臨魁学園物語――転校生とガチ恋をして、二人で幸せになる話――
エピローグ そして、また物語は続いていく。
それから年月が経ち、8年が経った。あの高校時代は懐かしく、つくづく若かったんだなあと、自覚する。
しかし、その当時の気持ちは、それから8年経った今も変わらない。
一緒に臨魁大学で過ごした日々の中でも、色々いいこと、悪いことがあったけど、それは今となっては貴重な経験になっている。
教師になって早四年が経ち、色々見えてきて自分が教師でいていいのか?という疑問が僕を襲う。確かに、教えるべきことは教えることができ、子供達にも慕われているとは思う。
しかし、何かが足りない様な気がしてならない。その「何か」が、どんなに考えてもわからない。わからなくて、どうしようもない不安に襲われる。
でも、そんな不安に陥るときは、僕のとなりで励ましてくれる女性がいる。
更紗――。
彼女がいなかったら、今ごろ教師を辞めていたかもしれない。
そして、2年半前に生まれた、新しい命。
紬――。
この娘も、今の僕の支えになっている。
さらに、僕を慕ってくれる生徒や、手助けしてくれる先輩教諭の方々。
「僕は僕のままでいてくれればいいんだよ」と言ってくれる、ありがたい人達に囲まれて、教師という職業を続けている。いつまで、僕は僕のままでいられるのだろう?
僕らは今、僕の実家からそう離れていない親戚の別荘で親子三人、幸せな生活を送っている。綸子ちゃんも社会人になり、大浦君とも順調。まだお父さんと一緒にいるのだけど、もうすぐ…と言うのも聞いている。
更紗のお父さんは、僕を本当に信頼して任せてくれている。
「パパ~」
紬が僕に飛びついてきた。2歳半になり少ししゃべるようになってきた。僕は彼女をやさしく抱き上げて、僕の太股の上にすわらせた。僕は、紬が愛しい。それと同じくらいいや、それ以上に更紗のことを愛している。更紗とこの子が不幸にならないように、僕は責任をとらなくてはならない。
この娘もいつかは彼氏ができ、結婚するだろう。そのとき、僕は笑顔で承認してあげられるだろうか?
相手の男を判断して。
更紗のお父さんのように、全面的に信頼できる男性を、綾音は見つけてくれるだろうか?
そういう意味でも、更紗のお父さんは僕の人生の師となっている。
<HR>
大学に入ってからも、慎吾や矢野くんに悪意ある男たちから守られていたけど、本当に乱暴される寸前のこともあった。
その時は、慎吾が本当にそいつを殺してしまうんじゃないかってくらい怒り狂っていたっけ。そんな慎吾を矢野くんが何とかなだめたんだけど、そのあとが凄まじかった。慎吾、矢野くん、夢衣ちゃんがそれぞれの人脈を生かして私に乱暴しようとした人たちをSNSと警察、弁護士を駆使して糾弾し、翌週にはその人達は大学からいなくなっていた。
私はただ怖くて膝を抱えることしかできなかったけど、みんなのおかげでその恐怖に打ち勝ってすぐに大学に復帰できた。本当に、みんなには頭が上がらない。
でも、悪いことばかりじゃなくて、友人もさらに増えたし、楽しい生活ができた。
そして、大学卒業後、すぐに慎吾と籍を入れて――結婚式と新婚旅行は半年待ったけど――私は県立特別支援学校の教員となった。
でも、配属された学校は病弱じゃなくて、知的障がいがメインの学校で体力勝負だった。
生徒と上手く話がかみ合わないこともあるからそれはそれで厳しい。でも、上手く話がかみ合ってお互いに理解ができるとそれは嬉しい。
指導教官も2児の母で、すでに結婚している私に厳しくも優しい指導をしてくれた。この先生の元で学ぶことができてよかったと心から思っている。
それから1年後、私のお腹に子どもができて、8ヶ月後には産休に入った。
子どもの名前は、慎吾が決めてくれた。
「やっぱり、更紗や綸子ちゃんに通じる名前にしたかったのと、漢字を変えると更紗の両親が考えていたことにも通じるんだ」
って、「紬」って、名付けたの。漢字を変えれば、「紡ぎ」…。
「人生、いろんな事があるから、紬には自分の人生をきちんと紡いで欲しい」
って、すごく真剣な表情で私に伝えてくれた。
すごく良い名前と思って、そうした。お父さんにそのことを伝えると、最近涙腺のゆるいお父さんは、大号泣して私も慎吾も慌ててしまったのは良い思い出。
そして何ごともなく、勿論とっても痛かったけど、紬が産声を上げてくれて、本当に愛おしいって思った。
それから2年。慎吾も仕事が軌道に乗ってきて、私も仕事に復帰して、パソコンの仕様が変わって浦島太郎状態で混乱しながらも、何とか仕事ができている。
私は幸せをかみしめながら、日々を過ごしている――。
<HR>
そして10月初旬のある日の朝、僕は臨魁学園の教壇に立った。
『教職コース』と言う懐かしい、変わっていない教室に僕は入ろうとして、
「ちょっとだけ、そこで待っていてくれるかな?すぐに呼ぶから」
と、教室の外に一人、女の子を待たせる。
「起立、おはようございます」
室長の挨拶に、僕は挨拶を返す。
「はい、おはようみんな」
「着席」
去年から私服登校になり、いろとり取りの私服を着ている生徒たちが着席したのを確認して、僕は話し始めた。
「今日は授業参観週間と言うことで、高等部だけでなく中学部の先生が授業を見に来る予定です。でも、そんな気張らなくて良いからね。平常心平常心」
「って、先生が緊張してません?」
級長の吉良君が僕をからかうと、教室がどっと沸く。僕も思わず笑いながら、
「吉良君よ、ちょっときついなそれ。まぁ、それはそうとして、だ」
とそう言いながら、僕は一度言葉を切って教室の外を見やった。
不安そうな顔をした可愛い女の子が、もじもじしていた。
(更紗も、初めはこんな感じだったかな・・・いや、違うな・・・)
そう思って、教室に目を戻す。
「ちょいみんな黙ってくれ。今日は、みんなに新しい仲間を紹介します。どうぞ、入ってきなさい」
僕は教室の外にいる女の子を呼ぶ。ピンクのブレザーを着た、腰位まであるきれいな黒髪の、可愛い女の子の登場に教室中が色めきだった。
その中で一人、級長の吉良君の目が、明らかにハートマークを浮かべていることに気付いた。
(うん、積極性のあるひょうきんでいい子だし、この子を導いてくれるだろう)
僕はある算段を思いついた。
「さ、自己紹介をして」
僕は転校生に自己紹介を促した。
「あ、は、はい」
明らかに緊張した表情で彼女はチョークをとり、自分の名前を書き込んだ。更紗の時とは違い、何とか後方も見えるような小さい字。でも、とても見やすい綺麗な字だ。
そしてみんなの方を向いて、緊張を隠さずにしゃべり出した。
「あ、あの、わ、私は田名部沙羅といいます。こ、ここに来る前は、東京にいました。こ、これから、よ、宜しく、お願いします」
でも、しゃべったのはそれだけ。すぐに黙ってしまった。更紗とは違って、おとなしい娘だ。うん、やっぱり、吉良君が適任だろう。
「いいのかな?」
田名部さんはこくんとうなずいたまま、顔を赤く染めていた。
「それじゃあ、田名部さんに机を持ってきて欲しいのだけど・・・吉良君、級長としてお願いできるかな?」
僕は、一番後ろの彼に頼んだ。彼は、
「わかりました!」と喜び勇んで教室を飛び出した。
教室中に、どっと笑いが起こる。それを僕は微笑みながら見ていた。
(また、新しい恋物語を…側で見守っていこう。二人の未来に幸あれ!)
そう祈りつつ――。
臨魁学園物語――了
しかし、その当時の気持ちは、それから8年経った今も変わらない。
一緒に臨魁大学で過ごした日々の中でも、色々いいこと、悪いことがあったけど、それは今となっては貴重な経験になっている。
教師になって早四年が経ち、色々見えてきて自分が教師でいていいのか?という疑問が僕を襲う。確かに、教えるべきことは教えることができ、子供達にも慕われているとは思う。
しかし、何かが足りない様な気がしてならない。その「何か」が、どんなに考えてもわからない。わからなくて、どうしようもない不安に襲われる。
でも、そんな不安に陥るときは、僕のとなりで励ましてくれる女性がいる。
更紗――。
彼女がいなかったら、今ごろ教師を辞めていたかもしれない。
そして、2年半前に生まれた、新しい命。
紬――。
この娘も、今の僕の支えになっている。
さらに、僕を慕ってくれる生徒や、手助けしてくれる先輩教諭の方々。
「僕は僕のままでいてくれればいいんだよ」と言ってくれる、ありがたい人達に囲まれて、教師という職業を続けている。いつまで、僕は僕のままでいられるのだろう?
僕らは今、僕の実家からそう離れていない親戚の別荘で親子三人、幸せな生活を送っている。綸子ちゃんも社会人になり、大浦君とも順調。まだお父さんと一緒にいるのだけど、もうすぐ…と言うのも聞いている。
更紗のお父さんは、僕を本当に信頼して任せてくれている。
「パパ~」
紬が僕に飛びついてきた。2歳半になり少ししゃべるようになってきた。僕は彼女をやさしく抱き上げて、僕の太股の上にすわらせた。僕は、紬が愛しい。それと同じくらいいや、それ以上に更紗のことを愛している。更紗とこの子が不幸にならないように、僕は責任をとらなくてはならない。
この娘もいつかは彼氏ができ、結婚するだろう。そのとき、僕は笑顔で承認してあげられるだろうか?
相手の男を判断して。
更紗のお父さんのように、全面的に信頼できる男性を、綾音は見つけてくれるだろうか?
そういう意味でも、更紗のお父さんは僕の人生の師となっている。
<HR>
大学に入ってからも、慎吾や矢野くんに悪意ある男たちから守られていたけど、本当に乱暴される寸前のこともあった。
その時は、慎吾が本当にそいつを殺してしまうんじゃないかってくらい怒り狂っていたっけ。そんな慎吾を矢野くんが何とかなだめたんだけど、そのあとが凄まじかった。慎吾、矢野くん、夢衣ちゃんがそれぞれの人脈を生かして私に乱暴しようとした人たちをSNSと警察、弁護士を駆使して糾弾し、翌週にはその人達は大学からいなくなっていた。
私はただ怖くて膝を抱えることしかできなかったけど、みんなのおかげでその恐怖に打ち勝ってすぐに大学に復帰できた。本当に、みんなには頭が上がらない。
でも、悪いことばかりじゃなくて、友人もさらに増えたし、楽しい生活ができた。
そして、大学卒業後、すぐに慎吾と籍を入れて――結婚式と新婚旅行は半年待ったけど――私は県立特別支援学校の教員となった。
でも、配属された学校は病弱じゃなくて、知的障がいがメインの学校で体力勝負だった。
生徒と上手く話がかみ合わないこともあるからそれはそれで厳しい。でも、上手く話がかみ合ってお互いに理解ができるとそれは嬉しい。
指導教官も2児の母で、すでに結婚している私に厳しくも優しい指導をしてくれた。この先生の元で学ぶことができてよかったと心から思っている。
それから1年後、私のお腹に子どもができて、8ヶ月後には産休に入った。
子どもの名前は、慎吾が決めてくれた。
「やっぱり、更紗や綸子ちゃんに通じる名前にしたかったのと、漢字を変えると更紗の両親が考えていたことにも通じるんだ」
って、「紬」って、名付けたの。漢字を変えれば、「紡ぎ」…。
「人生、いろんな事があるから、紬には自分の人生をきちんと紡いで欲しい」
って、すごく真剣な表情で私に伝えてくれた。
すごく良い名前と思って、そうした。お父さんにそのことを伝えると、最近涙腺のゆるいお父さんは、大号泣して私も慎吾も慌ててしまったのは良い思い出。
そして何ごともなく、勿論とっても痛かったけど、紬が産声を上げてくれて、本当に愛おしいって思った。
それから2年。慎吾も仕事が軌道に乗ってきて、私も仕事に復帰して、パソコンの仕様が変わって浦島太郎状態で混乱しながらも、何とか仕事ができている。
私は幸せをかみしめながら、日々を過ごしている――。
<HR>
そして10月初旬のある日の朝、僕は臨魁学園の教壇に立った。
『教職コース』と言う懐かしい、変わっていない教室に僕は入ろうとして、
「ちょっとだけ、そこで待っていてくれるかな?すぐに呼ぶから」
と、教室の外に一人、女の子を待たせる。
「起立、おはようございます」
室長の挨拶に、僕は挨拶を返す。
「はい、おはようみんな」
「着席」
去年から私服登校になり、いろとり取りの私服を着ている生徒たちが着席したのを確認して、僕は話し始めた。
「今日は授業参観週間と言うことで、高等部だけでなく中学部の先生が授業を見に来る予定です。でも、そんな気張らなくて良いからね。平常心平常心」
「って、先生が緊張してません?」
級長の吉良君が僕をからかうと、教室がどっと沸く。僕も思わず笑いながら、
「吉良君よ、ちょっときついなそれ。まぁ、それはそうとして、だ」
とそう言いながら、僕は一度言葉を切って教室の外を見やった。
不安そうな顔をした可愛い女の子が、もじもじしていた。
(更紗も、初めはこんな感じだったかな・・・いや、違うな・・・)
そう思って、教室に目を戻す。
「ちょいみんな黙ってくれ。今日は、みんなに新しい仲間を紹介します。どうぞ、入ってきなさい」
僕は教室の外にいる女の子を呼ぶ。ピンクのブレザーを着た、腰位まであるきれいな黒髪の、可愛い女の子の登場に教室中が色めきだった。
その中で一人、級長の吉良君の目が、明らかにハートマークを浮かべていることに気付いた。
(うん、積極性のあるひょうきんでいい子だし、この子を導いてくれるだろう)
僕はある算段を思いついた。
「さ、自己紹介をして」
僕は転校生に自己紹介を促した。
「あ、は、はい」
明らかに緊張した表情で彼女はチョークをとり、自分の名前を書き込んだ。更紗の時とは違い、何とか後方も見えるような小さい字。でも、とても見やすい綺麗な字だ。
そしてみんなの方を向いて、緊張を隠さずにしゃべり出した。
「あ、あの、わ、私は田名部沙羅といいます。こ、ここに来る前は、東京にいました。こ、これから、よ、宜しく、お願いします」
でも、しゃべったのはそれだけ。すぐに黙ってしまった。更紗とは違って、おとなしい娘だ。うん、やっぱり、吉良君が適任だろう。
「いいのかな?」
田名部さんはこくんとうなずいたまま、顔を赤く染めていた。
「それじゃあ、田名部さんに机を持ってきて欲しいのだけど・・・吉良君、級長としてお願いできるかな?」
僕は、一番後ろの彼に頼んだ。彼は、
「わかりました!」と喜び勇んで教室を飛び出した。
教室中に、どっと笑いが起こる。それを僕は微笑みながら見ていた。
(また、新しい恋物語を…側で見守っていこう。二人の未来に幸あれ!)
そう祈りつつ――。
臨魁学園物語――了

コメント
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コメントを書く鳥原波
ありがとうございます!励ましの声をいただけたから、完結までやっていけました!
綺麗に終わりたいという目標が果たせて、本当に良かったです。
今後は、序盤の話に修正を加え、「外伝」と題してリクエストのあった話などを少しずつかけていければと思います!
ノベルバユーザー617419
完結おめでとうございます☆
紬ちゃんの名前で( ゚Д゚)ツナがったぁぁ~!ってテンション上げ上げで感動しました♪
・魅力あるキャラの育成、おつかれさまです
・みんなが「幸せ」を目指す描写が、嬉しかったです
・困難に立ち向かう展開がを読み、私も(リアルで)助けられました
ほんとぉ~にキレイな作品をありがとう☆