自宅で寝ててもレベルアップ! ~転生商人が世界最強になってムカつく勇者をぶっ飛ばしたら世界の深淵に触れてしまった件~
6-16. 親孝行
「これからどうするの?」
ドロシーが聞いてくる。
「実は、両親に会ってこようかと思って……」
「え? それなら私も行くわ」
「ありがとう。でも、うーん、俺は死んだことになってるから、受け入れてくれるかどうか……」
うつむく俺を、ドロシーはジッと見つめ……、そして俺の手を取って明るく言った。
「行ってみましょ!」
俺は電話でアポを取る。懐かしい母親の声につい泣きそうになってしまった。
◇
ピンポーン!
懐かしい実家の玄関の呼び鈴を押す。
「ハーイ、どうぞ」
インターホンから母親の声がして、ガチャッとドアが開いた。
出てきたのは約二十年ぶりの懐かしい母親だった。すっかり老け込んで白髪も目立ち、痩せこけていた。俺は目頭が熱くなるのを押さえ、
「電話した者です。お忙しいところすみません」
そう言って頭を下げた。
俺たちは応接間へと通された。懐かしい家の匂いがする。
テーブルの向こうに母と父が並び、怪訝そうな顔でこちらを見る。
「で、豊の知り合いということですけど、どういったご要件ですか?」
父親が淡々と聞いてくる。
「パパ、ママ、俺だよ、豊だよ」
俺は穏やかな笑顔で言った。
「え? 豊?」「はぁ?」
唖然とする両親。
「信じられないと思うんだけど、一回死んで生まれ変わったんだ」
「え? 豊の生まれ変わり?」
ママが目を丸くして俺を見る。
「そこのガラスの絵皿、俺が富士山で描いたポケモンだろ、それから、あの写真は箱根に行った時に撮った奴だ。この写真の後、俺が転んで迷惑かけちゃった……、ゴメンね」
パパとママは顔を見合わせ、信じられないという顔をした。
「ほ、本当に豊なの?」
「最後に一緒に行った旅行はどこだ?」
パパが険しい目で俺を見て聞く。
「最後……。スペインかな? マドリードから寝台でバルセロナへ行って……サグラダファミリア見たかな? そうそう、サグラダファミリアの近くのコインランドリーで洗濯したよね」
「豊――――!!」
ママがいきなり飛びついてきた。
「おーぅおぅおぅ……」
号泣するママ。
俺もつられて涙がポロポロとこぼれてきた。
「親不孝でごめん。言うこと聞かなくてコロッと死んじゃって……。本当に反省しているんだ」
「ホント、バカだよ、この子は!」
しばらく二人は抱き合っていた。
「で、今はどういう暮らしをしているんだ? こちらの女性は?」
パパが聞いてくる。
「あ、今はとある会社にお世話になってるんだ。そして、彼女は妻なんだ」
ドロシーはぎこちなくお辞儀をする。
「えっ? お前、結婚したのか? こんな可愛い子と?」
照れるドロシー。
「そうなんだ。それから……。もう、孫も……、生まれる予定だよ」
「えっ!? 孫!?」
唖然とする二人。
「女の子だって。生まれたら連れてくるね」
「うわぁぁ……。もう、全て諦めてたのよぉ……」
ママはまた号泣した。
若くして死んでしまったバカ息子が、いきなり嫁と孫を連れてひょっこりと現れたのだ。それは感無量だろう。俺も泣けてきてしまう。
その後、パパは物置から写真アルバムを出してきて、俺の赤ちゃん時代の写真を広げた。
「え? これがあなた?」
プクプクとしたかわいい赤ちゃんが、まだ若いママに抱かれているのを見て驚くドロシー。
「なんだか恥ずかしいなぁ……」
「もうこの子はヤンチャで困ったのよ~」
ママは当時を思い出しながら感慨深く言う。
「今もヤンチャです!」
ドロシーはママに言った。
「あらやだ! もうパパになるんでしょ、しっかりして!」
ママはうれしそうに俺に言う。目には涙が光っていた。
最後に俺はお土産のブランドバッグと腕時計を渡し、家を後にする。黒塗りの外車が玄関まで迎えに来ているのを見て、パパもママも目を白黒とさせていた。次の機会にはしっかりと親孝行しよう。
6-17. いきなりの初仕事
ホテルへの帰り道、首都高を走っている時にドロシーが窓の外を指さして言った。
「え!? あ、あなた、あれ見て!」
「え? どれどれ……。えっ!?」
俺は心臓が止まりそうになった。
なんとそこには、あの九州サイズの巨大蜘蛛の姿があったのだ。ビルの合間から見える巨体……、この方角と距離なら房総沖の太平洋辺りにいるのではないだろうか? あんなものが上陸したら日本はメチャクチャになってしまう。
急いでiPhoneで調べてみるとネットは大騒ぎになっていた。どうも、東京目指して移動しているらしく、極めてヤバい状態になっている。
ピロポロパロン! ピロポロパロン!
iPhoneがけたたましく鳴った。
画面には『ヴィーナ♡』と、出ている。
俺は急いでタップして電話に出た。
「はい! モシモシ!」
『あー、お休みのところ悪いんだけど、ちょっと鎮圧に行ってくんない?』
「えー!? そんなの無理ですよ! シアンさんかヴィーナ様お願いしますよ」
『シアンはとっくに別の星に緊急出動してったわ。私も別件あるから手が足りないのよ』
「でも、研修受けたばっかですよ俺!?」
『つべこべ言うならカードで使った金、全額返してもらうわよ!』
何という脅し。それを言われてしまうと逆らえない。
「わ、分りましたよ……」
『大丈夫、誠が『活躍が見たい』って言ってたんでしょ? あなたは必ず活躍するって決まってるから安心して』
「え!? 何ですかそれ!?」
『これがこの宇宙の法則なの。いいから行ってらっしゃい。日本でもイマジナリー使えるようにしておいたから伸び伸びとやって』
「伸び伸びと言われても……」
『死んでもまた生き返らせてあげるから気楽に行ってらっしゃい! それではグッドラック!』
「あっ! ちょっと待……」
電話は切れてしまった。
そもそも俺はレヴィアの星の管理者って話だったのではないだろうか? なぜ、日本の蜘蛛の鎮圧に駆り出されるのか? それも一人で……。きわめて納得いかない。いかないが今さら金も返せない……。
俺は覚悟を決めた。
「運転手さん!」
「はい、何でしょう?」
「ちょっと、緊急事態なんで、車飛ばします」
「え?」
困惑する運転手を尻目に俺はイマジナリーで車を捕捉すると宙に浮かせ、そのまま空へと飛ばした。
いきなり眼下に広がる大都会、東京。そして、その向こうに異様な巨体をさらす蜘蛛……。
「ええっ!? 何ですかこれ!?」
驚く運転手。
「ほら見てください、巨大蜘蛛がいますよね」
空から見ると蜘蛛の巨大さは際立って異常だった。雲を突き抜けはるか彼方宇宙まで到達する九州サイズの蜘蛛。それは現実感の湧かない、まるでSFの世界だった。
「く、蜘蛛……」
唖然とする運転手。
「危ないので、一旦富士山に避難します」
俺はイマジナリーで富士山を把握し、その五合目の駐車場に意識を集中し、車をそこまでワープさせた。
「おわぁぁ!」
いきなり転送されて焦る運転手。
「では、私はちょっとあれ倒してくるんで、少し待っててください」
「え!? あんなの倒せるんですか?」
ビビる運転手。
「だって私はブラックカード保持者ですよ」
そう言ってニヤッと笑った。
そして、ドロシーに声をかけた。
「じゃ、ちょっくら初仕事行ってくるね」
「あなた……。気を付けてね……」
すごく心配そうなドロシーに軽くキスをして車を降り、うーんと伸びをした。
さて、研修の成果は通用するだろうか?
俺はまず見晴らしのいい所にピョーンと飛んだ。
はるか東、房総半島の向こう側にうごめく九州サイズの巨大蜘蛛。その体は霞の向こうにはるか宇宙にまで達し、太さ何キロもある巨大な足が雲を突き抜け、何本も屹立して見える。このままSF小説の表紙になりそうな圧倒的迫力のビジュアルに俺はちょっとたじろぐ。なぜ、退治したはずのうちの世界の蜘蛛が日本に出現したのか、全く見当もつかない。しかし、俺が日本のみんなを、世界を護るのだ。今、護れるのは俺しかいないのだから。
俺は大きく深呼吸を繰り返し、心を落ち着ける。
そして、指で輪を作り、指の輪越しに蜘蛛を見た。この輪を臨時の情報ウィンドウとし、蜘蛛を拡大し、各種ステータスを表示させる。
「ふむふむ……。ヌチ・ギめ、巧妙な事しやがって……、相当手が込んでやがる……」
俺はつぶやきながら蜘蛛の構成データへアクセスを試みる。
バチッ!
次の瞬間脳が揺れた、攻勢防御だ。
俺は思わず尻もちをつき、大きく息をついて首を振った。危なかった、意識が飛ぶ所だった。
でも、俺はこのアクセスで蜘蛛のセキュリティの脆弱性を見つけたのだった。ゲームばかりやってコンピューターシステムの穴を探す事ばかりしてきた経験が、こんな所に生きるとは。
「では、蜘蛛退治にシュッパーツ!」
俺はそう叫ぶと蜘蛛に向けて飛び立った。激しい衝撃波を立てながら超音速で神奈川県上空を突っ切っていく。
『地球を救え』と命令されて飛び立つ俺、それは子供の頃に見たアニメ番組そのものだった。子供だましの荒唐無稽な話だと思っていたが、今まさに俺がそれをやっている。
暗い部屋でゲームばかりやって命を落とした俺。それが可愛い嫁さんをめとり、女の子を授かり、今、ゲームで磨いたスキルで巨大な敵に立ち向かっていく。
人生って面白いものだな……。
房総半島を過ぎ、いよいよ巨大な蜘蛛が目の前だ。
「防御無効!」
俺はそう叫ぶとイマジナリーを蜘蛛全体に走らせる。
激しい閃光が太平洋を覆った……。
6-18. 限りなくにぎやかな未来
こうして俺は、管理者としての第一歩を無事踏み出すことができた。
もちろんまだまだ分からないことも不安も多いが、素晴らしい仲間たちがいるからきっと何とかなるだろう。
富士山に戻ってくると、運転手が呆然として立っていた。
「おまたせ」
俺がにこやかに声をかけると、
「お客様、すごいですね……」
と、唖然とした様子で言う。
「こういう仕事なんですよ。あ、このことは内密にね」
「も、もちろんです。矜持にかけても口外は致しません」
そう言って、うやうやしく頭を下げた。
俺は車と運転手を東京に戻し、折角なのでドロシーと手をつないで一緒に富士山見物に飛んだ。
堂々とした円錐形で立ち上がる美しい山に夕陽が射し、オレンジ色に輝きだしている。残雪が残る荒々しい山肌には美しい陰影が浮かび、その威容を際立たせていた。
「うわぁ……、綺麗な山ねぇ……」
ドロシーは感嘆の声を漏らす。
俺は徐々に高度を上げながら富士山を一周した。
「ちょっと寒いかな?」
そう言って周りにシールドを張り、ドロシーをそっと引き寄せた。
「ありがとう……、パパ……。初仕事お疲れ様」
ドロシーがにこやかに言う。
「パ、パパ!? そ、そうだ、もうパパか……。がんばるよ、ママ」
「ふふっ、ママ……、そう、もうママなのよね、私」
そう言ってドロシーはお腹を優しくなでた。
「あ、そうだ、娘ちゃんの声、聞いてみようか?」
「え? もう聞けるの?」
「ちょっと待ってね」
俺は深呼吸をすると、意識の奥底深く潜った……。
見えてくるマインドカーネル。そして、ドロシーのおなかの中の受精卵に意識を集中した。
誘われるがままにマインドカーネル内を移動していくと、あった! そこには若草色に輝く点が緩やかに明滅していた。もう魂は根付いているのだ。俺はそこに意識を集中してみる。
『パ……、パパ……』
すごい! 断片的な意識の波動が伝わってくる。もう娘はいるのだ!
俺は娘の存在を温かく抱きしめ、湧き上がってくる例えようのない愛おしさにしばらく動けなくなった。
しっかりと育て上げよう……。俺は静かにそう誓った。
続いて俺はドロシーの光点と娘の光点をそっとつなげてみる。
『マ……、ママ……』
響く思念波。
「えっ!?」
驚くドロシー。どうやら言葉は伝わったようだ。
俺は意識を身体に戻して言った。
「どう? 聞こえた?」
ドロシーは涙をポロリとこぼしながらお腹を優しくさすり、ゆっくりとうなずいた。
俺はそっとドロシーを抱きしめ、新たに家族としてやってきた娘の無事な誕生を祈った。
いよいよ始まった、世界を良くするスペシャルな仕事。新しく増える家族。ドキドキとワクワクが混ざり合った気持ちを抱え、俺たちは富士山に沈んでいく真っ赤な夕陽を見ていた。
◇
「そろそろ、行こうか?」
「うん、これからどうするの?」
「うーん、まずはご飯かな? 何食べたい?」
「あなたが食べたい物でいいわ」
「じゃぁ、肉かな?」
「え? 肉?」
「和牛の鉄板焼き。甘くてとろける最高のお肉さ」
「えー? 何それ?」
「日本のお肉は最高なんだよ」
「ふぅん……、楽しみになってきたわ」
夕焼けに照らされ、ニッコリと笑うドロシー。
「じゃぁ行くよ、しっかりつかまっててね」
俺たちは東京へ向けて飛ぶ。
夕陽が見渡す限り赤く染め上げる中、俺たちは手をつないで飛んだ。
横を見るとドロシーが幸せそうに俺を見つめている。
俺も湧き上がってくる幸せに自然と頬がゆるむ。
俺はそっとドロシーを引き寄せて、軽くキスをした。
きっとにぎやかな未来が僕らを待っている。
街には明かりが灯り始めた。
了
ドロシーが聞いてくる。
「実は、両親に会ってこようかと思って……」
「え? それなら私も行くわ」
「ありがとう。でも、うーん、俺は死んだことになってるから、受け入れてくれるかどうか……」
うつむく俺を、ドロシーはジッと見つめ……、そして俺の手を取って明るく言った。
「行ってみましょ!」
俺は電話でアポを取る。懐かしい母親の声につい泣きそうになってしまった。
◇
ピンポーン!
懐かしい実家の玄関の呼び鈴を押す。
「ハーイ、どうぞ」
インターホンから母親の声がして、ガチャッとドアが開いた。
出てきたのは約二十年ぶりの懐かしい母親だった。すっかり老け込んで白髪も目立ち、痩せこけていた。俺は目頭が熱くなるのを押さえ、
「電話した者です。お忙しいところすみません」
そう言って頭を下げた。
俺たちは応接間へと通された。懐かしい家の匂いがする。
テーブルの向こうに母と父が並び、怪訝そうな顔でこちらを見る。
「で、豊の知り合いということですけど、どういったご要件ですか?」
父親が淡々と聞いてくる。
「パパ、ママ、俺だよ、豊だよ」
俺は穏やかな笑顔で言った。
「え? 豊?」「はぁ?」
唖然とする両親。
「信じられないと思うんだけど、一回死んで生まれ変わったんだ」
「え? 豊の生まれ変わり?」
ママが目を丸くして俺を見る。
「そこのガラスの絵皿、俺が富士山で描いたポケモンだろ、それから、あの写真は箱根に行った時に撮った奴だ。この写真の後、俺が転んで迷惑かけちゃった……、ゴメンね」
パパとママは顔を見合わせ、信じられないという顔をした。
「ほ、本当に豊なの?」
「最後に一緒に行った旅行はどこだ?」
パパが険しい目で俺を見て聞く。
「最後……。スペインかな? マドリードから寝台でバルセロナへ行って……サグラダファミリア見たかな? そうそう、サグラダファミリアの近くのコインランドリーで洗濯したよね」
「豊――――!!」
ママがいきなり飛びついてきた。
「おーぅおぅおぅ……」
号泣するママ。
俺もつられて涙がポロポロとこぼれてきた。
「親不孝でごめん。言うこと聞かなくてコロッと死んじゃって……。本当に反省しているんだ」
「ホント、バカだよ、この子は!」
しばらく二人は抱き合っていた。
「で、今はどういう暮らしをしているんだ? こちらの女性は?」
パパが聞いてくる。
「あ、今はとある会社にお世話になってるんだ。そして、彼女は妻なんだ」
ドロシーはぎこちなくお辞儀をする。
「えっ? お前、結婚したのか? こんな可愛い子と?」
照れるドロシー。
「そうなんだ。それから……。もう、孫も……、生まれる予定だよ」
「えっ!? 孫!?」
唖然とする二人。
「女の子だって。生まれたら連れてくるね」
「うわぁぁ……。もう、全て諦めてたのよぉ……」
ママはまた号泣した。
若くして死んでしまったバカ息子が、いきなり嫁と孫を連れてひょっこりと現れたのだ。それは感無量だろう。俺も泣けてきてしまう。
その後、パパは物置から写真アルバムを出してきて、俺の赤ちゃん時代の写真を広げた。
「え? これがあなた?」
プクプクとしたかわいい赤ちゃんが、まだ若いママに抱かれているのを見て驚くドロシー。
「なんだか恥ずかしいなぁ……」
「もうこの子はヤンチャで困ったのよ~」
ママは当時を思い出しながら感慨深く言う。
「今もヤンチャです!」
ドロシーはママに言った。
「あらやだ! もうパパになるんでしょ、しっかりして!」
ママはうれしそうに俺に言う。目には涙が光っていた。
最後に俺はお土産のブランドバッグと腕時計を渡し、家を後にする。黒塗りの外車が玄関まで迎えに来ているのを見て、パパもママも目を白黒とさせていた。次の機会にはしっかりと親孝行しよう。
6-17. いきなりの初仕事
ホテルへの帰り道、首都高を走っている時にドロシーが窓の外を指さして言った。
「え!? あ、あなた、あれ見て!」
「え? どれどれ……。えっ!?」
俺は心臓が止まりそうになった。
なんとそこには、あの九州サイズの巨大蜘蛛の姿があったのだ。ビルの合間から見える巨体……、この方角と距離なら房総沖の太平洋辺りにいるのではないだろうか? あんなものが上陸したら日本はメチャクチャになってしまう。
急いでiPhoneで調べてみるとネットは大騒ぎになっていた。どうも、東京目指して移動しているらしく、極めてヤバい状態になっている。
ピロポロパロン! ピロポロパロン!
iPhoneがけたたましく鳴った。
画面には『ヴィーナ♡』と、出ている。
俺は急いでタップして電話に出た。
「はい! モシモシ!」
『あー、お休みのところ悪いんだけど、ちょっと鎮圧に行ってくんない?』
「えー!? そんなの無理ですよ! シアンさんかヴィーナ様お願いしますよ」
『シアンはとっくに別の星に緊急出動してったわ。私も別件あるから手が足りないのよ』
「でも、研修受けたばっかですよ俺!?」
『つべこべ言うならカードで使った金、全額返してもらうわよ!』
何という脅し。それを言われてしまうと逆らえない。
「わ、分りましたよ……」
『大丈夫、誠が『活躍が見たい』って言ってたんでしょ? あなたは必ず活躍するって決まってるから安心して』
「え!? 何ですかそれ!?」
『これがこの宇宙の法則なの。いいから行ってらっしゃい。日本でもイマジナリー使えるようにしておいたから伸び伸びとやって』
「伸び伸びと言われても……」
『死んでもまた生き返らせてあげるから気楽に行ってらっしゃい! それではグッドラック!』
「あっ! ちょっと待……」
電話は切れてしまった。
そもそも俺はレヴィアの星の管理者って話だったのではないだろうか? なぜ、日本の蜘蛛の鎮圧に駆り出されるのか? それも一人で……。きわめて納得いかない。いかないが今さら金も返せない……。
俺は覚悟を決めた。
「運転手さん!」
「はい、何でしょう?」
「ちょっと、緊急事態なんで、車飛ばします」
「え?」
困惑する運転手を尻目に俺はイマジナリーで車を捕捉すると宙に浮かせ、そのまま空へと飛ばした。
いきなり眼下に広がる大都会、東京。そして、その向こうに異様な巨体をさらす蜘蛛……。
「ええっ!? 何ですかこれ!?」
驚く運転手。
「ほら見てください、巨大蜘蛛がいますよね」
空から見ると蜘蛛の巨大さは際立って異常だった。雲を突き抜けはるか彼方宇宙まで到達する九州サイズの蜘蛛。それは現実感の湧かない、まるでSFの世界だった。
「く、蜘蛛……」
唖然とする運転手。
「危ないので、一旦富士山に避難します」
俺はイマジナリーで富士山を把握し、その五合目の駐車場に意識を集中し、車をそこまでワープさせた。
「おわぁぁ!」
いきなり転送されて焦る運転手。
「では、私はちょっとあれ倒してくるんで、少し待っててください」
「え!? あんなの倒せるんですか?」
ビビる運転手。
「だって私はブラックカード保持者ですよ」
そう言ってニヤッと笑った。
そして、ドロシーに声をかけた。
「じゃ、ちょっくら初仕事行ってくるね」
「あなた……。気を付けてね……」
すごく心配そうなドロシーに軽くキスをして車を降り、うーんと伸びをした。
さて、研修の成果は通用するだろうか?
俺はまず見晴らしのいい所にピョーンと飛んだ。
はるか東、房総半島の向こう側にうごめく九州サイズの巨大蜘蛛。その体は霞の向こうにはるか宇宙にまで達し、太さ何キロもある巨大な足が雲を突き抜け、何本も屹立して見える。このままSF小説の表紙になりそうな圧倒的迫力のビジュアルに俺はちょっとたじろぐ。なぜ、退治したはずのうちの世界の蜘蛛が日本に出現したのか、全く見当もつかない。しかし、俺が日本のみんなを、世界を護るのだ。今、護れるのは俺しかいないのだから。
俺は大きく深呼吸を繰り返し、心を落ち着ける。
そして、指で輪を作り、指の輪越しに蜘蛛を見た。この輪を臨時の情報ウィンドウとし、蜘蛛を拡大し、各種ステータスを表示させる。
「ふむふむ……。ヌチ・ギめ、巧妙な事しやがって……、相当手が込んでやがる……」
俺はつぶやきながら蜘蛛の構成データへアクセスを試みる。
バチッ!
次の瞬間脳が揺れた、攻勢防御だ。
俺は思わず尻もちをつき、大きく息をついて首を振った。危なかった、意識が飛ぶ所だった。
でも、俺はこのアクセスで蜘蛛のセキュリティの脆弱性を見つけたのだった。ゲームばかりやってコンピューターシステムの穴を探す事ばかりしてきた経験が、こんな所に生きるとは。
「では、蜘蛛退治にシュッパーツ!」
俺はそう叫ぶと蜘蛛に向けて飛び立った。激しい衝撃波を立てながら超音速で神奈川県上空を突っ切っていく。
『地球を救え』と命令されて飛び立つ俺、それは子供の頃に見たアニメ番組そのものだった。子供だましの荒唐無稽な話だと思っていたが、今まさに俺がそれをやっている。
暗い部屋でゲームばかりやって命を落とした俺。それが可愛い嫁さんをめとり、女の子を授かり、今、ゲームで磨いたスキルで巨大な敵に立ち向かっていく。
人生って面白いものだな……。
房総半島を過ぎ、いよいよ巨大な蜘蛛が目の前だ。
「防御無効!」
俺はそう叫ぶとイマジナリーを蜘蛛全体に走らせる。
激しい閃光が太平洋を覆った……。
6-18. 限りなくにぎやかな未来
こうして俺は、管理者としての第一歩を無事踏み出すことができた。
もちろんまだまだ分からないことも不安も多いが、素晴らしい仲間たちがいるからきっと何とかなるだろう。
富士山に戻ってくると、運転手が呆然として立っていた。
「おまたせ」
俺がにこやかに声をかけると、
「お客様、すごいですね……」
と、唖然とした様子で言う。
「こういう仕事なんですよ。あ、このことは内密にね」
「も、もちろんです。矜持にかけても口外は致しません」
そう言って、うやうやしく頭を下げた。
俺は車と運転手を東京に戻し、折角なのでドロシーと手をつないで一緒に富士山見物に飛んだ。
堂々とした円錐形で立ち上がる美しい山に夕陽が射し、オレンジ色に輝きだしている。残雪が残る荒々しい山肌には美しい陰影が浮かび、その威容を際立たせていた。
「うわぁ……、綺麗な山ねぇ……」
ドロシーは感嘆の声を漏らす。
俺は徐々に高度を上げながら富士山を一周した。
「ちょっと寒いかな?」
そう言って周りにシールドを張り、ドロシーをそっと引き寄せた。
「ありがとう……、パパ……。初仕事お疲れ様」
ドロシーがにこやかに言う。
「パ、パパ!? そ、そうだ、もうパパか……。がんばるよ、ママ」
「ふふっ、ママ……、そう、もうママなのよね、私」
そう言ってドロシーはお腹を優しくなでた。
「あ、そうだ、娘ちゃんの声、聞いてみようか?」
「え? もう聞けるの?」
「ちょっと待ってね」
俺は深呼吸をすると、意識の奥底深く潜った……。
見えてくるマインドカーネル。そして、ドロシーのおなかの中の受精卵に意識を集中した。
誘われるがままにマインドカーネル内を移動していくと、あった! そこには若草色に輝く点が緩やかに明滅していた。もう魂は根付いているのだ。俺はそこに意識を集中してみる。
『パ……、パパ……』
すごい! 断片的な意識の波動が伝わってくる。もう娘はいるのだ!
俺は娘の存在を温かく抱きしめ、湧き上がってくる例えようのない愛おしさにしばらく動けなくなった。
しっかりと育て上げよう……。俺は静かにそう誓った。
続いて俺はドロシーの光点と娘の光点をそっとつなげてみる。
『マ……、ママ……』
響く思念波。
「えっ!?」
驚くドロシー。どうやら言葉は伝わったようだ。
俺は意識を身体に戻して言った。
「どう? 聞こえた?」
ドロシーは涙をポロリとこぼしながらお腹を優しくさすり、ゆっくりとうなずいた。
俺はそっとドロシーを抱きしめ、新たに家族としてやってきた娘の無事な誕生を祈った。
いよいよ始まった、世界を良くするスペシャルな仕事。新しく増える家族。ドキドキとワクワクが混ざり合った気持ちを抱え、俺たちは富士山に沈んでいく真っ赤な夕陽を見ていた。
◇
「そろそろ、行こうか?」
「うん、これからどうするの?」
「うーん、まずはご飯かな? 何食べたい?」
「あなたが食べたい物でいいわ」
「じゃぁ、肉かな?」
「え? 肉?」
「和牛の鉄板焼き。甘くてとろける最高のお肉さ」
「えー? 何それ?」
「日本のお肉は最高なんだよ」
「ふぅん……、楽しみになってきたわ」
夕焼けに照らされ、ニッコリと笑うドロシー。
「じゃぁ行くよ、しっかりつかまっててね」
俺たちは東京へ向けて飛ぶ。
夕陽が見渡す限り赤く染め上げる中、俺たちは手をつないで飛んだ。
横を見るとドロシーが幸せそうに俺を見つめている。
俺も湧き上がってくる幸せに自然と頬がゆるむ。
俺はそっとドロシーを引き寄せて、軽くキスをした。
きっとにぎやかな未来が僕らを待っている。
街には明かりが灯り始めた。
了
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