自宅で寝ててもレベルアップ! ~転生商人が世界最強になってムカつく勇者をぶっ飛ばしたら世界の深淵に触れてしまった件~
5-6. 正すべき歪み
キィィィ――――ン!
甲高い音が響き、ゆっくりとエンジンに火が入る。
『S-4237F、直ちに停船しなさい。繰り返す。直ちに停船しなさい』
スピーカーも復活し、スカイパトロールからの警告が響く。
「しつこいのう……」
レヴィアは画面を操作して救難信号を発した。
『システムトラブル発生。救難を申請します。システムトラブル発生。救難を申請します』
スピーカーから無機質な声が流れる。
「まずは遭難を装うのが基本じゃな。そしてこうじゃ!」
レヴィアは舵を操作して、海王星に真っ逆さまに落ちて行くルートをとった。
通常、大気圏突入時には浅い角度で徐々に速度を落としながら降りていく。急角度で突入した場合、燃え尽きてしまうからだ。しかし、レヴィアの選んだルートは燃え尽きるルート、まさに自殺行為だった。
俺は焦って、
「レヴィア様、それ、危険じゃないですか?」
と、聞いた。
「スカイパトロールから逃げきるにはこのルートしかない。奴らは追ってこれまい」
「そりゃ、こんな自殺行為、追ってこられませんが……、この船持つんですか?」
「持つ訳なかろう。壊れる前に減速はせねばならん」
俺は思わず天を仰いだ。次から次へと起こる命がけの綱渡りに頭が痛くなる。
操縦パネルの隣には立体レーダーがあり、スカイパトロールの位置が表示されている。俺は横からそれをじっと見つめた……。彼らも燃え尽きルートを追いかけてきているようだ。
「追いかけてきますよ」
「しつこい奴らじゃ……」
ヴィーン! ヴィーン!
いきなり警報が鳴った。
『設計温度の上限を超えています。直ちに回避してください。設計温度の上限を超えています。直ちに回避してください』
「うるさいのう……。そんなの分かっとるんじゃ!」
シャトルの前方全体が赤く光りだした。ものすごい速度で空気にぶつかっているので、断熱圧縮でどんどん温度が上がってしまっている。まさに流星状態である。
シャトルが燃え上がるのが先か、スカイパトロールが諦めるのが先か……。
俺はただ、祈ることしかできなかった。
船内にはゴォォォーという恐ろしい轟音が響き、焦げ臭いにおいが漂い始める。
「奴らもヤバいはずなんじゃが……」
レヴィアは眉間にしわを寄せながら立体レーダーをにらむ。
ボン!
シャトルの右翼の先端が爆発し、シャトルが大きく揺れた。操縦パネルに大きく赤く『WARNING』の表示が点滅する。
「レヴィア様、ここは減速しましょう!」
俺は真っ青になって言う。死んでしまったら元も子もないのだ。しかし、レヴィアは、
「黙っとれ! ここが勝負どころじゃ!」
と、叫び、パネルの温度表示をにらむ。
どんどん上がっていく温度……。
俺は冷や汗が噴き出してきて止まらない。一度死んで生まれ変わったこの人生。今死んだらどうなるのだろうか? また美奈先輩の所へ行けるのだろうか? 行けたとしてまた生まれ変わらせてくれるのだろうか? 確か『一回だけ』と、言われていたような……。
いや、これは俺だけの問題じゃない。ドロシーもアンジューのみんなの問題でもあるのだ。こんなところで死ぬわけにはいかない。
俺は必死に祈った。それこそ、全力で祈った。
その時だった。
「ヨシッ!」
レヴィアはエンジンに最大の逆噴射をかける。激しいGがかかり、シートベルトが俺の身体に食い込む。
見ると、レーダー上でスカイパトロールが進路を変更していく。
次の瞬間、ボシュッと音がして目の前が真っ白になった。どうやら高層雲に突っ込んだようだ。
しかし温度はなかなか下がらない。
ボン!
今度は左翼の先端が爆発し、シャトルはきりもみ状態に陥った。
グルグルと回る視界の中、俺は叫ぶ。
「レヴィア様ぁ!」
「うるさい、黙っとれ!」
グルグルと回転する中、シャトルの制御を取り戻すべくレヴィアは必死に舵を操作する。
真っ白な雲の中、グルグル回りながら俺は孤児院での暮らしを思い出していた。走馬灯という奴かもしれない。薬草を集め、ドロシーと一緒に剣を研いでいたあの頃……。楽しかったなぁ……。まさか海王星でこんな目に遭うなんて想像もできなかった。
俺の人生は正解だったのか?
グルグル回る視野の中、俺は悩む。
チートで好き放題したことも、ドロシーと結婚したことも、奪還しに行ったことも正しかったのだろうか……?
自分が選び取った未来ではあったが、多くの人に迷惑をかけてしまったかもしれない。俺が余計なことをしたから、こんなことになってしまっているのかも……。どうしよう……。
俺が頭を抱えていると徐々に回転が収まってきた。
「ヨッシャー!」
レヴィアが叫ぶ。
やがて回転は止まり、見れば、温度も速度も徐々に落ちている。
そして、ボシュッと音がして俺たちは雲を抜けた。
いきなり目の前に碧い水平線が広がる。
「おぉ……」
俺はどこまでも広がる広大な海王星の世界に圧倒された。
もう邪魔する者はいない。俺はレヴィアの奮闘に心から感謝をした。
よく考えたらこの事態は俺のせいだけではない。世界に溜まっていた歪みが俺という存在を切っ掛けに一気に顕在化しただけなのだ。
悩む事など無い。ここまで来たらこの綻んでしまった世界を正す以外ない。俺の選択が正しかったかどうかは次の一手で決まる。ヌチ・ギを倒すためにはるばる来た海王星。何が何でも正解をつかみ取ってやるのだ。
俺はどこまでも澄んだ碧の美しさに見ほれながら、こぶしをギュッと握った。
5-7. 頑張らなくっちゃ!
宮崎の火山の火口脇の洞窟で、ドロシーは一人寂しく二人の帰りを待っていた。神殿は静まり返り、繊細な彫刻が施された薄暗い壁を、画面の青い光りがほのかに照らしている。
二人はこの世界を作っているコンピューターとやらを壊しに、海王星なるところへ行くと言っていた。そこでヌチ・ギを倒すと……。でも……、身体はポッドの中にある。いったい彼らはどうやって海王星へ行って、そこで何をやっているのだろうか……。
空間を切り裂いたり不可思議な力を行使するドラゴン。そして、そのドラゴンの言う意味不明な事をよく理解しているユータ。二人ともなんだか別世界の住人の様にすら思える。
「帰ってきたら全部教えてもらうんだから……」
ドロシーはテーブルに頬杖をつき、ちょっとふくれた。
ピチョン……、ピチョン……
どこか遠くでかすかに水滴の落ちる音がする。
洞窟に作られた秘密の神殿。前に一度だけリリアン王女と一緒に連れてこられた思い出の神殿だ。こんな形で再訪するとは夢にも思わなかった。
ドロシーはテーブルに突っ伏し、今日あった事を思い出す。自分が攫われ、ユータ、アバドン、レヴィアに助けてもらうも戦乙女との戦闘となり、劣勢。ヌチ・ギは世界を火の海にすると言う……。
何だか夢の中の話のようだが、現実なのだ。今、ここがこの世界の人々の命運を決める前線基地であり、唯一対抗できる二人の身体を守りきることがカギとなっている。そしてそれを託されたのが自分……。
まさか孤児上がりの18歳の自分が、世界の命運を握るような大役を担うなんて全く想像もしていなかった。自分は食べていければいい、愛する人と一緒に暮らせればいいとしか思ってこなかった。
しかし、世界はそんな傍観者的位置を許さず、自分を最前線の大役に置いた。それはユータとの結婚を望んだ結果であり、ある程度覚悟はしていたものの……、想定をはるかに上回る重責だった。
「ふぅ……、ビックリしちゃうわよね……」
ドロシーはボソっとつぶやく。
しかし、守れと言われてもヌチ・ギらの異常な攻撃力、不思議な技は非力な自分ではどうしようもない。もちろんこの神殿にはいろんな防護機構がついているのだろうが、いつまでも耐えられるとは思えない。
レヴィアにもらったのは噴火ボタンだけ。しかし、こんなボタン本当に使えるのだろうか? 火の海になるって言っても、彼らがそれで躊躇するとも思えない。噴火を直撃させたら効きそうではあるけれども、彼らが火口に来て、かつ異変を感じても動かない、そんな都合のいい状況なんてどうやって作るのか?
ドロシーはむくりと起き上がるとパシパシと両手で頬を打った。
「私しかいないんだから頑張らなくっちゃ!」
そして腕組みをして銀髪を揺らし一生懸命考える。世界のため、そして愛するユータのため……。
その時だった、
ズン! ズガーン!
「キャ――――!」
激しく地面が揺れ、ドロシーは悲鳴を上げながら椅子から転げ落ちないように必死に踏ん張る。
「ドラゴーン! 出てこい! そこにいるのは分かってんだ!」
火口の外輪山の頂の上で誰かが叫んでいる。
画面の映像が自動的に拡大されていく……、ヌチ・ギだ。後ろには五人の戦乙女を従えている。
やはり来てしまった。
いよいよ、この世界を護れるかどうかの重大局面がやってきたのだ。
ドロシーは頭を抱え、震えた。
「どうしよう……」
しかし、自分しかいないのだ。自分がなんとかしないとならない。
「おい! 無視するなら火山ごと吹き飛ばすぞ! ロリババア!」
ヌチ・ギの無情な罵声が響き渡る。
ドロシーは大きく息をつくと覚悟を決めた。
5-8. わかりますか? 絶対です
「あら、ヌチ・ギさん。美女さんをたくさん引き連れてどうしたんですか?」
火口の上にドロシーの上半身がホログラムで表示され、声が響いた。
「おい、娘! お前に用なんかないんだ! さっさとドラゴンを出せ!」
「ん――――、ドラゴン……ですか? どちら様ですかねぇ?」
ドロシーは冷静を装い、必死に時間稼ぎをする。
「何をとぼけてるんだ! レヴィアだ! レヴィアを出せ!」
「ん――――、レヴィア様……ですね。少々お待ちください……」
ドロシーは席を外し、ポッドの所へ行った。
そして、寝ているユータの寝顔をそっと見て……、震えながら目をつぶり、大きく息をついた。
「私、がんばる……ね」
そう、つぶやき、両手のこぶしを握り、二回振った。
ドロシーは席に戻り、言った。
「えーとですね……。レヴィア様は今、お忙しい……という事なんですが……」
「何が忙しいだ! ならこのままぶち壊すぞ!」
絶体絶命である。ドロシーは胃のキューっとした痛みに耐え、大きく息をついて言った。
「ヌチ・ギさんは戦乙女さん作ったり、すごい賢い方ですよね?」
「いきなり何だ?」
「私、とーってもすごいって思うんです」
「ふん! 褒めても何も出んぞ!」
「でも、私、とても不思議なんです」
「……、何が言いたい?」
怪訝そうな表情のヌチ・ギ。
「ヌチ・ギさんはこの世界を火の海にするって言ってましたね」
「それがどうした?」
「それ、すごい頭悪い人のやり方なんですよね」
「……」
「だって賢かったら人一人殺さず、この世界を活性化できるはずですから」
「知った風な口を利くな!」
「つまり……。活性化というのは口実に過ぎないんです。単に戦乙女さんたちで人殺しを楽しみたいんです」
「……」
ヌチ・ギはムッとして黙り込む。
「私、あなたに捕まって戦乙女さんたちのように操られそうになったから良く分かるんです。戦乙女さんは皆、心では泣いてますよ」
「だったら何だ! お前が止められるのか? ただの小娘が!」
真っ赤になって吠えるヌチ・ギ。
「戦乙女さん達、辛いですよね。人殺しの道具にされるなんて心が張り裂けそうですよね……。うっ……うっ……」
ドロシーは耐えられず、泣き出してしまった。
「何言ってるんだ! 止めろ!」
そして、ドロシーは鼻をすすりながら、決意のこもった声で言った。
「戦乙女の皆さん、聞いてください。私、これから、この基地の秘密を皆さんに教えちゃいます! ヌチ・ギさんに火口に入られてしまうと、この基地、すごくヤバいんです。ヌチ・ギさんは絶対に火口に入れるなとレヴィア様に厳命されているんです。絶対です。わかりますか? 絶対です!」
「は? 何を言っている!?」
何を言い出したのかヌチ・ギは理解できなかった。
戦乙女たちはお互いの顔を見合わせる。
そして、褐色の肌の戦乙女が素早くヌチ・ギを羽交い締めにして言った。
「レヴィアを殲滅せよとの命令を果たします」
「お、おい、何するんだ!? 止めろ!」
「命令を果たします」「命令を果たします」
他の戦乙女たちも口々にそう言うとヌチ・ギの両手、両足をそれぞれ押さえ、一気に火口に向かって飛んだ。
「放せ――――!」
ヌチ・ギの絶叫が響く中、ドロシーは泣きながら赤いボタンを押した。
「ごめん……なさい……」
テーブルに突っ伏すドロシー。
激しい地響きの後、火山は轟音を放ちながら激しく爆発を起こした。吹き上がる赤いマグマは天を焦がし、ヌチ・ギも美しき戦乙女たちも一瞬でのみ込まれた。
ズーン! ドーン!
激しい噴火は続き、吹き上がった噴煙ははるか彼方上空まで立ち上る。
物理攻撃無効をキャンセルさせる仕掛けをレヴィアが仕込んでいたのだろう。噴火の直撃を受けた彼らは跡形もなく、消えていった。
ズン! ズン! と噴火の衝撃が続き、地震のように揺れ動く神殿の中で、ドロシーは泣いた。
「うっうっうっ……ごめんなさいぃぃ……うわぁぁ!」
胸が張り裂けるような痛みの中、狂ったように泣いた。
世界のためとはいえ、五人の乙女たちの手を汚させ、殺してしまったのだ。もはや人殺しだ……。
仕方ない事だとはわかっていても、それを心は受け入れられない。
ドロシーの悲痛な泣き声はいつまでも神殿にこだましていた……。
5-9. 漆黒の巨大構造体、地球
シャトルは徐々に高度を下げ、いよいよ海王星本体へ突入する。
レヴィアは船内からできる範囲で、爆発してしまった翼の先端の応急措置を頑張っている。
ボウッという音と同時にシャトルは海王星に突入した。
突入したと言っても青いガスの海があるわけではない。ただ、暴風が吹き荒れる霞がかった薄い雲に入っただけだ。ちょうど、海水は透明なのに上から見ると真っ青に見えるのに似てるかもしれない。
シャトルは嵐の中をどんどんと深く潜っていく。ただでさえ弱い太陽の光はすぐに届かなくなり、闇の世界が訪れる。レヴィアはライトを点灯し、さらに深部を目指す。
どのくらい潜っただろうか、小さな白い粒がまるで吹雪のように吹き荒れ始めた。
「これ、何だかわかるか?」
レヴィアがドヤ顔で聞いてくる。
「え? 雪じゃないんですか?」
「ダイヤモンドじゃよ」
「ダ、ダイヤ!?」
「取ろうとするなよ、外は氷点下二百度じゃ。手なんか出したら即死じゃ」
「だ、出しませんよ!」
とは答えたものの、こんなにたくさん降っているなら少し持ち帰って指輪にし、ドロシーにあげたいなと思った。まぁ、海王星の世界の物をどうやったらデジタル世界に持ち込めるのか皆目見当もつかないが……。
◇
モウモウと煙が吹き上がっている一帯にやってきた。
「ついに、やってきたぞ!」
レヴィアが嬉しそうに言う。
煙の下に見えてきたのは巨大な漆黒の構造物群だった。それは巨大な直方体が次々と連なった形になっており、まるで吹雪の中を疾走する貨物列車のような風情だった。無骨な構造物には壁面のつなぎ目に直線状に明かりが点っており、サイバーパンクな造形に思わず見とれてしまった。
「これが……、サーバー……ですか?」
「そうじゃ、これが『ジグラート』。コンピューターの詰まった塊じゃ」
「え? これが全部コンピューター!?」
ジグラートと呼ばれた構造物は全長が一キロ、高さと奥行きが数百メートルくらいの巨大サイズ……、巨大高層ビルが密集した街というと分かりやすいだろうか。それがいくつも連なっている。
「これ一つで地球一つ分じゃ」
すごい事を言う。これが延々と連なっているという事は、地球は本当にたくさんあるらしい。
「あー、ちょうどこれ、これがお主のふるさと、日本のある地球のサーバーじゃ」
「え!? これが日本!?」
俺は思わず身を乗り出してしまった。俺はこの中で産まれ、この中で二十数年間、親に愛され、友達と遊び、大学に通い、サークルで女神様とダンスをして……まぬけに死んだのだった。無骨な巨大構造体……、これが俺の本当のふるさと……。この中には死に分かれた両親や友達、好きなアイドルやアーチスト、そして大好きだったゲームや漫画、全て入っているのだ。俺の前世の人生が全て入っている箱……。
みんなどうしてるかな……。みんなに会いたい……。
俺は胸を締め付けられる郷愁の念に駆られ、不覚にも涙を流してしまった。
「なんじゃ、行きたいのか?」
「そ、そうですね……。日本、大好きですから……」
俺は涙を手で拭きながら言った。
「そのうち行く機会もあるじゃろ。お主はヴィーナ様とも懇意だしな」
「そう……ですね。でも……もう、転生して16年ですよ。みんな俺のことなんか忘れちゃってますよ」
「はっはっは、大丈夫じゃ。日本の時間でいったらまだ数年じゃよ」
「えっ!? 時間の速さ違うんですか?」
「そりゃ、うちの星は人口が圧倒的に少ないからのう。日本の地球に比べたらどんどんシミュレーションは進むぞ」
言われてみたらそうだ。サーバーの計算容量が一緒なら人口少ない方が時間の進みが速いのは当たり前だった。
「なるほど! 楽しみになってきました!」
今、日本はどうなっているだろうか? 親にも元気でやってること、結婚したことをちゃんと報告したい。そのためにもヌチ・ギをしっかり倒さないとならない。
グォォォォ――――!
レヴィアはエンジンを逆噴射させ、言った。
「そろそろじゃぞ」
徐々に減速しながら見えてきたジグラートへと近づいていく。いよいよヌチ・ギを倒す時がやってきた。
5-10. 巨大化レーザー発振器
噴火も収まり、静まり返った神殿でドロシーは呆然としていた。
自らの命をなげうってヌチ・ギと共に火口に身を投げ、そして灼熱のマグマの真っ赤な噴火の中に消えていった五人の美しき乙女たち。その最後の光景が目に焼き付いて離れないのだ。
なぜこんな事になってしまったのだろう……。
もっとうまくやる方法はなかっただろうか?
ドロシーは目を閉じ、考えてみるが、他にいい方法は思い浮かばなかった。
テーブルに突っ伏し、
「あなたぁ……。早く帰ってきて……」
と、つぶやいた。
その時だった。
ズーン! ズーン!
激しい衝撃音が神殿を揺らした。
「え!? 何!?」
身体を勢いよく起こし、青ざめるドロシー。
ガーン!
神殿の一角が崩壊し、男が現れた……、ヌチ・ギだった。
服は焼け焦げ、顔は煤だらけ、髪の毛はチリチリになりながら、ドロシーを憎悪のこもった鋭い目でにらんだ。
「娘……。やってくれたな……」
最悪の事態となってしまった。噴火でもしとめられなかったのだ。
「い、いや! 来ないで……」
思わず後ずさりするドロシー。
ヌチ・ギはよたよたと足を引きずりながらドロシーに近づいていく。
「私の最高傑作の戦乙女たちを陥れるとは、敵ながら天晴れ……。その功績をたたえ、お前も戦乙女にしてやろう……」
引きつりながらもいやらしく笑うヌチ・ギ。
「ひ、ひぃ……」
瞳に恐怖の色を浮かべながら引きつるドロシー。
「時に、レヴィアはどうした? あのロリババア何を企んでる?」
「し、知りません。私は『ボタンを押せ』と言われてただけです」
「そのポッドは何だ?」
ヌチ・ギはポッドへ近づいていく。
「何でもありません! 神殿を勝手に荒らさないでください!」
ドロシーはポッドをかばおうと動いたが……。
「ほう、ここにいるのか……。出てこいレヴィア!」
ヌチ・ギは右手にエネルギーを込めるとポッドに放った。
ドガン!
エネルギー弾を受けてゴロゴロと転がる二台のポッド。
「止めてぇ!」
泣き叫び、ヌチ・ギにしがみつくドロシー。
「よし、じゃ、お前がやれ。今すぐに戦乙女にしてやる」
そう言ってヌチ・ギは奇妙なスティックを出した。
「な、なんですかそれ?」
大きな万年筆みたいな棒をひけらかしながらヌチ・ギは嬉しそうに言った。
「これが巨大化レーザー発振器だよ。これで対象を指示するとどこまでも大きくなるのだよ」
そう言いながらヌチ・ギは椅子を指し、レーザーを出した。グングンと大きくなっていく椅子はあっという間に神殿の天井にまで達し、大理石の天井をバキバキと割った。
「キャ――――!」
ドロシーは悲鳴を上げながらパラパラと落ちてくる破片から逃げる。
「はっはっは、見たかね、巨大化レーザーのすばらしさを!」
うれしそうに笑うヌチ・ギ。
「この巨大化レーザーの特徴はね、大きくなっても自重でつぶれたりしないことだよ。例えばアリを象くらいに大きくするとするだろ、アリは立ち上がる事も出来ず、自重でつぶれ死んでしまう。でも、この装置なら強度もアップするから、大きくなっても自在に動けるのだよ。まさに夢のような装置だよ。クックック……。さぁ、君にも体験してもらおう」
そう言って、レーザー発振器をドロシーに向けるヌチ・ギ。
「や、やめてぇ!」
走って逃げるドロシー。
「どこへ行こうというのかね?」
ヌチ・ギは空間をワープしてドロシーの前に現れ、ニヤッと笑った。
「いやぁぁぁぁ!」
神殿には悲痛な叫びが響いた。
甲高い音が響き、ゆっくりとエンジンに火が入る。
『S-4237F、直ちに停船しなさい。繰り返す。直ちに停船しなさい』
スピーカーも復活し、スカイパトロールからの警告が響く。
「しつこいのう……」
レヴィアは画面を操作して救難信号を発した。
『システムトラブル発生。救難を申請します。システムトラブル発生。救難を申請します』
スピーカーから無機質な声が流れる。
「まずは遭難を装うのが基本じゃな。そしてこうじゃ!」
レヴィアは舵を操作して、海王星に真っ逆さまに落ちて行くルートをとった。
通常、大気圏突入時には浅い角度で徐々に速度を落としながら降りていく。急角度で突入した場合、燃え尽きてしまうからだ。しかし、レヴィアの選んだルートは燃え尽きるルート、まさに自殺行為だった。
俺は焦って、
「レヴィア様、それ、危険じゃないですか?」
と、聞いた。
「スカイパトロールから逃げきるにはこのルートしかない。奴らは追ってこれまい」
「そりゃ、こんな自殺行為、追ってこられませんが……、この船持つんですか?」
「持つ訳なかろう。壊れる前に減速はせねばならん」
俺は思わず天を仰いだ。次から次へと起こる命がけの綱渡りに頭が痛くなる。
操縦パネルの隣には立体レーダーがあり、スカイパトロールの位置が表示されている。俺は横からそれをじっと見つめた……。彼らも燃え尽きルートを追いかけてきているようだ。
「追いかけてきますよ」
「しつこい奴らじゃ……」
ヴィーン! ヴィーン!
いきなり警報が鳴った。
『設計温度の上限を超えています。直ちに回避してください。設計温度の上限を超えています。直ちに回避してください』
「うるさいのう……。そんなの分かっとるんじゃ!」
シャトルの前方全体が赤く光りだした。ものすごい速度で空気にぶつかっているので、断熱圧縮でどんどん温度が上がってしまっている。まさに流星状態である。
シャトルが燃え上がるのが先か、スカイパトロールが諦めるのが先か……。
俺はただ、祈ることしかできなかった。
船内にはゴォォォーという恐ろしい轟音が響き、焦げ臭いにおいが漂い始める。
「奴らもヤバいはずなんじゃが……」
レヴィアは眉間にしわを寄せながら立体レーダーをにらむ。
ボン!
シャトルの右翼の先端が爆発し、シャトルが大きく揺れた。操縦パネルに大きく赤く『WARNING』の表示が点滅する。
「レヴィア様、ここは減速しましょう!」
俺は真っ青になって言う。死んでしまったら元も子もないのだ。しかし、レヴィアは、
「黙っとれ! ここが勝負どころじゃ!」
と、叫び、パネルの温度表示をにらむ。
どんどん上がっていく温度……。
俺は冷や汗が噴き出してきて止まらない。一度死んで生まれ変わったこの人生。今死んだらどうなるのだろうか? また美奈先輩の所へ行けるのだろうか? 行けたとしてまた生まれ変わらせてくれるのだろうか? 確か『一回だけ』と、言われていたような……。
いや、これは俺だけの問題じゃない。ドロシーもアンジューのみんなの問題でもあるのだ。こんなところで死ぬわけにはいかない。
俺は必死に祈った。それこそ、全力で祈った。
その時だった。
「ヨシッ!」
レヴィアはエンジンに最大の逆噴射をかける。激しいGがかかり、シートベルトが俺の身体に食い込む。
見ると、レーダー上でスカイパトロールが進路を変更していく。
次の瞬間、ボシュッと音がして目の前が真っ白になった。どうやら高層雲に突っ込んだようだ。
しかし温度はなかなか下がらない。
ボン!
今度は左翼の先端が爆発し、シャトルはきりもみ状態に陥った。
グルグルと回る視界の中、俺は叫ぶ。
「レヴィア様ぁ!」
「うるさい、黙っとれ!」
グルグルと回転する中、シャトルの制御を取り戻すべくレヴィアは必死に舵を操作する。
真っ白な雲の中、グルグル回りながら俺は孤児院での暮らしを思い出していた。走馬灯という奴かもしれない。薬草を集め、ドロシーと一緒に剣を研いでいたあの頃……。楽しかったなぁ……。まさか海王星でこんな目に遭うなんて想像もできなかった。
俺の人生は正解だったのか?
グルグル回る視野の中、俺は悩む。
チートで好き放題したことも、ドロシーと結婚したことも、奪還しに行ったことも正しかったのだろうか……?
自分が選び取った未来ではあったが、多くの人に迷惑をかけてしまったかもしれない。俺が余計なことをしたから、こんなことになってしまっているのかも……。どうしよう……。
俺が頭を抱えていると徐々に回転が収まってきた。
「ヨッシャー!」
レヴィアが叫ぶ。
やがて回転は止まり、見れば、温度も速度も徐々に落ちている。
そして、ボシュッと音がして俺たちは雲を抜けた。
いきなり目の前に碧い水平線が広がる。
「おぉ……」
俺はどこまでも広がる広大な海王星の世界に圧倒された。
もう邪魔する者はいない。俺はレヴィアの奮闘に心から感謝をした。
よく考えたらこの事態は俺のせいだけではない。世界に溜まっていた歪みが俺という存在を切っ掛けに一気に顕在化しただけなのだ。
悩む事など無い。ここまで来たらこの綻んでしまった世界を正す以外ない。俺の選択が正しかったかどうかは次の一手で決まる。ヌチ・ギを倒すためにはるばる来た海王星。何が何でも正解をつかみ取ってやるのだ。
俺はどこまでも澄んだ碧の美しさに見ほれながら、こぶしをギュッと握った。
5-7. 頑張らなくっちゃ!
宮崎の火山の火口脇の洞窟で、ドロシーは一人寂しく二人の帰りを待っていた。神殿は静まり返り、繊細な彫刻が施された薄暗い壁を、画面の青い光りがほのかに照らしている。
二人はこの世界を作っているコンピューターとやらを壊しに、海王星なるところへ行くと言っていた。そこでヌチ・ギを倒すと……。でも……、身体はポッドの中にある。いったい彼らはどうやって海王星へ行って、そこで何をやっているのだろうか……。
空間を切り裂いたり不可思議な力を行使するドラゴン。そして、そのドラゴンの言う意味不明な事をよく理解しているユータ。二人ともなんだか別世界の住人の様にすら思える。
「帰ってきたら全部教えてもらうんだから……」
ドロシーはテーブルに頬杖をつき、ちょっとふくれた。
ピチョン……、ピチョン……
どこか遠くでかすかに水滴の落ちる音がする。
洞窟に作られた秘密の神殿。前に一度だけリリアン王女と一緒に連れてこられた思い出の神殿だ。こんな形で再訪するとは夢にも思わなかった。
ドロシーはテーブルに突っ伏し、今日あった事を思い出す。自分が攫われ、ユータ、アバドン、レヴィアに助けてもらうも戦乙女との戦闘となり、劣勢。ヌチ・ギは世界を火の海にすると言う……。
何だか夢の中の話のようだが、現実なのだ。今、ここがこの世界の人々の命運を決める前線基地であり、唯一対抗できる二人の身体を守りきることがカギとなっている。そしてそれを託されたのが自分……。
まさか孤児上がりの18歳の自分が、世界の命運を握るような大役を担うなんて全く想像もしていなかった。自分は食べていければいい、愛する人と一緒に暮らせればいいとしか思ってこなかった。
しかし、世界はそんな傍観者的位置を許さず、自分を最前線の大役に置いた。それはユータとの結婚を望んだ結果であり、ある程度覚悟はしていたものの……、想定をはるかに上回る重責だった。
「ふぅ……、ビックリしちゃうわよね……」
ドロシーはボソっとつぶやく。
しかし、守れと言われてもヌチ・ギらの異常な攻撃力、不思議な技は非力な自分ではどうしようもない。もちろんこの神殿にはいろんな防護機構がついているのだろうが、いつまでも耐えられるとは思えない。
レヴィアにもらったのは噴火ボタンだけ。しかし、こんなボタン本当に使えるのだろうか? 火の海になるって言っても、彼らがそれで躊躇するとも思えない。噴火を直撃させたら効きそうではあるけれども、彼らが火口に来て、かつ異変を感じても動かない、そんな都合のいい状況なんてどうやって作るのか?
ドロシーはむくりと起き上がるとパシパシと両手で頬を打った。
「私しかいないんだから頑張らなくっちゃ!」
そして腕組みをして銀髪を揺らし一生懸命考える。世界のため、そして愛するユータのため……。
その時だった、
ズン! ズガーン!
「キャ――――!」
激しく地面が揺れ、ドロシーは悲鳴を上げながら椅子から転げ落ちないように必死に踏ん張る。
「ドラゴーン! 出てこい! そこにいるのは分かってんだ!」
火口の外輪山の頂の上で誰かが叫んでいる。
画面の映像が自動的に拡大されていく……、ヌチ・ギだ。後ろには五人の戦乙女を従えている。
やはり来てしまった。
いよいよ、この世界を護れるかどうかの重大局面がやってきたのだ。
ドロシーは頭を抱え、震えた。
「どうしよう……」
しかし、自分しかいないのだ。自分がなんとかしないとならない。
「おい! 無視するなら火山ごと吹き飛ばすぞ! ロリババア!」
ヌチ・ギの無情な罵声が響き渡る。
ドロシーは大きく息をつくと覚悟を決めた。
5-8. わかりますか? 絶対です
「あら、ヌチ・ギさん。美女さんをたくさん引き連れてどうしたんですか?」
火口の上にドロシーの上半身がホログラムで表示され、声が響いた。
「おい、娘! お前に用なんかないんだ! さっさとドラゴンを出せ!」
「ん――――、ドラゴン……ですか? どちら様ですかねぇ?」
ドロシーは冷静を装い、必死に時間稼ぎをする。
「何をとぼけてるんだ! レヴィアだ! レヴィアを出せ!」
「ん――――、レヴィア様……ですね。少々お待ちください……」
ドロシーは席を外し、ポッドの所へ行った。
そして、寝ているユータの寝顔をそっと見て……、震えながら目をつぶり、大きく息をついた。
「私、がんばる……ね」
そう、つぶやき、両手のこぶしを握り、二回振った。
ドロシーは席に戻り、言った。
「えーとですね……。レヴィア様は今、お忙しい……という事なんですが……」
「何が忙しいだ! ならこのままぶち壊すぞ!」
絶体絶命である。ドロシーは胃のキューっとした痛みに耐え、大きく息をついて言った。
「ヌチ・ギさんは戦乙女さん作ったり、すごい賢い方ですよね?」
「いきなり何だ?」
「私、とーってもすごいって思うんです」
「ふん! 褒めても何も出んぞ!」
「でも、私、とても不思議なんです」
「……、何が言いたい?」
怪訝そうな表情のヌチ・ギ。
「ヌチ・ギさんはこの世界を火の海にするって言ってましたね」
「それがどうした?」
「それ、すごい頭悪い人のやり方なんですよね」
「……」
「だって賢かったら人一人殺さず、この世界を活性化できるはずですから」
「知った風な口を利くな!」
「つまり……。活性化というのは口実に過ぎないんです。単に戦乙女さんたちで人殺しを楽しみたいんです」
「……」
ヌチ・ギはムッとして黙り込む。
「私、あなたに捕まって戦乙女さんたちのように操られそうになったから良く分かるんです。戦乙女さんは皆、心では泣いてますよ」
「だったら何だ! お前が止められるのか? ただの小娘が!」
真っ赤になって吠えるヌチ・ギ。
「戦乙女さん達、辛いですよね。人殺しの道具にされるなんて心が張り裂けそうですよね……。うっ……うっ……」
ドロシーは耐えられず、泣き出してしまった。
「何言ってるんだ! 止めろ!」
そして、ドロシーは鼻をすすりながら、決意のこもった声で言った。
「戦乙女の皆さん、聞いてください。私、これから、この基地の秘密を皆さんに教えちゃいます! ヌチ・ギさんに火口に入られてしまうと、この基地、すごくヤバいんです。ヌチ・ギさんは絶対に火口に入れるなとレヴィア様に厳命されているんです。絶対です。わかりますか? 絶対です!」
「は? 何を言っている!?」
何を言い出したのかヌチ・ギは理解できなかった。
戦乙女たちはお互いの顔を見合わせる。
そして、褐色の肌の戦乙女が素早くヌチ・ギを羽交い締めにして言った。
「レヴィアを殲滅せよとの命令を果たします」
「お、おい、何するんだ!? 止めろ!」
「命令を果たします」「命令を果たします」
他の戦乙女たちも口々にそう言うとヌチ・ギの両手、両足をそれぞれ押さえ、一気に火口に向かって飛んだ。
「放せ――――!」
ヌチ・ギの絶叫が響く中、ドロシーは泣きながら赤いボタンを押した。
「ごめん……なさい……」
テーブルに突っ伏すドロシー。
激しい地響きの後、火山は轟音を放ちながら激しく爆発を起こした。吹き上がる赤いマグマは天を焦がし、ヌチ・ギも美しき戦乙女たちも一瞬でのみ込まれた。
ズーン! ドーン!
激しい噴火は続き、吹き上がった噴煙ははるか彼方上空まで立ち上る。
物理攻撃無効をキャンセルさせる仕掛けをレヴィアが仕込んでいたのだろう。噴火の直撃を受けた彼らは跡形もなく、消えていった。
ズン! ズン! と噴火の衝撃が続き、地震のように揺れ動く神殿の中で、ドロシーは泣いた。
「うっうっうっ……ごめんなさいぃぃ……うわぁぁ!」
胸が張り裂けるような痛みの中、狂ったように泣いた。
世界のためとはいえ、五人の乙女たちの手を汚させ、殺してしまったのだ。もはや人殺しだ……。
仕方ない事だとはわかっていても、それを心は受け入れられない。
ドロシーの悲痛な泣き声はいつまでも神殿にこだましていた……。
5-9. 漆黒の巨大構造体、地球
シャトルは徐々に高度を下げ、いよいよ海王星本体へ突入する。
レヴィアは船内からできる範囲で、爆発してしまった翼の先端の応急措置を頑張っている。
ボウッという音と同時にシャトルは海王星に突入した。
突入したと言っても青いガスの海があるわけではない。ただ、暴風が吹き荒れる霞がかった薄い雲に入っただけだ。ちょうど、海水は透明なのに上から見ると真っ青に見えるのに似てるかもしれない。
シャトルは嵐の中をどんどんと深く潜っていく。ただでさえ弱い太陽の光はすぐに届かなくなり、闇の世界が訪れる。レヴィアはライトを点灯し、さらに深部を目指す。
どのくらい潜っただろうか、小さな白い粒がまるで吹雪のように吹き荒れ始めた。
「これ、何だかわかるか?」
レヴィアがドヤ顔で聞いてくる。
「え? 雪じゃないんですか?」
「ダイヤモンドじゃよ」
「ダ、ダイヤ!?」
「取ろうとするなよ、外は氷点下二百度じゃ。手なんか出したら即死じゃ」
「だ、出しませんよ!」
とは答えたものの、こんなにたくさん降っているなら少し持ち帰って指輪にし、ドロシーにあげたいなと思った。まぁ、海王星の世界の物をどうやったらデジタル世界に持ち込めるのか皆目見当もつかないが……。
◇
モウモウと煙が吹き上がっている一帯にやってきた。
「ついに、やってきたぞ!」
レヴィアが嬉しそうに言う。
煙の下に見えてきたのは巨大な漆黒の構造物群だった。それは巨大な直方体が次々と連なった形になっており、まるで吹雪の中を疾走する貨物列車のような風情だった。無骨な構造物には壁面のつなぎ目に直線状に明かりが点っており、サイバーパンクな造形に思わず見とれてしまった。
「これが……、サーバー……ですか?」
「そうじゃ、これが『ジグラート』。コンピューターの詰まった塊じゃ」
「え? これが全部コンピューター!?」
ジグラートと呼ばれた構造物は全長が一キロ、高さと奥行きが数百メートルくらいの巨大サイズ……、巨大高層ビルが密集した街というと分かりやすいだろうか。それがいくつも連なっている。
「これ一つで地球一つ分じゃ」
すごい事を言う。これが延々と連なっているという事は、地球は本当にたくさんあるらしい。
「あー、ちょうどこれ、これがお主のふるさと、日本のある地球のサーバーじゃ」
「え!? これが日本!?」
俺は思わず身を乗り出してしまった。俺はこの中で産まれ、この中で二十数年間、親に愛され、友達と遊び、大学に通い、サークルで女神様とダンスをして……まぬけに死んだのだった。無骨な巨大構造体……、これが俺の本当のふるさと……。この中には死に分かれた両親や友達、好きなアイドルやアーチスト、そして大好きだったゲームや漫画、全て入っているのだ。俺の前世の人生が全て入っている箱……。
みんなどうしてるかな……。みんなに会いたい……。
俺は胸を締め付けられる郷愁の念に駆られ、不覚にも涙を流してしまった。
「なんじゃ、行きたいのか?」
「そ、そうですね……。日本、大好きですから……」
俺は涙を手で拭きながら言った。
「そのうち行く機会もあるじゃろ。お主はヴィーナ様とも懇意だしな」
「そう……ですね。でも……もう、転生して16年ですよ。みんな俺のことなんか忘れちゃってますよ」
「はっはっは、大丈夫じゃ。日本の時間でいったらまだ数年じゃよ」
「えっ!? 時間の速さ違うんですか?」
「そりゃ、うちの星は人口が圧倒的に少ないからのう。日本の地球に比べたらどんどんシミュレーションは進むぞ」
言われてみたらそうだ。サーバーの計算容量が一緒なら人口少ない方が時間の進みが速いのは当たり前だった。
「なるほど! 楽しみになってきました!」
今、日本はどうなっているだろうか? 親にも元気でやってること、結婚したことをちゃんと報告したい。そのためにもヌチ・ギをしっかり倒さないとならない。
グォォォォ――――!
レヴィアはエンジンを逆噴射させ、言った。
「そろそろじゃぞ」
徐々に減速しながら見えてきたジグラートへと近づいていく。いよいよヌチ・ギを倒す時がやってきた。
5-10. 巨大化レーザー発振器
噴火も収まり、静まり返った神殿でドロシーは呆然としていた。
自らの命をなげうってヌチ・ギと共に火口に身を投げ、そして灼熱のマグマの真っ赤な噴火の中に消えていった五人の美しき乙女たち。その最後の光景が目に焼き付いて離れないのだ。
なぜこんな事になってしまったのだろう……。
もっとうまくやる方法はなかっただろうか?
ドロシーは目を閉じ、考えてみるが、他にいい方法は思い浮かばなかった。
テーブルに突っ伏し、
「あなたぁ……。早く帰ってきて……」
と、つぶやいた。
その時だった。
ズーン! ズーン!
激しい衝撃音が神殿を揺らした。
「え!? 何!?」
身体を勢いよく起こし、青ざめるドロシー。
ガーン!
神殿の一角が崩壊し、男が現れた……、ヌチ・ギだった。
服は焼け焦げ、顔は煤だらけ、髪の毛はチリチリになりながら、ドロシーを憎悪のこもった鋭い目でにらんだ。
「娘……。やってくれたな……」
最悪の事態となってしまった。噴火でもしとめられなかったのだ。
「い、いや! 来ないで……」
思わず後ずさりするドロシー。
ヌチ・ギはよたよたと足を引きずりながらドロシーに近づいていく。
「私の最高傑作の戦乙女たちを陥れるとは、敵ながら天晴れ……。その功績をたたえ、お前も戦乙女にしてやろう……」
引きつりながらもいやらしく笑うヌチ・ギ。
「ひ、ひぃ……」
瞳に恐怖の色を浮かべながら引きつるドロシー。
「時に、レヴィアはどうした? あのロリババア何を企んでる?」
「し、知りません。私は『ボタンを押せ』と言われてただけです」
「そのポッドは何だ?」
ヌチ・ギはポッドへ近づいていく。
「何でもありません! 神殿を勝手に荒らさないでください!」
ドロシーはポッドをかばおうと動いたが……。
「ほう、ここにいるのか……。出てこいレヴィア!」
ヌチ・ギは右手にエネルギーを込めるとポッドに放った。
ドガン!
エネルギー弾を受けてゴロゴロと転がる二台のポッド。
「止めてぇ!」
泣き叫び、ヌチ・ギにしがみつくドロシー。
「よし、じゃ、お前がやれ。今すぐに戦乙女にしてやる」
そう言ってヌチ・ギは奇妙なスティックを出した。
「な、なんですかそれ?」
大きな万年筆みたいな棒をひけらかしながらヌチ・ギは嬉しそうに言った。
「これが巨大化レーザー発振器だよ。これで対象を指示するとどこまでも大きくなるのだよ」
そう言いながらヌチ・ギは椅子を指し、レーザーを出した。グングンと大きくなっていく椅子はあっという間に神殿の天井にまで達し、大理石の天井をバキバキと割った。
「キャ――――!」
ドロシーは悲鳴を上げながらパラパラと落ちてくる破片から逃げる。
「はっはっは、見たかね、巨大化レーザーのすばらしさを!」
うれしそうに笑うヌチ・ギ。
「この巨大化レーザーの特徴はね、大きくなっても自重でつぶれたりしないことだよ。例えばアリを象くらいに大きくするとするだろ、アリは立ち上がる事も出来ず、自重でつぶれ死んでしまう。でも、この装置なら強度もアップするから、大きくなっても自在に動けるのだよ。まさに夢のような装置だよ。クックック……。さぁ、君にも体験してもらおう」
そう言って、レーザー発振器をドロシーに向けるヌチ・ギ。
「や、やめてぇ!」
走って逃げるドロシー。
「どこへ行こうというのかね?」
ヌチ・ギは空間をワープしてドロシーの前に現れ、ニヤッと笑った。
「いやぁぁぁぁ!」
神殿には悲痛な叫びが響いた。
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