臨魁学園物語――転校生とガチ恋をして、二人で幸せになる話――

鳥原波

18章 76週~最終週 卒業、そして、新たな一歩

 更紗が共通テスト追試験を受けた翌日、今度は臨魁大学の前期入試が行われた。
 更紗は共テの方に集中していたから、どれだけできるんだろうって内心心配していたみたいだけど、思っているよりも易しい問題が多かったって言っていた。
「確かに難しいのは難しくて答えられなかったんだけどね、でも全体をおしなべて見てみたら、極端に難しくはなかったなって思うわ」
とは更紗本人の弁だ。
 かくいう僕も少し不安はあったけど、問題用紙を広げて10分もするとかなり簡単に思えた。
 単純計算でミスをしないように丁寧に計算しつつ、きちんとマークシートの回答欄に文字数が一致するか判断していった。
 試験時間は100分あったのだけど、実際70分程度で解き終わって、残り30分は見直しタイムにすることができた。
 数学に関しては、ほぼ完璧な出来だったと思う。
 でもね、英語はやっぱり鬼門で、全然ではないんだけど6割程度しか自信のある答えを書くことができなかった。残り3割はなんとか埋めた感じだけど、おそらく間違ってる…。
 だから、正直合格できるとは思っているんだけど、確実に!と言う自信は持てなかった。
 更紗も国語が引っかかったみたいでこちらも自信はないと言っていたし、1週間後にある合格発表に向けて緊張しつつも、2月の中旬にある臨魁大学の中期試験に目を向けていくことにした。この試験は1科目だけだけど、共テの成績とのドッキング方式だ。とは言え、共テはすべての科目を合計500点に圧縮するから差が狭まる。それだけに、試験でどれだけ点数が取れるかが勝敗の分かれ道。僕は数学、更紗は英語をそれぞれ選択しているから、お互い得意な土俵で相撲を取る訳で、でもそれは、僕たちが入ろうとしている道ならば、みんな同じことを考えているからそれこそ8割以上は必須なんだろうと思う。
「ま、1つ終わったから精神的にはちょっと楽になったかな」
と前期試験が終わった帰路に僕が言うと更紗は、
「そうね。追試験の次の日で結構ハードモードだったけど、何とかなったから素直に喜ぶしかないかなって思うわ」
と言って笑った。
 それからというもの、気分がなかなか晴れない日が続く。勿論、試験の結果が気になるからにほかなく、僕も更紗も、ちょっと緊張した表情をしているみたいだ。
 それは、幸弘と夢衣から言われて初めて気づいた。
「おいおい、お二人さんよ。ちょっといくら何でも表情暗すぎじゃね?」
「そうですね。ちょっと暗い…と言うか、何か不安でもあるのですか?」
 そして僕たちはハッとする。
「確かに…」「いくら何でも気にしすぎてたかな…」
と、僕たちは呟くと、二人に向かって礼を言う。
「そうだわ。過ぎたことにこだわっているのかも。後悔している訳じゃないけど、できなかったところに目が行ってしまって、受かるか心配になっていたわ。ありがと、夢衣ちゃん」
「同感だよ。今回ダメでも次が…というか、次がより自信のある方式だから、そこに全力投球すればいいだけの話だもんな。サンキュー、幸弘」
「いいってことよ。確かに、俺もお前の立場だったら焦っていたかもしれないからな。気持ちは分からなくもない。夢衣だって、本当は同じ気持ちだとは思うんだけど」
 幸弘はそう言いつつ夢衣を見る。
「そうですね。でも、頑張れば結果がついてくることは、お二人のそれまでの努力を見てきて分かります。私はそれに勇気をもらいました。だから、幸弘さんと臨魁大学に入るという一心で頑張った今回の試験に結果について多少自信がなくても慌てずにすべてを受け止めていくつもりなんです」
 そういった夢衣の目は、とても力強かった。そうか…本当に夢衣は強くなったんだなぁと、このときつくづく感じた。

<HR>

 そして、私の入試から2日後は綸子が臨魁学園の高等部入試だった。
 朝はさすがに緊張していて、ガッチガチだったな…。無理もない。自分の人生を左右するかもしれない入学試験を人生で初めて受けるんだから、緊張しない方がおかしい。それも、私や慎吾みたいに、合格する可能性が極めて高いと言われている訳じゃなかったから、結構不安もあると思う。
 そんな綸子に私は朝食を準備して、一緒に食べ始める。お父さんも一緒だ。
「綸子、大丈夫だよ、心配したところで始まらないから、開き直るだけだよ」
と声をかけると、少し表情を緩めてくれるのだけど、一呼吸つくと、「はぁ~」と大きいため息が彼女の口から漏れる。
「緊張するよなぁ、分かるよ。父さんだって、高校入試は勿論だけど、大学入試も、就職の採用試験も、何回受けても緊張したものさ。試験がない今でも、営業しているとちゃんと話を分かって契約してくれるか、会社に不利にならないかと考えてしまって緊張する。だから、その重圧をいかに受け流すかが大事なんだと思うよ」
 お父さんもそう言うと、綸子はこくんと頷く。
「どうすれば受け流せるかなぁ…」
 綸子のつぶやきに、私はそうだ、と手をポンと叩く。
「大浦くんも臨魁受けることになったんでしょ?二人で仲良く登校する姿を思い浮かべてみたら?」
 そう言うと、綸子の瞳は少し宙をさまよってから、顔は赤くなっていく。
「うん、照れる。お姉ちゃんと慎吾さんもそんな感じで付き合っていたんだよね?そんな風にできたら良いし、そうなりたいんだよね。そのためには、ここで受からないといけいないんだね。うん、頑張る!」
 恋はやっぱりパワーを与えてくれるんだなって、再度確認する。私も、慎吾と大学行ったり、バイトしたり、デートしたりする姿を想像しながら、最近はベッドの上で転がりながらも次の入試に備えているから、気持ちは同じだ。
 そうそう、大浦くんは臨魁はお金の面で厳しいと言っていたけど、特別奨学生制度があることを知って、それを狙ってみるとのことだった。外部進学生の中で上位2%に入れたら、入学料や授業料は勿論のこと、制服やタブレット端末など、学校で指定された購入物ですら免除となるそうで、いったんは支払うことになるけど、その分は戻ってくるらしい。私の場合は中途転入だったからそんな制度はなかったけど、1年で入学する際にはそんな制度もあるから、大浦くんも挑戦する気になったと綸子が言っていた。
 だから、二人で臨魁学園高等部の校門をくぐる可能性は十分にあると言うことは綸子にも大きなモチベーションになっているんだと思う。
「それじゃ、行ってくるね」
 入試会場は高等部の校舎だから、今日と明日は、学校がない。綸子はお父さんが送って行くから、二人を玄関まで見送る。
「お父さん、気をつけてね」「分かっているよ」
「綸子、普段通りにね、リラックス」「うん、ありがとうお姉ちゃん」
 そして、玄関のドアがパタンと閉まる。私は、朝食の後始末をしてから、もう一回ベッドに横たわった。30分くらい寝てよっかな…って気持ちだった。
 で、目を覚ますと時計の針は10時を指していてびっくり。2時間近く寝てしまっていた。
 …確かに、追い込みだからって1つめの試験が終わってからも英語にめちゃ集中していたから疲れが溜まっていたのかもしれない。この2日間は疲れも取りながらやるべきことをしっかりやっていく時間にすれば良いかなと思っていると、スマホが着信を告げる。
「…慎吾からだ。今から図書館に行かないか…って、もちろんOKだね」
 私は誘ってくれたことでつい嬉しくなって即「良いよ~10時半に図書館待ち合わせで良い?」と返事をした。慎吾からもすぐ、「OK。お互い気をつけていこう」と返信があったのを確認して、すぐに着替える。
 そして、いつもの場所で慎吾と合流し図書館へ向かう。
 入り口付近がガラス張りで、天井までが7,8mある建物は、開放感があるけど、その分書架も大きくて圧倒される。
 学習スペースも100人単位で確保されており、今日も平日なんだけど、私達と同じように受験生が所狭しと勉強をしていた。
 同性同士で2~4人の集団だったり、私と慎吾みたいに付き合っているだろう男女ペアだったりがいくつか机を占領している中で、丁度二人分空いているところを見つけて、そこにまずはカバンを置いてから座る。
「2時間コースだね。終わったら、僕の家でお昼食べよう」
 慎吾がそう提案する。私は「うん、お願い」と頷く。
 図書館からは、慎吾の家の方が近くて、多分お母さんも慎吾に私と一緒にご飯を食べるつもりでいたんだと思う。
 次の試験は、お互いの得意科目のみのものだから、お互いに質問することなく、自分の勉強に集中できる。
 それじゃあ、一緒に勉強する意味がないのでは、と思ったりもしたけど実際、側にパートナーがいるというのは、それだけで心強くて、家で勉強するよりも遙かに捗るような気がした。
 時には、「どう、調子は?」なんて言い合ったりすることもあるけど、基本的にお互いのことには干渉しない。その分集中できるから、より捗る。
 臨魁の過去問を解いているけれど、傾向はだいたい同じような感じだ。難易度的にも私にとっては丁度良く、前の試験より優しく感じるのは気のせいではない。
(…これで、合否を決めるのなら、ミスをしないようにしなくちゃいけない、ってことだよね)
 そう思いながら問題を解いていくと、慎吾も「あ~くだらないミスしちゃったな…これは用心しないと響く…」って言っていたから、私もそこには同意して、「気をつけようね、お互い」と言うと、慎吾は「ホントだよ。肝に銘じよう」と真剣な表情をする。
 その顔に、私はかっこよさを感じていた。
「?どうしたの?」
 見とれる私を、不思議そうに慎吾が聞いてくる。
「うん、別に~」
と、ちょっとはぐらかすように言って少し視線をそらしたけど、きっと、私の顔は真っ赤だったのだろうなって思う。

 それから勉強を終えた私たちは慎吾の家へ。お昼ご飯をご馳走してもらった。
 とは言え、この日は珍しくお母さんも用事でいなくて私と慎吾の二人…と思ったら、伊緒奈お姉さんもいて、3人で何食べるかとキッチンをごそごそしていたら、袋の即席ラーメンがちょうど3食分あり、冷蔵庫には昨日の残り物だという野菜炒めがあったから、ラーメンにその野菜炒めを乗せようということになった。
「手伝います」
と私が言うと、伊緒奈お姉さんは「うん、お願い」と笑顔で言う。そして慎吾も、「じゃ、僕も丼とお箸くらいは準備するよ」と言ったら、伊緒奈お姉さんは、
「じゃ、慎吾はこの野菜炒めをレンジでチンしてくること~」
と言って、そのまま手渡す。
「何ワット何分?」
と言う慎吾に、「600w2分!」と追撃していた。
 私はスープを丼に開けて、ポットのお湯を注ぐ。そして、お姉さんは沸騰した鍋に3食分の麺をポンポンと入れてゆっくりと混ぜて少しずつほぐしていった。
 待つこと3分、
「更紗ちゃん、水出して~」
と言われて、私はキッチンのシンクの水を出す。それは、ざるに当てずに少し離れたところに出るようにしてと言われていた。
 お姉さんは、水の当たっていないざるにざーっと麺を入れていく。
「水は、流れる熱湯の温度を下げるためね。配管が熱で傷むのを防ぐためなんだって言っていたけど、迷信じゃないかなって思うこともあるんだ」
 お姉さんはおどけて言うけど、それは確かにあるかもって私も思っている。でも、本当に配管が痛むのはいやなので、家でもやっている。
 そして、ざるから丼に入れられた麺の上に、慎吾が温めた野菜炒めを乗せて完成。
 私と慎吾が隣同士でダイニングに座り、私の向かいにお姉さんが座る。
「いただきます」
 できたラーメンは、ゆで加減がちょうど良く、とっても美味しかった。
「この袋麺、美味しいですね。どこのだったっけ?」
 私が言うと、
「あ、これあのドラッグストアで売っているから、今度買いに行ってみたら?」
とお姉さんが教えてくれたけど、そこでお姉さんはニヤッと笑って、
「で、二人はどこまで行っているのかなぁ?」
と、質問してきた。慎吾はそれに「ブッ!」と食べていたラーメンを吹き出す。
「なんなの、慎吾?きったないなぁ」
 お姉さんはカラカラ笑う。どう考えても、からかっている顔だ。
「い、いや姉さん…どこまでって…」
「キスくらいはしてるのかなってさ」
 クロスカウンター気味に帰ってきたお姉さんの言葉に、慎吾は真っ赤になって、
「…それくらいはしてるさ…」
と答える。その声はいつもの慎吾より小さいものだから、
「もう、慎吾。もっと自信持って言いなよ。でも、そこまでです」
と思わず私が突っ込んでからお姉さんに答えると、お姉さんはさらに笑う。
「まぁ、そうとは思ったけど。でも、それ以上進展してないのは二人とも真面目だからだろうね、そうした気持ちは大事に持ってなさいよ。私は色々失敗してるからまだ一人だけどね」
 お姉さんはお姉さんで、何かしらあったのだろうと思う。そんな話の一欠片を私は知りたいけど、敢えて聞かない。
「でも、私はお姉さんのこと大好きですよ。慎吾だってそうだと思います」
 そう言うと、お姉さんは笑って、そしてすぐ真剣な表情になって、
「うん、分かってるよ。だから私は救われてるよ。家族に。だから、みんなに恩返しできると良いと思ってるよ。だから正社員になったし、婚活も始めたんだ」
と私たちに告げてくれた。
「私も幸せになりたいんだ。あなたたちも幸せになるんだよ。約束」
 その目の力に促されるように、お姉さんは小指を出してくる。だから、私も、慎吾も、
「はい、約束します」「ああ」
とお姉さんの小指に自分たちの小指を絡めて、指切りをした。

 翌週になり、合格発表の日。
 前の週の土曜日には、綸子が無事、大浦君と揃って臨魁学園の高等部に合格することができた。大浦君も、狙い通りの特奨生を獲得できたから二人は揃って臨魁に行ける嬉しさを爆発させていた。
「次はお姉ちゃんと慎吾さんの番だよ!」
と綸子から元気に言われて、私たちは気合いを入れ直した。
 合格者は10時発表なので、私たちは特講を休んで図書室にいた。スマホはいつものように、帰る時間までは教室のスマホ棚に入れっぱなしだからタブレット端末を使う必要があり、教室は特講会場だから使えない。勿論1,2年は授業中だし…と思うと図書室くらいしか見るところがなかった。廊下やホールは声が響いてうるさいから、そこでは臨魁大は勿論他大学の合格発表を見ないように指導されていたのもある。
 図書室は、私たちと同じようにタブレットを持った3年生が何人もいて、珍しく少し騒がしい。それについて、今日のこの時間は合格発表と分かっているから、司書の先生も特に何も言ってこなかった。
「部室という手もあったかな?」
 私がそう言うと、慎吾は目を閉じて首を横に振る。
「実はあそこ、電波届かないんだよね。多分だけど、そういうことができないように、WiFi届かないようなジャミングしてるかも。実際、スマホの電波もアンテナ少なかったでしょ?」
 …全然気づかなかったんですけど!そう告げると慎吾は、
「…まぁ、あそこでスマホ使うことはほぼないから、知らなかったのは無理ないかな。さ、もうすぐ10時だよ」
 私は頷いて、タブレットのロックを解除する。
 ブラウザを開いて、ブックマークに入っていた臨魁大学のホームページのトップを表示した。
「…まだだね」「うん、まだ59分だし」
 周りの喧噪も一旦静まりかえり、その場は緊張感に包まれた。
「…10時!」
 慎吾の声に、私たちはブラウザをリロードする。
 リロード前になかった「合格発表」のボタンが表示されている。
 私たちは目を合わせて頷いて、そのボタンをタップし、合格発表のページを見る。
 『臨魁大学 前期記述試験合格者』という題字と、その下にはそれぞれの学部・コースが表示されている。
 『教育学部 文系コース』私の受験番号は、126番。
「103,104,106,110,…」私の心臓の脈拍は高まっていく。
「121,123,125」そこまで読み上げてから、一呼吸置いて、
「126!」
 あった!合格した!私の顔はついほころんでしまう。隣の慎吾の表情は硬い。
「え?」
って心配になり、私のタブレットでも理系コースの番号を確認する。慎吾の番号は、252番。
「249,250,252…」
 って、あるじゃない!私は慎吾の背中をつい軽く叩いてしまう。
「もう、あったならあったって言ってよね!」
と私が言うと、「ちょっとからかいたかっただけだよ」とおどけて言う。
 夢のように抱きつきたかったけど、さすがに場所が場所だけにやめておいた。
 なんにせよ、私たちは合格することができた。この瞬間、私たちの受験勉強は終わりを告げた。
「次は免許だね」
 そう、少しばかり田舎のこの街は、車での移動がメインだから、慎吾も私も、大学に合格したら車の免許を取りに行くことになっている。私の車校代は、まだ手つかずだったお母さんの事故の賠償金から出すとお父さんは言ってくれた。その辺りは、もう自動車学校とは契約済みで、慎吾と一緒に入校日を揃える予定だった。
 それと、車校での授業は、基本的に慎吾と一緒に受けるように配慮をしてもらった。勿論、私に絡んでくる男性から守ってもらうためだ。学科の時間は基本的に一緒にいる。でも、車に乗るときは別々になるから、その時に隙ができそうだけど大丈夫だろう。
「でもその前に、先生に報告だよ」
 慎吾がそう言って席を立つ。「そうだね」と私も席を立って、図書室を出て職員室に向かう。
「失礼します!」
 慎吾が先に職員室に入るけど、その視線の先にある春日先生と、南東先生の席は空っぽになっていた。
「あ…特講か」
 慎吾は念のため春日先生の隣の先生に聞いたけど、やっぱり特講中だった。
「あと15分くらいで終わるから、それまで待っていようか」
 慎吾はそう言って、私に職員室から出ようと促した。
「うん、図書室戻ろうか?」
 私が提案すると、慎吾は「そうだね」と賛同してくれた。
 図書室に戻ってからタブレットで少し時間を使い、10時30分を回ってすぐに職員室に。そして、南東先生と春日先生の姿があったので、すぐさまお互いに声をかけに行った。
「あ、大原、どうだった?」
 私の姿を認めた南東先生が私に確認してきた。
「南東先生、臨魁大学、受かりました!」
 私は満面の笑みを浮かべてそう報告すると、南東先生も笑顔で、
「よかったな!追試験から間がなかったのに、よく頑張ったと思うよ。前から言っていたとは思うけど、うちの学園からはエスカレーターと思われがちだが、実際きちんと点数とっていないと合格できないからな。だからこそ、よく頑張ったと思うよ」
「ありがとうございます!」
「で、これからはどうする?免許取りに行くんだろ?だいたいの子はそうだからな」
 南東先生はそう聞いてくるから、私は頷く。
「はい、そうなんです」
「OK。じゃ、ちょっと渡すものがあるわ」
 南東先生はそう言って自分の机にあるものを取りに行く。
「これこれ。運転免許取得許可証。入校日までに出してくれれば良いから、出してくれな」
「ありがとうございます」
「ま、大学入学までに免許取れよな~。じゃ、俺は次の授業があるから」
 そう言って南東先生は、次の授業に向かっていった。
「慎吾は…?」
 慎吾もちょうど話が終わったところだった。
「終わった?」「うん。運転免許取得許可証もらったけど、更紗は?」「私ももらった~」
 そう言いながら「失礼しました」と挨拶をして職員室を出る。
 そして、それぞれ身内に報告したいけど、あと2時間我慢してからじゃないと帰れないし、やることがない私たちはどうしようかと思ったけど、結局図書室で過ごすことにした。
「そう言えば、ちょっと気になる本があったんだよね。読んでて良い?」
 と、最近話題になっていた本屋大賞の本があるかどうか図書室のパソコンで調べてみたらあったので、書架から持ち出して読むことにした。
「じゃ僕も、積み本になっていたラノベ読むよ。合格していたら読もうと思って3冊ほど持ってきていたんだよね」
 …この流れを読み切っていたような慎吾。
「もしかして、こうなること予想してた?」
と問いかけると慎吾は、「いや、勿論3パターン考えていたよ。どっちも受かった、片一方受かった、両方落ちた、どんな状態でもシミュレーションはしていたからね」とあっけらかんと答えた。だから、
「じゃ、もし片方が落ちていたらどうする気だったの?」
そう聞いたら、
「たぶん、落ちるとすれば僕の方だから、慰めてもらおうと思っていたし、逆でも慰めて、気持ちを吹っ切ってもらおうと思ったよ。両方落ちたらどこかで一緒に少しだけ泣いて、前を向こうとしたよ」
「まったく…呆れた…でも、二人とも合格したからいいけど」
 若干呆れて笑いつつ、私たちはそれぞれの本を読み始めた。

<HR>

 それから午後になって、大原家は綸子ちゃんはまだ学校だし、お父さんも仕事でいないから、学校に出る前に更紗はひとまずライナーでお父さんに合格報告をした。歩いている間にお父さんから返事があって、おそらく時間があまりなかったのだろう、「おめでとうござる」という昔の漫画のスタンプが届いた。
 ひとまず更紗の方はOKと言うことで、二人で一緒に僕の家に帰って母さんに合格報告をした。
「よかったね!二人一緒に合格だなんて!今日はおめでたいから、夕食後馳走するわよ。綸子ちゃんとお父さんも呼んでね!」
と言って、喜んでくれた。そして、母さんはスマホを手に取ると、父さんにライナーを送ったみたいだ。
 暫く母さんと僕、更紗で話していると、母さんのスマホにライナーが届いたそうで、それを読む母さんの表情は、笑顔だけど、どこか申し訳なさが垣間見えた。
 そして、僕たちの方を向くと口を開く。
「更紗ちゃんのお父さんがね、今までたくさんお世話になったから是非ごちそうさせて欲しいって、お父さんに連絡したんだって。もうお店も予約したらしいから、是非にって。申し訳ないわ~」
 僕は更紗の方を見ると、更紗は笑顔で、
「はい、それは前々から家族で考えていたんです。『ずっと東条家のご厚意に甘えていたから、必ず恩返しをしよう』って。今日とは思わなかったですけど、是非とも恩返しさせてください」
と言って頭を下げるから、僕たちは「それなら、お言葉に甘えさせてもらうね」と了解した。
 その日の夜は、チェーン店でもかなり美味しいとの評判の焼き肉屋で、食べ放題を更紗のお父さんにごちそうしてもらって、みんな楽しい思いをした。

 翌日、僕と更紗はまた学校へ行く。正直行かなくても良いのだけれども、実のところ暇だというのが大きい。
 勿論、今日も午前中で帰る予定でいる。それは、合格証書をはじめとした、臨魁大学へ入学するための書類一式が郵送されてくるから確認をしたいと言うことだ。
 ただ、午前中はゆっくり更紗と図書室で、お互い読みたい本を読みながら過ごそうと昨日の夕食が終わって別れる際に二人で話し合って決めた。
 だから、僕たちは今、隣り合って肩が触れあいそうなくらい近い位置でお互いを感じながら本を読んでいた。とは言っても、あまり目立つ位置だと他の3年に申し訳ないから、あまり目立たない、図書室の隅の方で読んでいたのだけど。
 でも、やっぱり落ち着いて本を読んでいても、生理現象というのは待ってくれない訳で、
「ゴメン更紗、ちょっとトイレ行ってくる」
と小さい声で告げると、更紗も小さく「うん」と頷いて送り出してくれた。と同時に、2限目終了のチャイムが鳴る。
 図書室から出てちょっと言ったところにあるトイレで用を足す。その途中には三津屋さんの件で当時よくお世話になった自販機コーナーがある。行く時には誰もいなかったけど、用を足して戻ろうとトイレを出た視線の先、その自販機コーナーに一人の男子生徒の姿があった。
(瀬戸…)
 視線がぶつかる。先に反応したのは、瀬戸の方だった。
「東条、久しぶりだな」
 そういう瀬戸の声に、敵意はまったく感じられなかった。出会った当初にあった棘のある口調ではなく、穏やかな声だった。
「そうだね。あの一件以来か…」
「ああ。あのときの俺はホント、愚かだったよ」
 瀬戸は、少し苦しい表情になる。
「先生に怒鳴られ、怒られ、普通クラスへの転籍を言い渡された後、親父にも思いっきり雷落とされたんだよ」
 そういう瀬戸に僕は、
「最初は色々あったけど、噂には聞いているよ。よく持ち直したよな」と話しかけた。すると、瀬戸から
「あのあと、自分に正直になると言うことが、単なる我が儘を通すことじゃなくて、折り合いをつけることだと分かったから、かな。あとは、お前たちに迷惑をかけた申し訳なさもあったし、親から「お前は自分のやったことをきちんと身にしみるように学校に行け、休むことは許さない」と言われて…じゃないと勘当って言われたからね…さすがに行くしかなかったけど、それで行って白い目で見られて、それも当たり前と思ったら、今、自分にできることをやろうと自然に思ったよ。で、クラスで色々やっていくうちに、みんなが普通に接してもらうことができるようになって、ああ、東条の言っている事って、こういうことなんだなって実感した。だから、お前には感謝してもしきれない。ありがとう」
と言われた。自分のしたことを反省し、真摯に向き合うように自分を変えられたからこそ、瀬戸はこの1年持ち直して生活することができたんだ。
「礼を言われることを僕はしていないよ。瀬戸が頑張ったからだろ?僕なら心折れたと思うけど、君は本当に歯を食いしばって耐えて、今の状態になった。尊敬するよ」
 ほんの3,4分の言葉のやりとりだけど、彼が転校当初よりもずっと好感の持てる人間になっていたことが、僕は嬉しかった。
「ああ」
と瀬戸は返事をしてからさらに、
「でな、決定的に今みたいな思いを持てたのは、学校祭のベストカップルコンテストだよ。お前達のように、いつ見ても清々しい二人でも、別れそうになることがあったんだなって。それを聞いて俺は驚いたし、だからこそ、更に絆が深くなったんだろうって思っているんだ。羨ましいと思うのと同時に、ある意味理想だなって思った。相手は今はまだいねーけど、目標にさせてもらおうってな」
 そう続けるものだから僕は照れてしまって、
「いやいや、それは目標になるようなことはしてないぞ」
と言うけど、瀬戸は「それは、俺が勝手に思っていることだから、そういうことにしておいてくれ」と言われ、僕はまあそれなら、と頷きつつ、ちょっと気になることを聞いてみた。
「でさ、瀬戸はどこの大学に行くつもりなの?」
 すると瀬戸は、
「ああ、俺は県外に行くよ。って言っても、お隣だけどな。望月工科大って聞いたことあるか?」
と逆に僕に聞いてきた。僕は首を振って、
「ごめん、知らないんだ。工学系に進むことはないと思っていたから、そっちの方は見てなくて」
と言うと、瀬戸は「そうか」とつぶやいてから、
「いやな、そこの大学の情報系って、ホワイトハッカーを養成するICT研究が盛んらしくてな。そういう道に進もうと思っているんだ。やっぱり、自分のやったことは卑怯だったから、そういうのをきちんと見破る人間になることが自分の中で必要って言うか…」
と続ける。僕は、その瀬戸の言葉に頷いて、彼が言いたいだろうことを推測して口にする。
「でも、それが自分への罰になるようじゃ、ダメだと思う。本当にそのことを目標にするなら、楽しくやらなきゃ。人生辛いことだらけだと荒むよ」
 すると瀬戸はハッとした顔になって、
「そうだな。実際パソコンいじりは好きだから、楽しまなくちゃな。ありがとな、東条。また助けられた」
そう言って、瀬戸は右手を出してくる。僕は、その手を握り、
「こっちに戻ってくるときもあるんだろ?その時は、パソコンの話を色々聞かせてよ。僕もパソコン好きだしね」
と言うと、瀬戸は空いていた左手で僕の背中をぽんと叩き、
「ああ、楽しみにしてるぜ、その時を。じゃあな」
と言う。そして僕達は、そのまま別れる。
 お互いの行き先が違うように、向かう方向も違うけど、人生を謳歌したいという想いは同じ方向を向いたのではと思う。また会う時を楽しみにしてるよ、本当に。

<HR>

 そして、卒業の日を迎えた。
 この日を待っていたわけじゃないのだけど、もうそんな日なんだって思うと、とても不思議な気分。
 この学校に転校してから約1年半。本当に駆け抜けたんだという実感がある。
 慎吾と初めて会話して、学校を案内してもらって、一緒に帰った日。
 優姫ちゃんにあらぬ逆恨みをされたけど、中田くん共々慎吾や矢野くんと解決したこと。その直後に慎吾に告白されたこと。
 バドミントンの練習試合のあとで、私から慎吾に告白してつきあい始めたこと。
 それからもいろんな所へデートに行った。キスもした。部活も一生懸命に打ち込んだし、引退直後の修学旅行も楽しんだ。
 でも、あの夏の出来事だけは、私もうかつだったし、反省することは多々ある。今も一緒にいられることに矢野くんや夢衣ちゃん、そして当の慎吾に感謝だよ。
 そして、文化祭ではベストカップルコンテストで優勝して、メイド喫茶頑張って…。
 ああ、ホントいろんな事があった。最近も共テの追試験直後に慎吾に助けてもらって一緒に帰ったし、入試も何とか一発で合格できて、慎吾と喜んだ。

 …いつも側には、慎吾がいた。

 そんな慎吾と、これからもずっと一緒に過ごしていくのだろう。大学に入っても、専門科目以外の授業はほぼ一緒に授業を受けるような時間割を組むだろうし、サークル活動やバイトだって一緒にやっていくと思う。
 そして、同棲も始めることになる。
 勿論、これまでも一緒に過ごしていたから不安がないと言えば嘘になる。夜の生活を共にするのは初めてなんだから、そこだけは不安だ。
 でも、そんなのは過ごしてみないと分からないから、まずやってみて、問題があるなら話し合えば良いんだ。
 そう思いながら、城西商店街の入り口で、慎吾を待った。お父さんは残念なことに会議が始まる時間に卒業式が終わるみたいだから、卒業式そのものには参加できないけど、学校はリモートでの参観を許可してくれているから、「それだけは見せてくれって上司にお願いをして許可を得たよ」と仕事場から見るようだ。
 だから、今日は慎吾のお母さんが送ってくれて、一緒に帰ることになっている。
 ホント、恋人同士になってから、ず~っとお世話になってしまった、私と綸子にとっては、第2の母のような存在。
「お母さん、今までありがとうございました」
 そう車の中で言うとお母さんは、
「なぁに?そんな別れるんじゃないかって感じの言葉は。まだまだ世話を焼きたいのよ、可愛い娘みたいなものなのだから」
と笑うから、「はい。これからも、綸子共々よろしくお願いします!」と元気に言うと、お母さんは笑顔を浮かべて、「うんうん。こちらこそ、よろしくね」と口角を上げていたっけ。
 学校に着くと、校門には「令和○年度卒業式」という看板が立てかけられており、親子連れの3年生や、花束を持った1,2年生が校舎へと吸い込まれていく。
 私たちも例外ではなく、生徒玄関から校舎へ入っていく。次にこの玄関を出るとその次にこの玄関に入るのは、何年後になるのかな…なんて思ったりもしてしまう。
 そう思うと、切ない気持ちがわき上がって、ちょっと目頭が熱くなってきた。
 そんな私の表情を見て、慎吾は優しい笑顔を向ける。
「更紗、まだ早いよ。でも、その気持ち分かるな。寂しいよね」
 そんな慎吾に、私は「うん」と頷く。お母さんも、「そうよね。その気持ちは大事にとっておきなさい。私は、一足先に体育館であなたたちが入ってくるのを待ってるわね」と言って、体育館へと足を向けた。
「行こうか」「ええ」
 私たちは、教室へ向かう。教室の前で、「またあとで」と慎吾と別れ、文系クラスの教室に入ると、そこにはすでに何人も級友がいる。角田さんもいるし、何より一番の親友の夢衣ちゃんと矢野くんの姿もある。
「おはようございます、更紗さん。あっという間の3年…いえ、1年半でした。更紗さんと会ってから、私の人生も変わりました。慎吾くんと同じように、私もある意味、更紗さんに一目惚れしたようなものですから」
 夢衣ちゃんがそういうものだから私はちょっと驚く。
「そうだったんだ」
「はい、一目惚れというか、話しやすそうというか…波長が合いそうな感じを受けたんです。だから、紗友梨さんや和子さんに話をして、一緒にお昼食べるようにしてもらったんですよ」
「私も、夢衣ちゃんと話をして波長が合いそうだなって思ったよ。趣味とか全然違うのにね」
 私の言葉に夢衣ちゃんは再び笑顔になって、
「はい。だから、これからも、親友でいて下さい」
 夢衣ちゃんの告白に、私は「勿論!これからもよろしくね」と同じように笑顔を向ける。
「ホント、こっちが見ていて盗られるんじゃないかって思うくらい夢衣は大原のこと好きなんだよな」
 矢野くんの言葉に私は「あはは」と苦笑いを浮かべるけど、
「でもな、仲が悪いより仲が良い方が勿論良いからな。慎吾共々、二人にはこれからも世話になると思うから、よろしく頼む」
 そんな矢野くんに、私は「分かったわ。矢野くんも、慎吾のことよろしくね」とお願いした。と、それと同時に朝礼のチャイムが鳴る。
 同時に、南東先生が入ってくる。教室は話を中断して急いで席に戻る生徒の動きで慌ただしくなる。
「きりーつ」
 結局1年間級長をすることになった矢野くんの気の抜けた号令で、私たちは席を立ち、
「礼。おはようございます」
の声に続いて「おはようございます」と挨拶をし、着席する。
「おはよう、みんな。いよいよ卒業式だね。9時に入場だから、あと15分したら教室を出て体育館の横に整列するから、この朝礼が終わったらトイレ行っておけよ。まだ寒い時期で、体育館も1時間前から暖房をかけてるけど簡単に暖まらないからな、寒いと思って行ってくれ」
 私たちは先生の言葉に頷いて、朝礼が終わるとそれぞれ教室を出て体育館に向かった。
 式典という緊張感と、卒業をするという寂しさで、私たちの大多数は無言になる。それは、理系クラスも同じだったみたいで、慎吾の姿を見ると、その周りの紗友梨さんや和子さんも少しばかり顔が強張って、理系クラスのみんなも黙りこくっている感じだった。

 そして、式は始まる。
 卒業生入場に始まり、卒業証書の授与。名前が呼ばれ、一人一人立ち上がる。そして、クラス全員が読み上げられるとその中の代表者――総代と呼ばれるんだけど――が壇上に上がって校長先生から卒業証書を受け取る。私たちのクラスの総代は矢野くん、理系コースは紗友梨さんだった。
 送辞に答辞。答辞は、前生徒会長の仙台君が述べていた。
「私たちはこれからも、混迷の時代を生きていくことになると思いますが、そんな中でも真心と、たくましさを持って生きていきます」という台詞は、本当にそうだと納得したし、その日の夜に慎吾と話をして、これをこれからの目標にしていこうと誓ったのはまた別の話。
 それから校長先生の話とPTA「魁の会」会長の話…。話を聞いていると身が引き締まる。これからの私たちへの期待と心配を感じた。
 話を聞いたあとは、校歌斉唱…今後、これを歌うのは同窓会くらいなのだろうな…。寂しさがこみ上げてきて、中には泣いているのか、鼻をすする音が聞こえてきて、私も少しもらい泣きのように涙がこみ上げてくる。
 そして、いよいよ退場。私の涙腺は、もう崩壊していた。声を上げないように我慢するだけで精一杯。涙は次々溢れてくる。でも、「教職コース文系クラス、退場!」の声には自然と反応し、席を立ってみんなと一緒に並んで歩き出した。ふとあげた視線の先に、慎吾のお母さんを最前列で発見するけど、私は「うんうん」と頷くだけで目元をぬぐうだけで精一杯だった。
 突然先頭にいた矢野くんが足を止める。そう言えば、伝統的にここで足を止めて教師陣に向けてお礼を言うんだった。
「ありがとうございました!」
と言う矢野くんの号令に会わせ、私たちはその時の一番大きな声で「ありがとうございました!」と叫んでから、退場していった。
 それが逆にスッキリしたのか、体育館を出た私の顔は、笑顔になった。

<HR>

 式は何事もなく終わり、教室に戻る。みんな、明日の希望に燃えている、と思うのは言い過ぎだろうか?みんなの話し声に活気があるなと感じると、そう思える。
「東条くん、免許取りに行くんでしょ、更紗さんと」
 その活気の中で、大木さんが僕に話しかけてきた。僕は、「ああ、更紗と一緒にね」と言って、笑みを浮かべる。
「大木さんこそ、免許取りにもう行っているんじゃなかったっけ?」
と聞いてみると、大木さんは「うん、そうね」と言う。彼女は、県外の国立大学に推薦で合格していたから、年明けから少しずつ夜を中心に授業をとっていたらしい。
「明日卒検なんだ。合格したら即公安で、最短明日で免許撮れるよ」
と言うから、「おお、それはすごい、頑張って」と励ますと、「ありがと。更紗さんと二人三脚で東条くんも頑張って」と答えてくれたから、僕も「うん、ありがと」と答えた。
 とそこで、担任の先生と保護者の皆さんが教室に入ってきた。各々、自分の席に戻って最後のLHの時間を過ごす。早速、春日先生が話し出す。
「まずは、卒業証書を渡すぞ~相生和巳!」
 相生が教壇の前に出て、春日先生から卒業証書とそれを入れる筒をもらう。
「あと、卒業証明書な。特にそれ、大学に出す書類の一つだからなくすなよ~」
と、言いながら笑顔の春日先生に、僕達もつい笑顔になる。
 僕の番になり、卒業証書を受け取る。
「ここに戻ってくるのを待っているからな」
と言う言葉をかけられたのは、教員として戻ってこいという意味なのかなと思う。僕は「はい!」と返事をして自分の席に戻った。
 そして、全員に卒業証書を配り終えると、春日先生のトークタイムに。
「とうとう卒業だ。まあ、この教室にいる連中の半分は臨魁大に残るから、いつでも顔を合わせることができるので、言いたいことが言えるが、そういうみんなにも、それ以外のみんなにも、言っておきたいことがある」
 教室に、一瞬だけ緊張が走った。
「希望をずっともって生きて行け。自分が何になるのか、ここでずっと考えてやってきたのだから、後はそれを全とうできる様に努力するんだ。大学に入ってから、自分のやりたいことができなくて途方に暮れたり、大学に入ったことを後悔したり、別のことがやりたくなって迷うこともあるだろう。
 けれども、そうやって悩んできたことは、絶対に人生の中でマイナスになることはない。逆にプラスに作用するんだ。それを忘れずに、これからの生活を送っていってほしい」
 先生の熱の入った言葉に、出ていく生徒ばかりか、僕たちのように残る生徒も胸が熱くなってきた。保護者の中にも同意する声や気配をかすかに感じた。
 そして、先生は最後にこう付け加えた。
「たまには会いに来い!俺は、おまえたちが来るのをいつでも待っているからな。悩みがあったらいつでも来い!俺が力になってやるからな。これで、最後のLHを終わりにする。
 みんな、元気で!」
 先生の言葉を合図に、みんな席を立つ。そして大木さんが、
「三年間、ありがとうございました」
と言い、それにみんなが唱和した。
「ありがとうございましたあっ!」
 そして各々、卒業証書を手に教室から出ていく。
 未来への扉をくぐっていく。
「さ、更紗を迎えに行こう。母さん呼ぼう」
と発したら、背後から、
「さ、慎ちゃん、更紗ちゃん迎えに行くわよ」
と言う母さんの声。同じことを考えていたのにちょっと驚きつつも、僕は振り向かずに「うん」と頷いて、理系クラスの扉をくぐった。
「必ず、ここに戻ってくるよ」
 そう誓って――

<HR>

 高校生活最後の生徒玄関から出て行く私たちの眼前には、在校生の姿があった。
「先輩!卒業おめでとうございます!」
 その在校生の中に、英ちゃんと南部君もいる。英ちゃんが、私や他のバド部メンバーに花束を用意してくれた。英ちゃんは私に、南部君は慎吾にそれぞれ渡してくれる。
「ありがとう、英ちゃん、南部君」「ふたりとも、ありがとう。また会いに行くよ」
 私たちはそう言うと、二人もちょっと目の端に涙を浮かべながらも笑顔で、
「だって、臨魁大ですものね!近くにいるんですからまた会いに来てくれるんですね!待ってます!」と言う英ちゃん。そして、「ええ、僕はまだまだ団体メンバーに選ばれるほどの力はありませんが、次の新人戦には絶対メンバーになれるよう頑張ります!」と慎吾に力強く伝えてくれる南部君。
 それに私と慎吾は頷いて、「絶対に行くから、待っててね!」「大丈夫、努力は裏切らないよ。また教えに行くよ」と笑顔で言い、私から「じゃあ、4人で写真撮ろうよ!」と、4人で近づいて私はスマホを取り出す。
「はい、チーズ!」
 インカメラで写真を撮る。それを皮切りに、「僕も」「「私も」「俺も!」と慎吾も英ちゃんも南部君も、それぞれスマホを取り出して自撮りをする。
 一瞬の楽しい時間。でもそれも終わりを迎えて寂しくなる。
「それじゃ、またね」
 英ちゃん達にそう言って、私たちは校門を出ようとする。でもその時、慎吾が私を呼び止めた。
「?どうしたの、慎吾?」
 慎吾は私の顔をじっと見つめて、「最後に挨拶しようよ、この学び舎にさ」と、校舎の方を向く。
「そうね」
と、私も頷いて校舎の方を向いた。
「それも良いわね、私も伊緒奈と晴城、そして慎吾とずっとお世話になってきたから、私も挨拶するわね」
と、お母さんまで並ぶ。
 そして、慎吾が、
「お世話になりました、ありがとうございました!」
と叫ぶように大きな声で挨拶するから、私もお母さんも、
「ありがとうございました!」
と慎吾に負けないくらい大きな声で挨拶をした。
 周りは一瞬静かになったけど、すぐに拍手と、他の卒業生も私たちに習うように、校舎に向かって「ありがとうございました!」とお礼を叫ぶ声が聞こえる。
「さ、行こう!新しい生活に!」
 慎吾は笑顔になって校舎に背を向ける。
「うん!ずっと付いていくわね!」
 私も慎吾に返して駆け出す。
「駐車場すぐそこなのに、元気ね~」
 お母さんのちょっと呆れた声が聞こえた気がするけど、それは慎吾にも聞こえたようで、
「ははっ!でも、これからが楽しみなんだよ!」
とお母さんに返して駐車場に向かう。
 その先に、夢衣ちゃんと矢野くんがいる。二人もそれぞれのご両親と笑顔でいる。
 その輪に私たちも加わる。
 これからも、とても楽しい時間を過ごしていくだろう。
 私はこれからも大好きな人と一緒に側にいる。
 長くなった髪の毛を掻きあげながら、青い空を見上げる。

 これが、私と慎吾が二人で幸せになる物語。
 それは、これからもきっと続いていく――

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