書庫があったことぐらいだろうか。

(モフモフ……)

 一人きりの別邸は閑散としていて、温度がない。
 調度品や内装も豪華で、食事や生活そのものに困ることはなかった。けれど、私が望んだ世界とは全く違う。
 窮屈で息が詰まりそうな毎日。
 あの可愛くてしょうがない黒い獣が、この場所から連れ去ってくれないだろうか。そう思うことが増えた。なんとも他力本願な妄想をしてしまう。

(あの子だけは、サティとしての私を見ていてくれた……)

 私を「エーティン」と呼ぶミデル公爵はとても紳士的で、贈り物も毎日届くし、愛を囁く声は甘い。
 なぜ私を「エーティン」と呼ぶのか尋ねても、「いずれ思い出すから」とだけ。そう言いながらも「エーティンはコレが好きだったね」とか「エーティンならきっとこう思うだろう」と誰だか知らない人の想い影を私に押しつけてくる。

 エーティン、そうミデル公爵が口にする名前。
 恐らくダンスをした時に流れ込んできた女性のことなのだろう。きっと彼は私を彼女の代わりに愛でているのであって、私への愛はない。

 その証拠に私が自分の話をしようとすると、上手く誤魔化されてしまう。どこまでも一方的で、最初からサティとして見てはくれないようだった。

「ミデル様、屋敷の中庭の一角ですが、畑を作っても?」
「エーティン、君にためならどんな花だろうとすぐに集めて素敵な花畑を作ってあげるよ」
「私が自分で作ったらダメなのですか?」
「ああ、もしかして春の権能を使いたいということなのかな? でも今の君の体では魔力の暴発あるいは、肉体に負荷がかかってしまうからやめておこうか」
「魔法を使わずに土いじりは──」
「エーティン。君は花畑でお茶をするのが好きだったよね? すぐに最高級のスイーツと紅茶を用意するよ。ドレスや宝石だって好きなだけねだってくれていいんだ」
(この人の中では、私という存在はアップデートされないのね)

 サティとわかり合おうつもりなんてないのだ。この人は私がエーティンとして覚醒するのを待っている。それが分かった瞬間、やっぱり悲しかった。
 つまりは生まれ変わり的なものだったとして、今の自分を全くもって見ていないし、興味もない、私の全てを否定することがこんなに辛いなんて思わなかった。愛ある言葉も贈り物も私ではない私に向けられたもの。

 ある意味、拷問のような毎日だった。
 私のしたいことを許容して、少しぐらいの自由をくれるになら政略結婚でも許容できた。

(でも……こんな鳥籠の生き方は、嫌だ)

 心が磨耗していくばかりだ。もしかしたらそれこそがミデル公爵の目的なのかもしれない。サティを消してエーティンを主人格にするため──。

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