よりによって人生で最悪な時に再会した初恋の人がじれじれの皇太子だったなんておまけに私死んだことになってましたから
5
私の意識は一気に現実に戻る。
あの時の屈強な男性が、今目の前にいるのだ。
私が初めてときめいたその張本人が…
もう、どうしたらいいの?
彼の瞳はあの時と同じように、美しく漆黒で星が光り輝いている。
思わずため息が漏れた。
ときめきを感じるとともにわたしはやっぱり胸の痛みも感じた。
何だろう?このざわつく感じは……
胸騒ぎ?
これは‥‥まさか、カロリーナの死にかかわりがあるとか?
でもこの人カロリーナが死んだこと知らないみたいだし?
取りあえず何もなかったふりをするしか…
「失礼していいだろうか?」
「あっ、私ったら…あの、あの時はありがとうございました。おかげで助かりました。あっ、あのあなたはエストラードの…」
私はお礼を言うがいきなり言葉に詰まる。
だって、エストラードの王族の事など知るはずもないから。
「とんでもありません。当り前のことをしただけですから…あの、それから俺は……まあ確かに王家の血は受け継いではいますが、今はただの騎士隊の人間ですから、どうかアルベルトと呼んでください」
彼は少し顔を赤らめた。
それを隠すように部屋の中にどかどかと入って来ると、その輝く銀色のマントを勢いよくはいだ。
いきなりその場が舞台のライトを浴びた世界みたいになった。
私はうっとりとそれに見入った。
だが驚くことは立て続けに起こる。
そこに現れたのは真っ白い騎士隊の隊服。腰には剣がソードホルダーに差し込まれている。
ピタリとした上着は彼の筋肉を引き立たせて美しいシルエットを描いていて、きれいに磨かれていたであろう黒いブーツは、今や泥にまみれて見る影もなかったが、それでもアルベルトが身に着けると様になっていた。
「はぁ…」
つい、知らない間に大きなため息が出る。
「すまん、何か気に障ったのだろうか?」
彼が悪い事でもしたかと声を上げた。
仏頂面の顔がさらに緊張している。
「いえ、何も…お気になさらず」
緊張しているのは私の方ですから…
もうどうしていいものか…
ううん、やっぱりさっさと追い返した方がいいわ。
だってカロリーナを訪ねて来たのだから、でもどうして?
もしかしたらカロリーナが殺されたことと関係あるかも?
そうだとしたら彼は何か知ってるかもしれないのだ。
「ゴホッゴホッ。コホッコホッ」
突然、アルベルトが咳をし始めた。
うわっ。やっぱり。ここって埃っぽいから。
ここ数日掃除などする気も起きなくて、きっと埃が舞ってしまったのだと慌てて窓を開け放つ。
「すみません。そうだ。今、喉に良いハーブティーでも煎れますから」
私は急いでキッチンに行くとお茶の用意を始める。
キッチンとリビングは突き抜けで間にはダイニングテーブルがある。
オオバコ、ヨモギこの二つをブレンドして茶葉をひとつかみポットに入れる。
ポットのお湯を注ぎながらこの状況にそわそわと戸惑う。
「カロリーナ殿それは申し訳ない。わたしは自分の咳止め薬を持っておるのでお構いなく」
彼がそう断りを入れて水筒を取り出してごくごく飲み始めた。
「そうでしたね。でも、暖かい飲み物はまた別ですよ。とにかく座って下さい」
余計なことを言った。
彼は自分の飲み物を持参しているのに。
私はマントも取って、前面に晒されている彼の顔を真正面から見てしまった。
うっ!破壊力半端ない。
おまけに彼にはカロリーナだと思われている。
まあ、状況がよくわからないから、この際それでもいいかとも思うが…
真正面から見たアルベルトは、まさに神話にでも出てくるような彫の深い顔立ちで、きりりと整い優雅にカーブした眉、その下にはあのとんでもなく煌めく瞳が居座っており、唇は今まさに飲み物を飲んだ後、拭う仕草をしたのに艶っぽく濡れていて、男の色香を漂わせていた。
さらに!その周りをオーラのような金色の美しい髪が取り巻いている。
まさに美の化身!
ただし無愛想な人だ。
だけどへらへら媚を売るようなタイプよりもずっと好ましく思ってしまう。
まさに私好みの…と思った瞬間。
目の前が業火に焼かれたように燃え盛る。
まぁ…私とは大違いだわ。
思わずくしゃくしゃのままの髪をかぶっていたマントの中に押し込んだ。
泣きはらした目は隠しようもなく、急いで汲んである水がめからひしゃくで水をすくって顔を洗う。
今さら?
彼にはわたしがカロリーナだと思われてるんだし、120歳にしては美しいと言っていたし…
変な自信に何とか落ち着きを取り戻して、ハーブティーを入れたポットとカップをトレイに乗せて運ぶ。
ついでに残りものだけどカップケーキも。
やっている事とほんとにやるべき事のギャップに脳は混乱しているが、取りあえずお茶を飲もう。
もはや彼のためのお茶ではなくなっていた。
あっ!
「すみません。そこのテーブルの上のものをどけてもらえます?」
テーブルの上には食べかけの固くなったパンや飲みかけのカップ、おまけに泣いて使った時のくしゃくしゃになったハンカチまでが散乱したままだった。
「い、いつもはこんなに散らかっていないんですよ。ちょっと取り込んでいたので」
とにかくここ数日は何もする気が起きなくて、まあ当然の話だけど。
愛するカロリーナが亡くなったのだから。
おまけにここを去らなければならないのだから…
「いえ、こちらこそ、お忙しいところ申し訳ありません」
アルベルトは申し訳なさそうに言ってテーブルを片付けている。
いえ、それはあなたのせいではないんです。と心の中でつぶやく。
こんな事をしている場合じゃないのでは?
彼がカロリーナを殺したんじゃないの?
いやいや、そんなはずは…だって彼からはそんな気配すら全く感じないし。
そう思った瞬間、なぜかふっと安堵する。
私は彼がそんな人であるはずがないとどこかで思いたかったに違いない。
何の根拠もないのに。
まったく……
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