君の涙色の恋を、いつまでもこの胸に抱いている

月乃夢想

8

 数日間、心ここにあらずの状態が続いた。沙弥には心配されたけれど、「私も広瀬君を好きになった」だなんて、一番の親友に言えるはずがない。
 ぼんやりとしたままで、ホームルームの時間を迎えた。今日のホームルームは席替えだ。先生が教卓の上にクジの箱を置いて、順番に並ぶよう指示する。沙弥は私に手を合わせると、小声で言った。
「今回も、もし萌花が広瀬君の隣の席になったら、クジを交換してね」
 私は曖昧に頷くと、沙弥と一緒にクジ引きの列に並んだ。私も沙弥も、今まで広瀬君の隣になったことはない。まあ、そうなる確率はものすごく低いしね。
 そう考えながら、箱からクジの紙を一枚引いて広げる。黒板に書かれた座席表と照らし合わせると、一番前の席だった。あ〜あ、ツイてないな。
「あ。俺、一番前だ」
 友達とクジを見せ合っていた広瀬君が、そう言ったので驚いた。どの席だろう? 私は広瀬君たちの会話に、注意深く耳を傾けた。
「うわ、可哀想〜。広瀬、何番?」
「D1」
 心臓が大きく脈打った。その席は、私の隣だったからだ。沙弥が寄ってきて、残念そうに眉尻を下げる。
「広瀬君、一番前なんだね……私、後ろの席になっちゃった。萌花は?」
「えっと……」
 言わなきゃ。私、広瀬君の隣の席になれたよって。クジ、交換しようって。
 そう思うのに、私の口は開かない。
――そりゃ、先に広瀬君を好きになったのは沙弥だよ。
――だけどさ、それって関係ある?
――沙弥より先に広瀬君を好きになった子だって、たくさんいるんだし。
――親友だからって、好きな人を譲る理由は存在しないよね?
 私の中の本音が騒ぎ出す。
「こら、喋ってないで、早く移動しなさい」
 先生に注意されて、皆は新しい席へと移動を始めた。
「萌花、また後でね」
「あ、沙弥……」
 慌てて自分の席へと戻っていく沙弥を目で追いながら、私は何か大切なものが壊れていくのを感じていた。このまま黙っていても、すぐバレてしまうのに。
 机と椅子を抱えて、緊張しながら広瀬君の隣の席へ行く。
 広瀬君は、私が隣だと分かると笑い掛けてきた。
「三崎が隣か〜。一番前だと先生に面倒押し付けられるから、気を付けろよ」
 私は胸が高鳴るのを抑えて笑みを返す。
「そしたら、また広瀬君に手伝ってもらうから」
「ははっ、俺、頼られてんなぁ」
 二人で笑い合っていると、不意に、強烈な視線を感じた。振り返ると、後ろの席で沙弥が目を大きく見開いて私たちを見つめていた。

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