君の涙色の恋を、いつまでもこの胸に抱いている

月乃夢想

7

 月日は流れ、十二月になった。
 あの暑い日々が嘘だったんじゃないかと思えるくらい、冬が早くやってきて、寒がりの私はニットとマフラーが欠かせない。もっと寒くなってきたら、手袋もしないと。
 私は相変わらずの学校生活を送っている……と言いたいところだけど、段々と自分の感情の変化に気付き始めていた。

 広瀬君に心引かれている。
 九月のあの日以来、彼はたまに私に声を掛けてくるようになった。「三崎、また委員会で無茶してないか?」って。「大丈夫だよー」と答えながらも、自分の心が弾んでいるのを、もう見て見ぬフリは出来なかった。
 広瀬君の優しい性格も好きだけど、あの時一度だけ見た、弱々しい笑顔も記憶に残っている。綺麗で、儚げな微笑み。彼に何かあったんじゃないかって、いまだに気になる。まあ、これに関しては、私の思い過ごしかもしれないけれど。

 そうなると、私の心を痛めるのは沙弥の存在だった。
 今でも沙弥は、広瀬君に恋してる。
 今日、沙弥は家で作ったマフィンを学校に持ってきた。チョコやキャラメルなど色々な味があって、一つずつ可愛くラッピングされている。
「わあ、美味しそう! 沙弥、お菓子作るの上手だよね」
 私は調理全般が苦手なので、女の子らしい趣味を持つ沙弥が羨ましい。スマホでマフィンの写真を撮りながらほめると、沙弥は恥ずかしそうに笑った。
「ありがとう。このピンクのラッピングは萌花の分だよ」
「可愛い~! レースがついてる」
 受け取って、しげしげと眺めていると、沙弥が頬を赤く染めて言った。
「あのね、私、広瀬君にも渡そうと思ってるんだ」
「えっ……」
 私の戸惑いに気付かない様子で、沙弥はブルーのラッピングのマフィンを手にした。
「見ているだけじゃ、好きな気持ちは伝わらないもんね。周りに人がいない時を見計らって、頑張って渡してみるよ」
 決意を込めた沙弥の言葉に、私は何も言えなくなる。
「萌花も応援しててね!」
 沙弥はニコッと笑うと、「これ、須藤さんが作ったの?」と声を掛けてきた女子たちにマフィンを配り始める。私は黙り込んだまま、自分の席に戻るとマフィンを鞄にしまった。
 今、沙弥から聞いたことを全て忘れてしまいたい。そんな思いに駆られた。

 翌朝。教室に入った私は、沙弥を見つけると足早に近寄った。昨日、広瀬君にマフィンを渡したのか、ずっと気になっていたのだ。
「おはよう、萌花」
「おはよう。あのさ、昨日……」
 すると、快活な声が私の言葉を遮った。
「須藤」
 広瀬君が沙弥を呼ぶ声に、サッと緊張が走る。彼は目を丸くする沙弥に、爽やかな笑顔を向けた。
「昨日、マフィンありがとう。美味かったよ」
「あ、ううん……あの、またお菓子作ったら、あげるね」
「本当? 楽しみにしとく」
 そう言うと、広瀬君は友達の元へ戻っていった。沙弥は顔を赤くして、嬉しそうに微笑んでいる。二人のやり取りを見ていた私の心の中に、どす黒いものが広がった。
 嫉妬だ。
 醜い感情だと思うのに、沙弥に嫉妬する自分を止められない。
――私はもう、沙弥の恋を応援するなんて出来ないんだ。
 はっきりとそう自覚して、目眩がしそうになった。

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