よりによって人生で最悪な時に再会した初恋の人がじれじれの皇太子だったなんておまけに私死んだことになってましたから
1
「失礼する。ここは魔女カロリーナ殿のお宅とお見受けするが…?」
ある日の午後の事だった。その男がやって来たのは。
この辺りはそうでなくても茂った木々のせいで昼間でも薄暗いというのに、家の中にはびっしりとカーテンがひかれ、どんな光たりとも入れたくないとばかりに真っ暗だ。
その部屋の真ん中で私はびくりとなった。
カロリーナが亡くなったばかりでまだ心の整理もついていないというのに一体誰だろう?
そっと窓に近づきカーテンの端をめくって誰かを確かめる。
なじみの薬売りではないことは確かだと思ったが顔まではあいにくはっきりとはわからない。
薬売りではないと思ったのは薬売りは月のはじめの頃に来ると決まっていたからだ。
それにお客の予定もなかった。
お客は必ずここに来る前に話があるからだ。
カロリーナの作る薬は評判が良かった。それは風邪の薬や熱を冷ます薬、頭痛や腹痛などが主だったが、時には特別な薬を買いに来る人もあった。
カロリーナはとても優秀な魔女だった。
でも私はまだまだ修行中の魔女だった。いえ、魔女でもない。私は力が使えないのだから。
私は生まれた時からカロリーナとずっと一緒に暮らしてきた。
もう19歳になったのよ。もう何でも出来るわ。
カロリーナためならなんだってしようと思っていたのに。
でもカロリーナは…120歳でとうとう死んでしまったわ。
それもあんな残酷な殺され方をして…
またあの時の事が頭をよぎった。
「いや!カロリーナ。私を一人にしないで…」
私の手は知らない間にカロリーナの手を握り締める。
「シャルロット…私はもうだめ。まだあなたを残して死ぬつもりはなかったのに……ああ…どうして……また、あいつらのために…」
カロリーナはぐったりとなった体で力なく言った。
「あいつらって?どういうことなの?カロリーナしっかりして…」
カロリーナの胸からはドクドクと真っ赤な血が流れだして、支えているシャルロットの服を赤く染めていく。
おまけに傷は胸だけでなくあちこちにあった。
きっとカロリーナは、襲われても相手と戦って…
抵抗したのだろうと思う傷が胸を締め付ける。
ああ…どうすれば…神様。
彼女の腕にも顔にも切り傷が付いていてあちこちからの出血がひどい。
私は必死で出血するカロリーナの胸を押さえつけている。
どうしてこんな事に?
私には理由もわからない。
泥棒?ううん、泥棒ならここまでひどい事をするはずないもの。
私たちが魔女と知って敬虔なイマール教徒が?
イマール教徒は魔女が悪魔の手先だとすごく嫌っている。
街で出会えば睨まれたり、汚い言葉を投げつけてくるけど、向こうから手を出されたことは一度だってない。
「シャルロト…ああ…私はもう神に召される時が来たみたい…あの国に関わるつもりなんかなかったのに、森で静かに暮らしていこうとした…なのに…」
カロリーナが力なさげに言った。
カロリーナは自分を襲ったのがエストラード皇国の闇隊という暗殺集団だと分かった。長い間秘密機関にいたから気づいたのだ。でもそんな事を言えばシャルロットはどれだけ苦しむか知れない。彼女にはシャルロットの幸せだけがたった一つの願いだった。だからシャルロットを守ることが今彼女のやるべきことだった。
そう、命の尽きる前に…
「何言ってるの?カロリーナ。そんなの…」
私は動揺して虫の息のカロリーナが何が言いたいのかさえ分からない。
押さえつけている胸の周りは薄気味悪いほど血で赤く染まっている。
流れ出る血液を抑えた手はどうしようもないほど震えて脳はますますパニックに陥る。
「シャルロット…ああ…シャルロット…」
カロリーナは目を閉じるといきなりぱっと目を見開いた。
その瞳から涙が零れ落ちた。
「カロリーナ!もう、話はいいから動かないで…手当てしなきゃ…」
カロリーナは立ち上がろうとするわたしを引き留める。
「もしかしたらあなたもあいつらに…ああ…シャルロット…」
苦しい息の下でカロリーナは募る気持ちがこらえきれないとばかりに身を震わせた。
「ああ…カロリーナ…私を一人にしないで…」
カロリーナは、はぁはぁ苦しそうに息をしながら、それでもシャルロットに言った。
「ううん、大丈夫。あなたはもう充分一人でもやって行ける。わたしが教えた事は覚えてるでしょう?」
「ええ、カロリーナが教えてくれた事ならなんだって覚えてるわ」
「あっ、そうだ。封印を…」
カロリーナがいきなり私に手をかざして呪文を唱えた。
「ハルチウムラウト・ゾラクス・イシュビック!」
首にかけていた指輪が光を放つ。この指輪は母の形見だった。
「ああ…指輪が…」
私は光の輪に包まれた。
カロリーナが震える手でわたしの杏子の花びら色の淡いピンクの髪をそっと撫ぜる。
「ああ…シャルロッ、トっ‥‥これで封印は解けたわ。あなたは魔法を使えるようになったわ…でも最初はゆっくりね。いきなりたくさん力を使うと倒れるわ」
カロリーナがまた大きく息を吸い込む。
「でも、どうやって?」
そしてゆっくり私に話しかける。
「いい、よく聞いて。力を使うときはお腹に力を込めて念じるの。頭の中で何をするか念じて手のひらをかざしてそこに力を集中させるみたいに。簡単でしょう?」
「そんなの今話さなくても…手当てが先よ」
「もういいのシャルロット。私が死んだらすぐにここは引き払うのよ。そしてこの国のクレティオス帝のところに行って。あなたは…アドリエーヌはクレティオス帝の娘。あなたは孫娘になるの。私が死んだと知れば彼はきっとあなたを助けてくれるわ。そしてあなたは幸せになって…アドリエーヌは…あなたの幸せだけを願っていた…」
そこまで話すとカロリーナはまた苦しそうに顔を歪めた。
「いやよ。カロリーナ。死ぬなんて言わないで!」
「大丈夫、あなたの魔力は素晴らしいの。あなたはその力を正しく使って、治癒魔法や浄化魔法。それに防御にも使えるわ。そしてみんなの為に役立てて…」
「そんなの…」
私はどうしていいかわからなくなる。
「おねが…い、シャルロッ…ト。私が死んでも悲しまないで。これから強く生きて行くのよ。元気を出して…はぁぁぁ。はぁぁぁぁ…。シャルロッ…ト。私はいつだっ…て、はぁ、はぁ、あなたのそばにいるわ。はぁ、はぁ、はぁ……あなたなら出来る。はぁ、はぁ、はぁ……あなたにはその力が、あ、るのだから……」
カロリーナは苦しみながらわたしの手を握りしめながら。
最後まで私の事を心配しながら…カロリーナはくたりとなった。
「カロリーナ!カロリーナ!…いやぁぁぁぁ。死なないで…カロリーナー…」
それだけ言うとカロリーナは二度と目を開けることはなかった。
私は手をかざした。カロリーナ入ったようにお腹に力を込めて頭の中で魔力を念じる。
カロリーナに手のひらをかざして何度も念じた。
でも、そのかいもなくカロリーナは死んでしまった。
カロリーナは殺された。カロリーナをこんな目に遭わせた奴らが憎い。私の心は憎悪で膨れ上がった。
カロリーナはこの力を人のために使いなさいって言ったけど、そんな事、私にできるかどうかもわからない。
カロリーナあなたがいない世界が存在するなんて信じたくもない。
だって今まで散々力を使うなって言ったじゃない!
おまけに私がこの国の王の孫娘だなんて…そんな事知らなかった。
グズグズになった私の心は滅茶苦茶だった。
私は何とかカロリーナの遺体を家の裏の山に荼毘に付した。
だが、カロリーナを失った悲しみは途方もないほど私の気力を奪い。この数日悲しみに浸っていたのだ。
一体これからどうすればいいのだろうと……
でもカロリーナは正しい良き魔女だった。
でもカロリーナを殺した相手を私は絶対に許さない。誰に殺されたか絶対に突き止めて必ずカロリーナの無念を晴らしたい。
でもどうすればいいの?
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