君の涙色の恋を、いつまでもこの胸に抱いている
10
翌朝。不安と緊張で一睡も出来なかった私は、ぼんやりする頭を抱えて学校へと向かった。
教室に入って辺りを見回したけれど、沙弥はまだ来ていないようだ。いつもなら、私より先に登校しているのに……。
自分の席に向かうと、隣の席で鞄を開けていた広瀬君が気付いて私を見上げた。
「よう、三崎……って、どうした?」
「えっ?」
途端に怪訝な顔をする彼に、私は一体何を言われたのか分からなくなった。
「顔。すげぇ疲れてるように見えるけど」
「あ……」
確かに、朝、洗面所で見た自分の顔は青白くて、目の下にクマがあった。昨日眠れなかったせいだろう。
「何ともないよ。大丈夫」
必死に笑顔を作ってみたものの、広瀬君は納得がいかないように首を傾げた。
「そうは見えねぇけどな。ま、無理に聞くのもストレスか。そっとしといてやるよ」
広瀬君は席を立つと、友達の元へと歩いていった。
心配してくれて嬉しい反面、疲れた顔の原因は広瀬君を巡っての沙弥とのケンカなので、何とも複雑な気持ちだ。早く沙弥と仲直りして、この胸の痛みとさよなら出来たらいいな。
そう思いながら教室の入り口をずっと見ていたけれど、沙弥がやってくることはなかった。
「ほら、ホームルーム始めるぞ。席に着きなさい」
担任の先生が教室に入ってきた。今日、沙弥は欠席なのだろうか。風邪でも引いたのかな? それとも、私のせいで……?
先生は教卓の前に立つと、真面目な表情で私たちを見回した。
「出席を取る前に、大事な話がある。須藤のことだ」
教室中がざわめいた。
沙弥のこと?
何だろう、嫌な予感がする。
先生が口を開く。
「須藤が昨日の夕方、◯◯県で交通事故に遭った」
ざわめきが大きくなった。
――事故? そんな、沙弥は無事なの?
動揺する私たちを前に、先生は淡々と話す。
「一人で交差点を歩いていて、自動車と接触したそうだ。須藤はすぐに病院に運ばれたが……今朝、息を引き取った」
教室に女子たちの悲鳴が響き渡った。
私はあまりの衝撃に、声を出すことも出来ない。
頭が現実に追い付いていなかった。
――沙弥が死んだ?
――じゃあ、もう会えないの?
――会って謝ることは出来ないの?
視界がぐにゃりと歪んだ。意識が途切れそうになる。
「三崎!」
広瀬君の声にハッとした。隣を見ると、彼は焦ったように私の両肩を掴んだ。その手の力強さが、私を現実へと引き戻す。
「先生、三崎が具合悪そうなので、保健室に連れていきます!」
広瀬君は先生にそう告げると、ゆっくりと私を立たせた。皆が心配そうに私を見ている。後ろの席の女子が、「萌花ちゃん、大丈夫?」と涙目で聞いてきたけれど、何も答えられない。
呆然としたまま、広瀬君に肩を抱かれながら廊下を歩いた。足元がおぼつかなくて、何度かふらつく。その度に、広瀬君が身体を支えてくれた。
保健室に入ると、広瀬君が先生に事情を説明した。先生にテキパキと体調や気分について聞かれ、頭がぼんやりするとだけ伝える。横になっているように言われて、広瀬君と先生の手を借りながらベッドに横たわった。
「広瀬君、ごめんね……」
迷惑を掛けたことを謝ると、彼は真剣な瞳をして、
「今は何も考えるな。ゆっくり寝とけ」
とだけ言った。ベッド周りのカーテンが引かれ、広瀬君が先生に挨拶をして保健室を出て行く音が聞こえる。
「……」
広瀬君は「何も考えるな」と言ったけれど、私の頭の中は様々な思いでぐちゃぐちゃになっていた。
特に強く思うのは、「私のせいだ」という意識。
沙弥は私とのことがショックで、そのせいで体調が優れなくて、事故に遭ってしまったんじゃないだろうか?
私だって、眠れずに頭がぼーっとしていた。そんな注意不足の状態なら、車が来ても気付かず接触してしまうかもしれない。
それとも……。
一つの可能性に思い当たり、私はハッと息を呑んだ。
もしかして、これは事故じゃなくて、沙弥が自ら車の前に飛び出したんじゃ……。
親友に裏切られて、あまりにもつらかったから。
「うっ……沙弥……」
そう思い至り、私の瞳から涙が溢れた。どちらにしろ、私のせいで、沙弥は命を落としたと思う。
私があんな言い方をしなければ……。
後悔しても、もう沙弥は戻ってこないのだ。絶望が心を侵食していく。
優しかった沙弥。最後に見た沙弥が、私に怒りをぶつける姿だなんて、そんなの、嫌だよ……。
私は沙弥の恋も一緒に殺してしまった。沙弥は広瀬君に保健室へ連れて行ってもらって恋に落ちた。さっきの私みたいに。
私にはもう、広瀬君に優しくされる資格なんてない。
胸の痛みを少しでも消したくて、私は瞼を閉じると深い眠りに落ちていった。
教室に入って辺りを見回したけれど、沙弥はまだ来ていないようだ。いつもなら、私より先に登校しているのに……。
自分の席に向かうと、隣の席で鞄を開けていた広瀬君が気付いて私を見上げた。
「よう、三崎……って、どうした?」
「えっ?」
途端に怪訝な顔をする彼に、私は一体何を言われたのか分からなくなった。
「顔。すげぇ疲れてるように見えるけど」
「あ……」
確かに、朝、洗面所で見た自分の顔は青白くて、目の下にクマがあった。昨日眠れなかったせいだろう。
「何ともないよ。大丈夫」
必死に笑顔を作ってみたものの、広瀬君は納得がいかないように首を傾げた。
「そうは見えねぇけどな。ま、無理に聞くのもストレスか。そっとしといてやるよ」
広瀬君は席を立つと、友達の元へと歩いていった。
心配してくれて嬉しい反面、疲れた顔の原因は広瀬君を巡っての沙弥とのケンカなので、何とも複雑な気持ちだ。早く沙弥と仲直りして、この胸の痛みとさよなら出来たらいいな。
そう思いながら教室の入り口をずっと見ていたけれど、沙弥がやってくることはなかった。
「ほら、ホームルーム始めるぞ。席に着きなさい」
担任の先生が教室に入ってきた。今日、沙弥は欠席なのだろうか。風邪でも引いたのかな? それとも、私のせいで……?
先生は教卓の前に立つと、真面目な表情で私たちを見回した。
「出席を取る前に、大事な話がある。須藤のことだ」
教室中がざわめいた。
沙弥のこと?
何だろう、嫌な予感がする。
先生が口を開く。
「須藤が昨日の夕方、◯◯県で交通事故に遭った」
ざわめきが大きくなった。
――事故? そんな、沙弥は無事なの?
動揺する私たちを前に、先生は淡々と話す。
「一人で交差点を歩いていて、自動車と接触したそうだ。須藤はすぐに病院に運ばれたが……今朝、息を引き取った」
教室に女子たちの悲鳴が響き渡った。
私はあまりの衝撃に、声を出すことも出来ない。
頭が現実に追い付いていなかった。
――沙弥が死んだ?
――じゃあ、もう会えないの?
――会って謝ることは出来ないの?
視界がぐにゃりと歪んだ。意識が途切れそうになる。
「三崎!」
広瀬君の声にハッとした。隣を見ると、彼は焦ったように私の両肩を掴んだ。その手の力強さが、私を現実へと引き戻す。
「先生、三崎が具合悪そうなので、保健室に連れていきます!」
広瀬君は先生にそう告げると、ゆっくりと私を立たせた。皆が心配そうに私を見ている。後ろの席の女子が、「萌花ちゃん、大丈夫?」と涙目で聞いてきたけれど、何も答えられない。
呆然としたまま、広瀬君に肩を抱かれながら廊下を歩いた。足元がおぼつかなくて、何度かふらつく。その度に、広瀬君が身体を支えてくれた。
保健室に入ると、広瀬君が先生に事情を説明した。先生にテキパキと体調や気分について聞かれ、頭がぼんやりするとだけ伝える。横になっているように言われて、広瀬君と先生の手を借りながらベッドに横たわった。
「広瀬君、ごめんね……」
迷惑を掛けたことを謝ると、彼は真剣な瞳をして、
「今は何も考えるな。ゆっくり寝とけ」
とだけ言った。ベッド周りのカーテンが引かれ、広瀬君が先生に挨拶をして保健室を出て行く音が聞こえる。
「……」
広瀬君は「何も考えるな」と言ったけれど、私の頭の中は様々な思いでぐちゃぐちゃになっていた。
特に強く思うのは、「私のせいだ」という意識。
沙弥は私とのことがショックで、そのせいで体調が優れなくて、事故に遭ってしまったんじゃないだろうか?
私だって、眠れずに頭がぼーっとしていた。そんな注意不足の状態なら、車が来ても気付かず接触してしまうかもしれない。
それとも……。
一つの可能性に思い当たり、私はハッと息を呑んだ。
もしかして、これは事故じゃなくて、沙弥が自ら車の前に飛び出したんじゃ……。
親友に裏切られて、あまりにもつらかったから。
「うっ……沙弥……」
そう思い至り、私の瞳から涙が溢れた。どちらにしろ、私のせいで、沙弥は命を落としたと思う。
私があんな言い方をしなければ……。
後悔しても、もう沙弥は戻ってこないのだ。絶望が心を侵食していく。
優しかった沙弥。最後に見た沙弥が、私に怒りをぶつける姿だなんて、そんなの、嫌だよ……。
私は沙弥の恋も一緒に殺してしまった。沙弥は広瀬君に保健室へ連れて行ってもらって恋に落ちた。さっきの私みたいに。
私にはもう、広瀬君に優しくされる資格なんてない。
胸の痛みを少しでも消したくて、私は瞼を閉じると深い眠りに落ちていった。

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