君の涙色の恋を、いつまでもこの胸に抱いている

月乃夢想

15

 沙弥のお母さんから事故現場を教えてもらった私たちは、電車に乗って遠くの県を目指した。
 車窓を流れる景色が、段々と見慣れない街並みに変わっていく。
「広瀬君は、◯◯県に行ったことある?」
 隣に座る広瀬君に尋ねる。
「部活の試合で、何度か」
「そうなんだ。私は家族との旅行で通り過ぎたことがあるくらいかな」
「わざわざ行かねぇよな。ってことは、須藤は本当に友達に会いに行ったっぽいよな」
「うん。気になるよ。もしかしたら、そのお友達は、事故のことを知らないかもしれないよね。その人にも会えたらいいんだけど……」
「そうだな」
 でも、沙弥の友達が誰なのかを知る手立てはない。
 それきり、私たちは黙り込んだ。
 車窓越しに見える空は、濃いグレーのどんよりとした雲で覆われている。そういえば、今日は夕方から雨だっけ。折り畳み傘、忘れてきちゃったな。
 広瀬君は、私が沙弥を亡くした気持ちが分かると言った。だけど実際、私と広瀬君では親友に対する想いが違う。
 病気の幼なじみを気に掛けなかったのを悔やむ広瀬君。
 沙弥を裏切ってケンカ別れしてしまった私。
 お互いに後悔の念を持ってはいるけれど、客観的に見て、広瀬君を責める人はいないと思う。一方の私は、非難されても仕方がないことをしている。
 もし私が、沙弥とのケンカの理由を広瀬君に告げたとしたら、彼は私を嫌いになるだろうか。
 肝心なことを何も言わずに、今もこうして広瀬君に味方になってもらっている卑怯な自分のことが、私は心底嫌いだ。
――事故に遭って、命を落とすべきだったのは、沙弥じゃなくて私なんじゃない?
――今、広瀬君の隣にいるべきなのは、私じゃなくて沙弥なんじゃない?
――ねえ、沙弥。そうだよね?


 電車で二時間掛けて、私たちは沙弥の死んだ街へと降り立った。郊外の駅で、駅前にスーパーといくつかの飲食店がある他は、畑と住宅地が広がっているだけの寂しい場所だ。
 駅前のスーパーで、事故現場に供えるお花を買った。仏花ではなく、沙弥のイメージで選んだ白のミニブーケにした。
 私がお花を選んでいる間に、広瀬君がスマホのマップアプリで場所を調べてくれていた。
「事故があった交差点までは、ここから歩いて五分くらいだな」
「近いんだね。夕方だから、帰るところだったのかな」
 広瀬君がいてくれて良かったと思う。彼がいなければ、私はもっと感情的になっていたかもしれない。広瀬君の目があったから、私は沙弥のお母さんと冷静に話せたし、何より、彼の提案がなかったら、こうして事故現場に来ることはなかっただろう。
「広瀬君」
「どうした?」
「ありがとう」
 素直にお礼を言うと、広瀬君は目を丸くした。
「何だよ、急に」
「お礼を言いたくなったの」
「あー……」
 自分で言っておいてアレだけど、ちょっと照れくさいな。広瀬君も、何だか恥ずかしそうにしているし。
「やっぱ、三崎はバカ正直な方がいいな」
 私の肩を軽く何度か叩くと、広瀬君は唐突に歩き出した。慌ててついていきながら、嬉しさが胸いっぱいに広がるのを感じる。
 もし、沙弥の死を受け入れられたら……その時は彼に話したい。
 私と沙弥は、困っている人を放っておけない、優しいあなたを好きになったんだよって。

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